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【第1章完結】僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
父との日々

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コウテイくんのポーチ

 城下町に向かう穏やかな空気の中で、ロザが歩幅を緩め、皆を見回す。


 「歩きながらでいいわ。これからのこと、少し決めておきましょう」


 その声音は柔らかいが、どこか大人としての判断を求める響きがあった。


 「まず——スマホのことなんだけど」


 ロザの視線が、自然とハルとリュカへ向く。

 大人たちが表情を引き締めるのを見て、二人も小さく背筋を伸ばした。


 「私たちは、この存在を知らなかったことにしましょう。ギルド職員の私たちが持つということは、上に報告しなければいけない……ということだから」


 ロザの言葉は穏やかだが、その裏にある現実は重い。

 スマホは、異世界と世界を繋ぐ越境の通信機。

 噂だけでも国を動かす力を持ってしまう。


 「だから……無かったことにする方が、いちばん無難よ。それでいいかしら?」


 サイルも静かに頷き、眼鏡の奥の瞳が柔らかく光る。


 アオミネは肩にのったクロを指で軽くつつきながら、口を開いた。

 「万が一、健太さんに連絡を取りたくなったら、その時に借りればいいしな。俺たちは……カイルも戻ってきたし、また冒険に出る予定だ」


 クロもこくこくと頷きながら、

 「拙者らには荷が勝ちすぎる代物ゆえな」と、いつもの調子で笑う。


 リュカは後ろを歩くハルを振り返り、明るい声で言った。

 「ハルに持っててもらう方が安全だよな。ポシェットに入れておけば奪われる心配もねぇし」


 ハルの顔がぱっと明るくなる。

 「い、いいんですか……? じゃあこれは預かるってことで。みんなの共有財産だね」


 言い終わったあと、ふとポシェットへ視線を落とし、表情が曇る。


 「……でも、ポシェットは——」


 小さく、つぶやくように続けた。


 「願いの石のおかげでアイテムボックスになってたと思うんです。石は砕けちゃったし……容量も、少しずつ減ってる気がして……。いつか、普通の布袋に戻るかも……」


 その言葉には、大切な相棒への想いが滲んでいた。


 カイルが歩み寄り、優しく問いかける。

 「……砕けた石はどうなったんだ?」


 ハルはコウテイくんをそっと取り出し、胸元で抱えるように持つ。


 「アザルを倒す時に……力を使い切って、ここで溶けて……消えちゃったみたいです」


 コウテイくんの中を見下ろすハルの目は、寂しげで、けれどどこか誇らしさも宿していた。


 カイルはそっとハルの頭に手を置いた。

 「そうか……破片でも残ってれば、どうにかできそうだったんだがな。……残念だったな」


 その掌の温もりに、ハルの肩がわずかにほどける。

 失ったものもあるけれど、守られた想いが確かにそこに残っていた。


 「……うん。これでよかったんだ」


 ハルは、誰に聞かせるでもなく、そっと自分へ言い聞かせるように呟いた。

 その声は小さく揺れていて、胸の奥に溜めていたものが、

 はらり、とほどけていくようだった。


 視界がじわりと滲む。

 こらえようとして瞬きをすると、溢れかけたものが逆に大きく揺れ、

 一粒の涙となって、ぎゅっと握りしめたコウテイくんの布へ落ちた。


 ぽたり。


 ——その瞬間だった。


 コウテイくんの小さな体が、ほうっと微光を帯び始めた。

 布の縫い目が淡く輝き、内側から灯りがともるように光が広がっていく。


 「……え?」


 ハルが目を見開く。

 リュカが振り返り、アオミネが足を止め、クロがぴょんと身を浮かせる。


 やわらかい琥珀色の光。

 さっきまで“ただの布”だったはずのポーチが、まるで——応えるように息づいている。


 サイルも目を細め、魔力の流れを探るように静かに言った。

 「反応しています……何かが、目覚めようとしている」


 ハルの両手の中で、コウテイくんはさらに強く、あたたかく輝いた。


 眩しい光がしばらく脈打ち、ふっと収まったかと思った次の瞬間だった。


 ドクン——

 ドクン——……


 まるで心臓の鼓動のように、コウテイくんの小さな体が震え始めた。

 光の残滓が布の表面を走り、ハルの掌までかすかな振動が伝わってくる。


 「……っ!」


 ハルは驚いて、思わずカイルの顔を見上げた。

 カイルも目を大きく見開き、息を飲んでコウテイくんを見つめている。

 その視線には明らかな“想定外”の色が宿っていた。


 みんなが思わず瞬きを繰り返しながら、

 小さく震えるポーチに視線を吸い寄せられていた。

 息を呑む音すら飲み込み、ただ見守るしかない。


 ただ一人、クロだけがそろりと半歩後ろに下がり、目をまん丸にして小声でつぶやく。


 「こ、これは……もしや新手の召喚儀式でござるか……?」


 その声にアオミネが肩を震わせて笑いをこらえるが、

 視線だけはしっかりとコウテイくんに釘づけだった。


 ハルは、コウテイくんを抱えなおすが、掌に伝わる震えは強くなったり弱くなったりしていて、

 生き物みたいに、まるで何かに変化しているようにも感じられた。


 「ど、どういうこと……?」


 誰に聞くでもなくつぶやいたハルの声はかすかに震えていた。

 期待と不安が絡み合って胸の奥で跳ね回り、

 視線はコウテイくんに吸い寄せられたまま離れない。


 周りの仲間も固唾を飲んで見守っているだけで、

 誰一人として、この先に何が起こるのか予想できないでいた。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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