ハルの契約
ハルは少しだけ視線を落とし、それから意を決したように顔を上げた。
「クロさんとアオミネさんみたいな……共鳴型のテイムにしたいんだ」
肩の上のコウテイくんを、まっすぐに見つめる。
「僕も、コウテイくんと対等な関係でいたい。
守る側とか、守られる側じゃなくて……一緒に並んで歩ける関係がいいんだ」
一瞬、コウテイくんはきょとんとしたように瞬いた。
それから、ふっと口の端を上げる。
「……なるほどな」
小さな体を揺らしながら、どこか感心したように言う。
「それは正直、かなり嬉しい提案なんだが……うーん」
少し考えるように間を置き、続けた。
「ハル。共鳴型テイムってのはな、そもそも狙ってできるようなもんじゃねぇんだ。
長く生きてる俺でも、実例はほとんど聞いたことがねえ」
コウテイくんは前を向き、歩く景色を眺めながら言葉を重ねる。
「普通のテイムになったって、ハルが俺を尊重してくれるなら、
正直、共鳴型と大差ねぇとも思ってる。
そこまで気にすることでもねぇんじゃないか、とは思うけどな」
そして、くいっとハルの方を振り返った。
「……ま、いっちょ試してみるか?」
軽い調子で、けれどどこか楽しそうに。
「普通のテイムになっちまったら、その時は潔く諦めてくれよ」
そのやり取りを聞いていたリュカが、思わず吹き出した。
「ははっ! ハルはあんなに大真面目なのにさ、
コウテイくん、あんまり気にしてない感じだな」
するとコウテイくんは、当然だろ、と言いたげに肩をすくめる。
「そりゃそうだ。ハルがどんなやつか、俺はもう知ってるからな」
ちらりとハルを見る。
「俺の自由を奪いたくねぇんだろ?
でもな、普通のテイムになったとしても、
ハルが俺の自由を奪う未来なんて、これっぽっちも想像できねぇ」
その言葉に、リュカが深く頷いた。
「だよなー」
二人は顔を見合わせ、同時に「うんうん」と頷く。
コウテイくんが、ふとリュカを見て言った。
「お前とも、気が合いそうだな」
「だろ?」
リュカはニカッと歯を見せて笑う。
その様子を見ていたハルは、褒められているのか、からかわれているのか分からないまま、
頭をぽりぽりとかいた。
「もう……二人とも……」
けれど、その声には、困ったような笑いと、
確かな安心が滲んでいた。
対等であること。
並んで歩くこと。
その願いは、もうすでに、
少しずつ形になり始めていた。
肩の上で、コウテイくんが小さく息を吐く。
「……んじゃま」
軽い調子で、けれどどこか腹を括ったように言った。
「俺は、ハルにテイムされていいと思う。
だからハルも、俺をテイムしていいと思ってくれ」
ぽん、と小さな翼でハルの肩を叩く。
「普通のテイムなら、それで成立するはずだ」
その言葉に、ハルは一瞬だけ視線を伏せ、すぐに首を振った。
「……それだと、きっと普通のテイムにしかならない」
前を見据えたまま、はっきりと言う。
「だから——僕なりに、願ってみるよ!」
コウテイくんは、思わず目を細めた。
「……ハルはほんとにもう……」
呆れたような、でもどこか嬉しそうな声で呟く。
「ま、そこまで言うなら止めねぇけどな。
……じゃあ、行くぞ!」
合図のように言われ、ハルは両手でコウテイくんをそっと抱き上げた。
胸の前に引き寄せると、その小さな温もりが、確かに伝わってくる。
(アオミネさんは……
対等でありたい、ずっと相棒でいたいって思ったのかな)
歩きながら、ハルは静かに目を閉じた。
(僕も、もちろんそうだよ。
でも……僕らしい言葉で)
(コウテイくんは、守る存在でも、使う存在でもない。
一緒に悩んで、笑って、間違えて……
それでも隣にいてほしい存在なんだ)
胸の奥から、言葉が溢れ出す。
(だから——)
「コウテイくんと、絶対絶対、共鳴型テイムにしてください!」
思わず、声に出していた。
「それじゃなかったら……
テイムできなくても、いいです!」
ぎゅっと抱きしめた腕に、力がこもる。
その瞬間——
ふわり、と。
柔らかく、けれど確かな光が、二人の間から溢れ出した。
あたたかくて、まぶしくて、
まるで春の朝日のような光。
「おっ……?」
リュカは足を止め、思わず振り返る。
突然輝き始めたハルとコウテイくんを見て、
驚くより先に、ふっと口元が緩んだ。
「……はは。やると思った」
腕を組み、にこにこと二人を見守る。
一方、その光に気づいたロザたちも、足を止めた。
「……何か、始まったみたいね」
ロザが静かに呟き、
「テイム……いや、これは……」
サイルが眼鏡の奥で目を細める。
アオミネは腕を組んだまま、じっと光を見つめ、
クロは小さく息を呑んだ。
「これは……ただの契約では、なさそうでござるな……」
あたたかな光の中心で、
ハルとコウテイくんは、確かに向き合っていた。
対等であることを、
願いとして、選択として——。
やがて、光はゆっくりと収まっていった。
夜明けの霧が晴れるように、淡い輝きが空気に溶け、
その場には、いつもの静かな道と、並んで立つ二つの影だけが残る。
ハルの腕の中には、変わらぬ姿のコウテイくん。
けれど——何かが、決定的に違っていた。
言葉にしなくても分かる。
契約が、確かに結ばれたのだと。
「……終わった、みたいだな」
アオミネが一歩踏み出し、クロもその隣に並ぶ。
「初めてのテイム、どうだったでござる——」
そこまで言いかけた、その瞬間だった。
「おいおいおいおい!」
甲高くも低くもある、はっきりした声が割り込む。
全員の視線が、一斉に集まった。
コウテイくんだった。
小さな体をぷるぷる震わせ、
目を見開いたまま、信じられないものを見るように自分の胸元——いや、ハルの方を見上げている。
「ちょっと待て……待て待て待て……!」
「……コウテイくん?」
ハルが戸惑いながら呼びかける。
すると、コウテイくんはゆっくりとハルを見つめ返し、
次の瞬間、信じがたいことを口にした。
ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
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