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【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
閑話集

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閑話 ナギともふもふキット

 その日の朝は、いつもより少しだけ早く、POTENハウスの工房に灯りが入っていた。


 作業台を囲んでいるのは、ナギとハル、そしてハルの肩にちょこんと乗ったコウ。


 今日は《モフモフのお守りキット》の制作日だ。


 ハルが細い針金を手に取り、慎重に粘着スライムテープをくるくると巻いていく。

 指先に集中していると、テープの透明な艶が、朝の光を受けてきらりと揺れた。


 「このくらい……かな」


 そう呟いた瞬間、待ってましたとばかりに、ナギの手が伸びる。


 「うん、いい感じ」


 ナギはその針金を受け取ると、迷いのない動きで毛糸を添え、くるくる、くるくる。

 まるで踊るような指先で、柔らかな毛糸が次々と絡め取られていく。


 「あっという間にモフモフになるね……」


 ハルが感心したように言うと、ナギは小さく笑った。


 「こういうのはね、勢いも大事なの」


 その様子を、コウはじっと見つめていた。

 目をきらきらさせながら、しばらく黙っていたかと思うと、ぽつり。


 「……俺も、なんかやりてぇな」


 そう言って、ぴょこんと作業台に降り立つ。


 ハルが思わず笑う。


 「じゃあ、コウは仕上げ係ね」


 用意されていたのは、小さな魔石のかけらと、魔法陣スライス魔石、そして完成したモフモフ針金。

 コウはそれをひとつずつ揃え、袋に入れて、丁寧に個装していく。


 短い翼で袋を押さえ、くちばしで向きを整え、最後に——満足そうにうなずく。


 「……よし。これは縁起いいぞ」


 「どこ情報なの、それ」


 ナギがくすっと笑うと、コウは胸を張った。


 「精霊の勘だ」


 そんなやり取りをしながら、作業台の上には、少しずつモフモフのお守りキットが増えていく。


 三十セットほど仕上がったあたりだろうか。


 作業台の端に置いていた粘着スライムテープの束を手に取り、ハルが眉を下げた。


 「あっ……」


 少しだけ慌てた声で、テープの残りを指で確かめる。


 「あー……これ、もうすぐ無くなりそうだ。買いに行かなきゃ」


 その言葉に、ナギが毛糸をまとめながら顔を上げた。


 「あー、やっぱり? このキット、思ったより粘着テープ使うもんね」


 作業台の上に並ぶモフモフたちを見渡して、納得したようにうなずく。


 「雑貨屋さんに行けば、たぶん普通に売ってると思うよ」


 「だよね。午後、行ってこようかな」


 そう言いながらも、ハルは手を止めず、次の針金にテープを巻き始める。


 その様子を眺めていたナギが、ふと首をかしげた。


 「……ねえ、ハル」


 「ん?」


 「その粘着スライムのテープってさ……粘着スライム、そのまま使ってるの?」


 一瞬、コウの動きも止まる。

 小さな魔石を袋に入れたまま、興味深そうに耳を傾けていた。


 ハルはくすっと笑って、首を横に振る。


 「ううん、違うよ」


 テープを指で軽く引っ張りながら、説明を始める。


 「粘着スライムってね、実は一日に一回、脱皮みたいに薄皮が剥けるんだって」


 「脱皮……」


 ナギが目を丸くする。


 「その剥けた薄皮を拾ってきて、ちょうどいい幅と長さに揃えたのが、粘着スライムのテープなんだよ」


 「へぇ……!」


 ナギは思わず声を上げた。


 「だからテープ状で売ってることが多いんだ。たまに液体のも見るけど、あれちょっと高いもんね」


 「うんうん」


 ハルはうなずきながら、針金をくるりと回す。


 「液体にするには、一回鍋で煮るらしいんだけどね」


 「へぇ……」


 「でも、密閉しておかないとすぐ固まっちゃうし、扱いが大変みたいなんだ。テープに切るより、ずっと手間がかかるって聞いたよ」


 ナギは感心したように息を吐いた。


 「なるほどね……。素材としては便利だけど、加工は意外と大変なんだ」


 その会話を聞いていたコウが、袋詰めの手を止め、ぽつりと呟く。


 「……スライムも、意外と繊細だな」


 「でしょ?」


 ハルが笑って返すと、コウは「ふむ」と一つうなずき、また作業に戻った。


 作業台の上では、モフモフのお守りキットが静かに増えていく。

 素材の話をしながら手を動かす時間は、いつの間にか、工房の空気そのものをやわらかくしていた。


 ふと、ハルが手を止める。


 針金を持ったまま、少し考えるように視線を上げ、ナギの方を見た。


 「……そういえばさ」


 ナギが毛糸を整える手を止め、顔を上げる。


 「確かナギさんって、スライム好きだったよね?」


 一瞬きょとんとしたあと、ナギはぱっと表情を明るくした。


 「うんうん! 好き好き!」


 勢いよくうなずいて、楽しそうに笑う。


 「あのプルルンってした姿がさ、もう、たまらなく可愛いんだよね。

 ……そういえばハルと“スライム同盟”作ったよねー?」


 「うんうん!作った作った」


 ハルは、どこかいたずらっ子みたいに口の端を上げる。


 「じゃあさ……あの時に言ってとこ、覚えてる?」


 ナギが首をかしげる前に、ハルは少し身を乗り出した。


 「魔導スライム見に行く約束、してたじゃん」


 「あっ……!」


 ナギの目が輝く。


 「魔導スライムじゃないんだけどさ」


 ハルは続ける。


 「ちょうど粘着テープも必要だし、粘着スライム、見に行ってみない?」


 コウがぴくりと反応する。


 「城下町を出て、二十分くらい歩いたところにいるんだよ。

 全然危険な場所じゃないし、あの子達、ほんとに可愛いんだ」


 ぷにっとした動きを思い出したのか、ハルは少しだけ声を弾ませた。


 「皮も自然に剥がれるから、無理に狩る必要もないしさ」


 その瞬間、コウが作業台から顔を上げる。


 「それ、いいな!」


 羽をぴょこっと揺らしながら、すっかり乗り気だ。


 「ちょっと体も動かしたいし、行こうぜ。

 チャチャっと取ってきて、また続きを作ればいいだろ?」


 ナギは一拍置いてから、信じられないものを見るようにハルを見る。


 「えっ……ほんとに?」


 そして、嬉しそうに笑うと、


 「実はさ、素材採集ってちょっと憧れてたんだよね。

 それについでにスライムと会えるとか……最高じゃん!」


 その言葉に、ハルとコウが顔を見合わせて、同時に笑う。


 こうして三人は、まるで最初から決まっていたかのように、

 粘着スライムの皮を取りに行くことになった。


 工房に残されたモフモフのお守りたちは、

 少しだけ続きを待つように、静かに並んでいた。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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