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【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
父との日々

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コウテイくんの覚醒

 やがて——

 どくん、どくん、と鼓動のように震えていた光がゆっくりと収まっていき、

 代わりにコウテイくんのポーチそのものが、ぽうっと淡くふくらみ始めた。


 「……おい。膨らんできてないか?」


 隣のカイルが、喉の奥で驚きを押し殺しながら低くつぶやく。


 「うん……」

 ハルは瞬きすら忘れたように、目を離せずに答える。


 コウテイくんは、まるで見えない息を吸い込むように、

 ふくらんでは、また少し締まり、そしてまたふくらんで——

 その形が、だんだん“ただのポーチ”とは思えなくなっていく。


 布の表面がかすかに脈打ち、

 内側から命の鼓動が生まれているようにも感じられた。


 ロザが小声で息を飲み、

 リュカは剣に手をかけかけて、しかしそのまま固まる。

 クロはアオミネの影にそっと隠れ、サイルでさえ眉をひそめて見つめていた。


 そして——その時だった。


 ぽふん、と軽い音がして、

 コウテイくんの丸いフォルムがふわりと揺れ、


 むくり。


 まるで眠りから覚めた小さな生き物のように、

 ゆっくりと、確かに起き上がった。


 そして次の瞬間。


 「……よう、ハル。

 泣き虫のくせに、よく頑張ったじゃねぇか。」


 ——その場の時間が止まった。


 「……は?」

 「え……?」

 「しゃ、喋った……?」


 全員の視線が一点に集まり、

 ハルの両手の上で立っている小さなペンギン——コウテイくんへ吸い寄せられる。


 ハルは目を丸くしたまま、

 両手ですっぽりと支えながら震える声で問いかけた。


 「き、きみは……もしかして、ポシェットの願い石……?」


 コウテイくんは胸を張り、ちょこんと翼を広げる。


 「よく分かったな! そうだ……いや、

 “そうとも言い切れない”ってやつだな。

 オレはポシェットであり、コウテイくんであり、そして……アザルでもある。」


 「——ッ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、

 アオミネの反応は誰よりも速かった。


 しゃり、と鋭い音を立てて剣が抜かれ、

 迷いのない一歩でハルとコウテイくんの間へ割って入る。


 「待て。

 お前は……敵か。味方か。」


 鋭い眼光が小さなペンギンへと向けられる。


 しかしコウテイくんは、

 その切っ先にも臆することなく、むしろ呆れたようにため息をついた。


 「おいおいおいおい!

