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【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
閑話集

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閑話 粘着スライムの住処

ごめんなさい。うっかり更新忘れておりました。

 城下町の小道は、昼下がりの光にやわらかく包まれていた。

 石畳はほんのりと温かく、店先からは焼き菓子の甘い匂いが流れてくる。


 三人は並んで歩く。

 ハルの足取りは軽く、ナギはきょろきょろと周囲を眺め、コウはハルの肩の上で揺れていた。


 人通りが少しずつ減り、建物がまばらになりはじめる。


 城壁の外へ続く道に差しかかったところで、コウが小さく羽を震わせた。


 「よし、ここらならいいだろ」


 次の瞬間、ふわりと浮き上がる。


 以前のよたよたした様子はなく、今は風を受けて、すいっと滑るように飛んでいる。

 短い翼の飾りが風を切り、身体は軽やかに弧を描いた。


 「コウ、ますます上手くなったよね!」


 ハルが目を輝かせる。


 「僕も風属性だしさ、練習したら飛べるようになったりしないかな……」


 コウは空中でくるりと回転しながら笑う。


 「俺はな、元々泳ぎが得意な種類なんだよ。

 水でも空でも、感覚は似たようなもんさ」


 少し高度を上げ、得意げに続ける。


 「でもまあ、ハルも短時間くらいなら浮けるようになるかもな。

 エドとジンに作ってもらった、あのジャンプ力上がる靴、あるだろ?」


 ハルの目がぱっと輝く。


 「それ! いけるかも!」


 言うが早いか、ハルは靴底を軽く打ち鳴らし、魔力を流す。


 トン、と地面を蹴る。


 ——ひゅっ。


 一瞬だけ、身体が軽くなる。

 ほんの少し、ふわりと浮いた感覚。


 「おおっ!」


 ハルは嬉しそうにもう一度跳ねる。

 今度は少し高く、けれど着地はぎこちない。


 「わっ、とっと……!」


 ナギが横でくすくすと笑う。


 「ハル! あんまり高く飛んだら怪我するよー?」


 心配半分、楽しさ半分の声。


 「大丈夫大丈夫! ちょっと練習するだけだから!」


 そう言いながらも、さっきより慎重に跳ぶ。


 空を泳ぐコウと、地面を弾むハル。

 その横を、笑いながら歩くナギ。


 のんびりとした小道に、三人の軽やかな足音と、小さな笑い声が溶けていった。


 やがて城下町の気配が遠ざかり、草の匂いが濃くなる。


 前方には、ゆるやかな丘と、低木の群れ。


 ——その先に、ぷるりと揺れる小さな影が、見えてきた。


 「……あっ!」


 ナギがぴたりと足を止め、目をきらりと輝かせる。


 「あの影……もしかして、粘着スライム?」


 声はひそやかだが、興奮が隠しきれていない。


 ハルは嬉しそうに頷いた。


 「うんうん。見えてきたね」


 三人はそっと丘を上がる。

 草を踏み分けた先には、湧き水がこんこんと湧く小さな水たまりがあった。直径二十メートルほどの、澄んだ円。


 その縁で——


 薄く緑がかった透明なスライムたちが、ぷるぷると揺れている。


 水面に滑り込むと、身体はさらに透明になり、まるで水そのものに溶け込んでしまったかのようだ。


 「かわいい〜!!」


 ナギが思わず声を上げる。


 「ぷるぷるが水浴びしてる! 透明だから、水に入ると消えて見えなくなるんだね。面白い〜!」


 水面が小さく波打つたび、ぷるり、と光が揺れる。


 ハルは得意げに解説を始めた。


 「そうなんだよー。粘着スライムってさ、ベタベタしてるからすぐゴミがくっついちゃうらしくて。だから一日一回、脱皮みたいに薄皮を剥がして、水浴びするんだって」


 水際で、薄い膜のようなものがひらりと剥がれ落ちるのが見えた。


 「きれいにした後はね、今度は砂浴びするんだよ。細かい砂をまとって、サラサラにするんだって」


 「へぇ〜!」


 ナギはしゃがみ込み、顔をぐっと近づける。


 「ゴミがつくのが嫌なのはわかるけどさー……サラサラにしちゃったら、粘着スライムじゃなくなっちゃうね?」


 くすり、と笑う。


 ハルも笑い返す。


 「それがね、一部分だけはちゃんと粘着を残しておくんだって。そこから草とか葉っぱをくっつけて、ぺたって巻き取って食べるらしいよ」


