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【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
閑話集

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閑話 準備完了

 カイルは一度だけ言葉を選ぶように視線を落とし、それから静かに口を開いた。


 「……ご存知かもしれませんが、ハルの母親の目が、ここ最近どんどん悪くなってきていましてね」


 カップの縁を指でなぞりながら続ける。


 「それを治すのに、ひとつ心当たりがあるんです」


 バルドとエリアスは黙って耳を傾けている。


 「ロザたちと一緒に、ハルの母親を連れてダンジョンに潜ろうと思っています」


 そこでカイルは少し苦い顔をした。


 「ただ……そのダンジョン、ハルは入れない場所でして」


 言葉を切り、二人の顔を順に見る。


 「できるだけ早く戻るつもりではいますが、少し時間がかかりそうなんです」


 そして、まっすぐ二人を見た。


 「その間、あの子たちが安全に過ごせるよう……ハルとリュカに、少し目をかけてやってもらえないでしょうか」


 


 話を聞き終えたバルドは、すぐに大きくうなずいた。


 「そんなもの、お安い御用じゃ」


 ひげを揺らしながら、にこりと笑う。


 「むしろ、ハルがしばらくこっちにいてくれるなら、ワシは嬉しいくらいじゃて」


 その言葉には、職人としてというより、祖父のような温かさが滲んでいた。


 


 エリアスもカップを置き、穏やかに頷く。


 「それはもちろんです。できる限りのことはさせていただきます」


 そう言ってから、少しだけ考えるように首を傾げた。


 「ただ……ハルもリュカくんも、恐らく私たちより強いと思うのですが」


 淡い笑みを浮かべる。


 「護衛という意味では、少々頼りないかもしれませんね」


 


 その言葉に、カイルは小さく息を吐いた。


 「ええ。あの子たちは確かに強い」


 ゆっくりと頷く。


 「ただ……まだ小さい子供です」


 視線を少し遠くへやる。


 「ロザたちが言っていましたが、最近は名が売れてきているようで……ちょっかいを出してくる連中もいるらしい」


 カイルは再び二人を見る。


 「これまではロザたちが守ってくれていましたが、これからは職員ではなくなります」


 そして静かに言った。


 「だからこそ……一番信用できるPOTENの皆さんに、見守っていただけたらと思いまして」


 


 その言葉に、エリアスとバルドは顔を見合わせた。


 そして——


 エリアスがふっと微笑む。


 「そういうことでしたら、お役に立てそうですね」


 カップを指先で軽く回しながら、穏やかな声で続けた。


 「私はただの、しがない貴族に過ぎませんが」


 そこで、ほんの少しだけ視線を横へ流す。


 「エドはヴァルトシュタイン家ですし、バルドさんは元王宮魔導士です」


 にこりと笑いながら、ちらりとバルドを見る。


 「権力方面からの“抑止”くらいなら、十分に効くと思いますよ」


 


 その言葉に、カイルの動きがぴたりと止まった。


 「……エドが、ヴァルトシュタイン?」


 思わず聞き返す。


 エリアスは肩をすくめた。


 「ええ。本人はあまり言いたがりませんけどね」


 


 そのやり取りを横で聞いていたバルドが、のんびりとひげを撫でた。


 「わしは元、じゃからのう」


 少し苦笑する。


 「どこまで役に立てるかは分からんが……」


 そう言って、ゆっくりとカイルを見た。


 「ハルとリュカのことは、できるだけ面倒を見よう」


 そして柔らかく続ける。


 「安心して行ってくるのじゃ」


 その言葉は、飾り気がない分だけ、重みがあった。


 カイルは、ふっと肩の力が抜けたように息を吐く。


 そして静かに頭を下げた。


 「……ありがとうございます」


 顔を上げると、先ほどまでの緊張が少しだけほどけている。


 「これで、安心して旅立てそうです」


 


 それを聞いたバルドは、ひげを撫でながらゆっくり頷いた。


 「そうか」


 そして少しだけ声を低くする。


 「ハルのためにも、必ず無事で戻るんじゃぞ」


 カイルはまっすぐに頷いた。


 「はい。それはもちろん」


 力強く言い切る。


 「必ず、戻ります」


 その後もしばらく、三人は他愛のない話を交わした。


 最近のPOTENの仕事のことや、町で起きたちょっとした出来事。


 仕事の話とは違う、穏やかな時間だった。


 


 やがて日も傾き始め、カイルは椅子から立ち上がる。


 「では、今日はこれで」


 そう言って軽く手を挙げると、エリアスもバルドも静かに頷いた。


 


 POTENハウスの扉を開けると、外の空気はすでに夕暮れの色に染まり始めていた。


 石畳の通りの向こうで、ゆっくりと太陽が沈みかけている。


 


 カイルは空を見上げ、小さく息を吐いた。


 ——よし。


 これで、やれることはすべてやったな。


 準備は整った。


 


 あとは——


 ハルに伝えるだけだ。


 夕陽が町を赤く染めていく。


 その光を背に受けながら、カイルはゆっくりと家路へ向かった。

次回はついに新章が始まります


ツムギの物語はしばらくの間不定期更新、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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