 アオミネの兄貴、それはねぇだろ。

 オレたち、さっきまで一緒にダンジョン歩き回った仲じゃねぇかよ。」


 「……仲?」

 アオミネの眉が動く。


 するとコウテイくんは、

 小さな胸をどん、と叩きながら言い放った。


 「まあ、分かるさ。混乱もするよな。

 長くはなるが、順を追って説明してやる。

 ちっとは落ち着けよ、兄貴。」


 その堂々たる態度に、

 誰もが返す言葉を失っていた——。


 静寂を破ったのは、コウテイくんの低い、しかしどこか温かみのある声だった。


 「いいか、お前ら。まず最初にまとめておくぞ。

 オレって存在は——アザルの記憶、願い石の記憶、コウテイくんとしての記憶、

 その全部が混ざり合ってできた“新しいオレ”だ。」


 ハルが息を呑む。

 アオミネは剣を構えたまま微動だにせず、じっと耳を傾ける。


 コウテイくんは、ふわりと翼を広げながら続けた。


 「そもそもだな。

 お前ら、アザルのこと……悪いやつだと思ってただろ?」


 リュカがうっと言葉を詰まらせ、

 ロザが視線を伏せ、サイルは眉をわずかに寄せた。


 コウテイくんは首を横に振る。


 「違ぇんだよ。

 アザル自身は、悪党なんかじゃなかったんだ。」


 小さな瞳に、どこか遠い光が宿る。


 「アザルは元々“精霊”みてぇな存在だった。

 ただ……長ぇ間、生きすぎた。

 そのせいで、いろんな記憶を吸いすぎたんだ。

  特に——邪悪な人間の記憶をな。」


 ひゅ、とダンジョンの風が通り抜ける。

 それはまるで、アザルの残滓が答えているようだった。


 「人の悪意ばっかり溜め込めば、そりゃ歪む。あれは自分の意思で“悪くなったんじゃねぇ。お前ら人間が生み出した、精霊の成れの果てってやつよ。」


 ハルはぎゅっと胸元を握りしめた。

 カイルがそっとその背に手を添える。


 「で、今のオレはどうかって?

  ハルとカイルが、アザルの中の“邪悪な記憶”を全部吸い取ってくれた。

  残ったのは……アザル本来の記憶だけだ。」


 その声は不思議と柔らかかった。


 「ばあちゃんと暮らしてた頃の、

 のんびりしてて、優しくて……あったかい日々の記憶。」


 皆の肩が少しずつ緩む。


 「——最後にハル、

  お前から“奪い返した”あの一雫の記憶、覚えてるか?

 あの記憶が願い石に落ちて、

 願い石の想いと、アザルの本来の想いと、

 コウテイくんのカラダが……全部混ざり合った。」


 そして、翼をちょん、と広げた。


 「その結果、生まれたのが——このオレ様ってわけだ。

 よろしくな。新生・コウテイくん様だ。」


 小さな体で大きく言い切る姿に、

 誰もが呆気に取られ、

 けれどどこか、ほっと息を漏らしていた。


 その空気を破ったのは、アオミネだった。

 彼はゆっくりと剣先を下げ、鞘へと戻す。


 するとコウテイくんが、


 「おっ……おう。剣を下ろしてくれたのか。ありがとな、兄貴。

  ——でもまあ、こんな話じゃ全部は信じられねぇよな、そりゃそうだ。」


 と言いながら、ぽん、と自分のお腹のポケットを叩く。


 「じゃあよ。ここで、オレが“ポシェット”だった証拠を見せてやる。」


 そう言って、コウテイくんはお腹のポッケに手を突っ込んだ。


 取り出されたのは——


 ハルがいつもポシェットにしまっていた、見慣れたアイテムたち。


 「ほら見ろ。弱っちまったから空間は狭くなっちゃいるが、

 こんな感じで、オレは今でもポシェットと繋がってる。

  どうだ?これで、ちっとは信じられるだろ?」


 誇らしげに胸を張りつつ、コウテイくんはハルの顔をじっと見上げた。


 その視線を受けた瞬間——

 ハルの瞳に涙がみるみる溜まっていく。


 「……っ、ポシェット……生きてたんだね……。

  ほんとうによかった……また会えて……うれしいよ……!」


 胸にコウテイくんを抱えたまま、堰を切ったように涙がこぼれ落ちた。


 コウテイくんは、ため息をつくようにハルの頬を見つめる。


 「お、おい……だから言ったろ、お前は泣き虫すぎるんだよ……

  まったく……しょうがねぇやつだな……」


 言葉とは裏腹に、その声音にはどこか照れたぬくもりが宿っていた。


 そんな二人を、仲間たちは静かに、優しいまなざしで見守った。


 そして、誰よりも早く気持ちを切り替えたのはカイルだった。


 「——よし。

  話もひとまず聞いたし、涙も落ち着いたな?」


 わざとらしく空を見上げると、軽く咳払いしながら言う。


 「このままだと日が暮れちまう。

  城下町に今日中に着きたいなら、歩きながら考えるぞ。」


 ハルは涙を拭い、コウテイくんを胸に抱いたまま立ち上がった。

 仲間たちも、それぞれの想いを胸に、ゆっくりと歩き出す。


 柔らかな風が吹き抜け、どこか遠くで鳥の声がした。

 新しい仲間を迎えた一行の旅路は——

 また静かに、確かに、続いていった。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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