ミナの能力
ハルの言葉に、カイルはふっと笑った。
「まあ、それだけじゃねぇけどな」
肩をすくめながら、少しだけ視線を遠くにやる。
「あの試験はな……担当する職員によって多少の差はあるが、それでもよくできてる」
言葉を選びながら続ける。
「強さだけじゃなくて、いろんなもんを見られるからな。あれを乗り越えりゃ、間違いなく一段上に行ける」
「それに——」
ほんの少しだけ口元を上げる。
「父さんたちが、ずっとついてやれるわけじゃねぇしな。修行には、ちょうどいいと思うぞ」
カイルは腕を組み、にやりと笑う。
「それを乗り越えりゃ、行ける場所も一気に増える」
わざとらしく間を置き、
「ハルは、ツムギさんたちにもっと珍しい素材を持って帰れるようになるかもしれねぇし——」
ちらりとリュカを見る。
「リュカも、今よりもっとレアな装備に手が届くかもしれねぇな?」
その言葉に、二人の表情がわずかに変わる。
ハルはぱっと顔を上げ、目をきらきらさせた。
「ねえ、リュカ!」
ぐっと身を乗り出す。
「こういうのってさ、なんでも挑戦してみるの大事だよね!」
さっきまでの空気が嘘のように声が弾んでいる。
「それにさ……A級になったらさ……!」
ぐっと拳を握る。
「今まで行けなかった場所とか、すごい素材とか……いっぱい取れるようになるんだよね?!」
さらにテンションが上がったハルの様子に、リュカが思わず吹き出す。
「やっぱりそこかよ!」
肩を揺らしながら笑う。
「まあ、でも……そうだな」
少しだけ真面目な顔に戻る。
「ついていけねぇのは悔しいけど、そもそも行けねぇならしょうがねぇしな」
にやりと笑う。
「だったら、こっちで強くなってやるよ」
「レアな装備でも何でも揃えてさ、合流できたときに“おおっ”て言わせてやる」
その言葉に、ハルも大きく頷いた。
そんな二人のやり取りを見て——
コウがくつくつと笑う。
「……現金なやつらだな」
けれどその顔は、どこか楽しそうで。
そのままちらりとカイルたちを見て、口元を緩める。
そして、小さな声でぽつりと呟いた。
「ま、安心して行ってこい。俺が、ちゃんと見てる」
その言葉は、軽く投げられたようでいて、確かな重みを持っていた。
「だからさ!その素材でさ——!」
「いやいや、それより装備だろ!」
声を弾ませながら、ああでもないこうでもないと楽しそうに言い合っている。
その賑やかな空気の裏で。
カイルは、そっとコウへ視線を向けた。
「……すまんが、頼む」
短く、しかし真剣な声音で言う。
コウは、ちらりとだけ視線を返し、
「ああ」
と、軽く応じた。
そのすぐ隣で、サイルも静かに微笑む。
「……ええ、お願いしますね」
カップを持ち上げながら、やわらかく続けた。
「私たちの——可愛い弟子たちを」
その言葉に、クロも「うむ」と小さく頷き、アオミネは口元を緩めた。
しばしの静かな間のあと、カイルがもう一度口を開く。
「……まあ、話さなきゃならねぇことは、だいたい話したが」
少しだけ視線を巡らせ、
「一応、ミナのことも話しておくか」
と続けた。
その言葉に、ミナとロザたちが一瞬だけ顔を見合わせる。
だが、誰も止めなかった。
カイルはゆっくりと語り始める。
「ミナはな……少し、変わった能力を持ってる」
静かな声だった。
「元々、戦闘力はほとんどねぇし、魔力もほぼない」
ハルの方を見る。
「それは、お前も知ってるな?」
「……うん」
ハルは小さく頷いた。
カイルはそのまま続ける。
「ミナの能力は——祈祷だ」
その一言で、空気がわずかに張り詰める。
「もともと、そういう一族の出でな。占いや祈り……呪いなんかも扱える」
少しだけ言葉を区切る。
「ただな……本人にも、相手にも危険な力だ。だから、ほとんど表には出してこなかった。
この世界は、基本的に等価交換で成り立ってるのは知ってるな?」
カイルは指先でテーブルを軽く叩く。
「魔力を使えば魔法が使える。強い魔法には、それだけの魔力が要る」
「珍しいものを作るなら、それに見合う素材が必要になる」
ゆっくりと、言葉を積み上げる。
「そうやって、全部バランスが取られてる」
そして——
「もちろんミナの力も、その例外じゃねぇ」
わずかに声が低くなる。
「何かを占うにしろ、祈るにしろ……何かを差し出さなきゃならない」
「効果を上げるほど、精度を上げるほど——その対価は重くなる」
カイルは、ゆっくりとハルを見た。
「ミナはな」
少しだけ目を細める。
「お前と、俺の運気を上げてた」
「……え?」
ハルの声が、かすかに震える。
「俺たちがいなくなってから……毎日だ」
静かに言い切る。
「きっとな、少しずつ運が底上げされてたからこそ、いろんなことが上手くいってたんだろう」
その言葉が、胸に落ちる。
ハルは、ゆっくりと視線を落とした。
「……もしかして」
ぽつりと呟く。
「その対価が……母さんに、跳ね返ってた……?」
カイルは、迷いなく頷いた。
「そうだ」
「俺たちの運が上がってた分、ミナの運は下がっていった」
——その瞬間。ハルの中で、何かが繋がる。
(……ああ)
思い返せば、いくつもあった。
ぎりぎりで助かったこと。
うまくいきすぎた出来事。
偶然とは思えないほど、良い方向に転がっていった数々の選択。
(ただ運がいい……って、思ってた)
何度も、そう感じていた。
(大丈夫、うまくいくって……思えるようになったのは、いつからだった?)
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
(母さんは——)
自分の知らないところで。
ずっと、差し出し続けていたのだ。
ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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