↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
閑話集

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

184/211

A級試験開始

 翌日。僕とリュカ、それにコウの三人は、朝から冒険者ギルドへと向かっていた。昨日の話が、ずっと頭の中をぐるぐるしている。A級試験——その響きだけで、少しだけ胸がざわつく。


 ギルドの扉をくぐり、ロザさんのもとへ向かうと、すでに手続きの準備は整っていた。


 「来たわね」


 ロザさんはそう言って僕たちを席へと促し、そのまま静かに説明を始めた。


 


 まず教えられたのは、試験の始まりについてだった。


 書類にサインをした瞬間、その時点でA級試験は開始される。(サインした瞬間から……)思っていたよりも、ずっと曖昧で、ずっと怖い。


 


 「とはいえ、すぐに何かが起きるとは限らないわ」


 ロザさんは淡々と続ける。


 「その場で始まることもあれば、しばらく何も起きないこともある。気づいた時には、もう試験の中にいる——そんなこともあるのよ」


 


 僕とリュカは、思わず顔を見合わせた。


 コウも腕を組みながら、ふん、と小さく息を鳴らす。


 (……気づいたら、試験中)


 それはつまり、油断していたら、それだけで失敗する可能性があるってことだ。


 さらに、試験の種類についても説明があった。


 A級試験には大きく分けて二種類ある。


 ひとつは通常試験。開始や終了のアナウンスがあり、場合によっては試験内容やクリア条件が説明される。


 そしてもうひとつ——ステルス試験。


 


 こちらはその逆で、開始も終了も告げられない。


 試験であることすら明かされないこともある。


 (……それ、どうやって気づくんだろう)


 思わずそんなことを考えてしまう。


 


 ロザさんは僕たちの表情を見て、少しだけ口元を緩めた。


 「だからこそ、常に、A級に相応しいか見られている。と思って動く必要があるのよ」



 その言葉に、背筋がすっと伸びる。


 そして——もっとも大事なことも、そこで告げられた。



 「A級試験は、命の保証がないわ。だから、試験の内容を見て無理だと思ったら、その場で参加しなくてもいいの。逃げたとしても、それだけで不合格にはならないわ」


 (逃げてもいい……)


 それは優しさなのか、それとも——試されているのか。


 どちらなのか、すぐにはわからなかった。



 そして最後に、試験の終了についても説明された。


 A級試験には明確な合格条件がある。


 


 試験官は十人。


 そのうち八人以上から合格をもらえばA級合格。


 逆に十人全員から不合格を言い渡された時点で終了。


 あるいは、自分から辞退した場合も同じだ。


 


 「それ以外は?」


 リュカが思わず口を挟むと、ロザさんはほんの少しだけ目を細めて答えた。


 


 「……続けることができるわ。終わりが来るまで、ずっとね」


 

 (ずっと……)


 その言葉が胸の奥に沈んでいく。


 どれくらい続くのかもわからない。

 何をさせられるのかもわからない。


 ただ——試され続ける。


 それが、A級試験。


 僕は無意識に拳を握っていた。


 隣を見ると、リュカも同じように真剣な顔をしている。


 その空気を、ふっと緩めるように——


 コウが口を開いた。


 「要はだ、A級に相応しいって試験官の八割が納得すりゃ合格。逆に全員が不適格だって判断したら不合格、ってことだろ」


 腕を組み、軽く肩をすくめる。


 「ハル、リュカ。そんなに構える必要はねえよ」


 ちらりと僕たちを見て、少しだけ口元を緩めた。


 「この試験はな、無理なことをやらせるためのもんじゃねえ」


 言葉を選ぶように続ける。


 「たぶん見てるのは——A級に相応しい人間かどうか、それだけだ」


 


 その声は、どこか落ち着いていて。


 不思議と、すっと胸に入ってくる。


 


 「今の時点で何か足りなくても、致命的に欠けてるもんがなけりゃ、そこが育つまで待つ……そんな感じだな。少なくとも、悪意は感じねえ」


 

 その言葉に、僕は思わず顔を上げた。

 すると、ロザさんがやわらかく微笑む。


 「そうね」


 ゆっくりと頷きながら、


 

 「そんなに難しく考えなくていいのよ。今できることを、今のあなたたちの考えで選べばいい」


 

 視線がまっすぐに向けられる。


 

 「それで十分よ」


 

 その言葉に、胸の奥がすっと軽くなる。



 僕とリュカは、顔を見合わせて——


 

 「……なるほど」



 ほぼ同時に、そう呟いていた。


その様子を見て、ロザが小さく頷く。



 「じゃあ」


 机の上に置かれた書類に、そっと指を添える。


 


 「特にもう聞きたいことがなければ——これにサインしてくれるかしら?」


 

 差し出された書類。


 

 それはただの紙なのに、なぜか重く見えた。


 

 僕は一度、息を吸って——


 リュカと目を合わせる。


 

 「……いくか」



 小さく頷き合い、



 「はい!」


 

 少しだけ緊張した声が、重なった。

 ペンを握る手に、ほんのわずかに力がこもる。


 ——ここから先は、もう戻れない。


 そんな感覚が、胸の奥に静かに広がっていた。

 

 隣で、リュカも同じようにペンを走らせている。


 ——そして。



 書き終えた瞬間。何かが変わった気がした。音もなく。気配もなく。


 けれど確かに——


 A級試験は、始まったのだ。

ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

https://ncode.syosetu.com/n3980kc/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。