 水面の向こうで、小さなスライムがぴたりと草を吸い寄せ、ゆっくり取り込んでいく。


 「賢いよね!」


 ナギは目をまん丸にする。


 「思ってたより戦略的……!」


 その横で、空から降りてきたコウが腕(のような翼)を組む。


 「ほーう。ベタベタしてるくせに、身だしなみはちゃんとしてるってわけか。見習うべきところがあるな」


 「コウも脱皮する?」


 ハルが冗談めかして言うと、


 「俺は高貴な鳥だからな。脱皮じゃなくて羽の生え替わりって言え」


 胸を張るコウに、ナギが吹き出す。


 丘の上の湧き水は、きらきらと陽を反射していた。

 ぷるぷると揺れる粘着スライムたちは、何も知らずに、ただ静かに水浴びを続けている。


 三人は、その光景をしばらく、ただ見つめていた。


 やがて、ナギがぽつりと呟く。


 「ねえ……あの薄皮ってさ。当たり前だけど、テープより幅広じゃない?」


 ハルも目を細めて頷く。


 「うんうん。あれは加工前だからね。長さはまちまちだし、形も揃ってないけど……面積は広いよね」


 水際にひらりと落ちた薄膜は、陽に透けて、やわらかく光っている。


 ナギの口元が、にやりと上がった。


 「じゃあさ。あれそのまま持っていったら……テープぐるぐるしなくても、一瞬で針金に巻けるんじゃない?」


 コウが空中でくるりと一回転する。


 「おお、確かにそうだな。汚れは落とさなきゃならねぇだろうが……一巻きで終わるな。作業時間、爆速だぞ」


 ハルはぱっと顔を明るくした。


 「僕、前に取ったことあるよ! 水で洗えば汚れはすぐ落ちるし、粘着力もちゃんと復活するんだ」


 「ほんと!?」


 ナギの目がきらりと光る。


 「じゃあ——その作戦でいこう!」


 小さく拳を握る号令とともに、三人は水辺へそっと近づいた。


 


 脱ぎたての薄皮は、水面や砂の上に静かに落ちている。

 粘着スライムたちはというと——


 ぷるん、と震えるだけで、まるで三人の存在を気にも留めていない。


 「……慣れてるね」


 ナギが小声で言う。


 「この辺の人、よく採集に来るからかな」


 ハルはそっと膜を拾い上げ、湧き水でやさしく洗う。

 砂や小さな葉が流れ落ち、透明な薄膜がつるりと姿を現す。


 「ほら、きれいになった」


 コウが感心したように覗き込む。


 「ほんとだ。ベタベタ復活してやがる」


 洗ったものから順に、ハルのポシェットへ。

 ナギは形の良さそうなものを選び、コウは風でそっと水気を飛ばす。


 小一時間もすると、十分な量が集まった。


 ぴょん、と小さな粘着スライムが跳ねる。


 ハルは思わず笑って手を振った。


 「ありがとうね!」


 すると——


 ぷるん、と数体のスライムが揺れ、ぺこり、と小さく傾く。


 まるで、お辞儀のように。


 「……え、今の」


 ナギが目を丸くする。


 コウも目を細める。


 「どういたしまして、って顔してやがるな」


 三人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。


 「また来るね!」


 ハルが言うと、スライムたちは再び水面に溶けるように戻っていった。


 


 帰り道、陽は少し傾きはじめていた。


 ナギがふと口を開く。


 「ねえ、ハル。スライムって、特別な個体じゃなくても意思疎通できるんだね。びっくりしたよ」


 ハルは首を傾げる。


 「うーん……僕は普通だと思ってたけど」


 コウが肩をすくめる。


 「いや、普段はあんな反応しねぇんじゃねえか? ハルは魔物に好かれるんだよな」


 「そうかな?」


 少し照れたように笑いながら、ハルは言う。


 「僕、テイマーの素質もあるみたいだし……そのせいかも」


 ナギはにやにやしながら頷く。


 「スライム同盟、ますます強固だね」


 「だな」


 コウがくくっと笑う。


 夕方の風が、やわらかく丘を撫でる。


 三人は並んで歩きながら、今日の収穫と、これから作るモフモフのお守りのことを語り合った。


 工房では、待っているキットたちがきっと静かに出番を待っている。


 ——こうして、粘着スライム採集の小さな冒険は、無事に幕を閉じたのだった。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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