1.恋したセレーナ
セレーナが『しゃこうかいでびゅー』に行っちゃって、置いてかれたボクがふて寝してる間に、ニンゲンたちは全員部屋から出てってたみたいで。次にボクが目を覚ました時には、扉の向こうからセレーナの声が聞こえてきてたんだ。
『セレーナ! 帰ってきたんだね!』
急いで扉に駆け寄って、カワイイ声で鳴いてアピールしてみたんだけど。なんか、すごく忙しそうにしてる声とか足音とかが聞こえてて。
それでも、何度も何度もアピールしてたら。
『ねーぇ! セレーナー!』
「お嬢様は今お戻りになられたばかりで、まだもう少し時間がかかるんですよ」
結局いつものニンゲンに、扉の向こうからそう言われちゃったんだ。
つまり、まだボクはセレーナと会えないんだなって悟って。自分でも分かるくらい、尻尾がしゅんって下がっちゃった。
だって、ずっと待ってたんだもん。会いたかったんだもん。ボクだけ、置いてかれたんだもん。
でもニンゲンのメスが言った通り、戻ってきたはずのセレーナとは全然会えなくて。むしろ戻ってきたはずなのに、また部屋から出てっちゃう音までしたんだ。
『そんなぁ……!』
「大丈夫ですよ。次にお嬢様がお部屋に戻られたら、一緒に寝れますからね」
『ホント? ホントに? セレーナ、今度こそちゃんと帰ってきてくれる?』
「……あぁっ、なんて可愛い声なのっ! 大丈夫っ、大丈夫ですから! お嬢様も、ルシェに会いたがっていましたからね!」
なんか途中、違う感じの言葉が混ざってた気がするけど。でも今のボクが信じられるのは、このニンゲンの言葉しかないからね。
ボクがカワイイのは当然のことだし。それなら、もうちょっとだけいい子で待ってることにするよ。
(そしたらきっと、セレーナだって褒めてくれるはずだよね!)
って思って、もう一回ベッドの上でウトウトしてたのが、ついさっきまでのことだったんだけど……。
『……セレーナ、あのさ』
「王宮に招待していただくということも初めての経験で、とても緊張してしまっていたのよ」
『あ、うん。けど、そうじゃなくてさ』
「そんな中、会場まで戻る道のりすら分からなくなってしまって。本当にどうしようかと困っていたところを、王太子様が助けてくださったの」
ボクが話しかけてる言葉を、相づちだと思ってるのかも。それか、ボクの返答なんて今は気にしてないのか。
やっと帰ってきたはずのセレーナは、ベッドの上でいつもみたいにボクのことを撫でてくれるんじゃなくて。「ねぇルシェ、聞いてくれる?」って急に話しかけてきたと思ったら、柔らかい笑顔を浮かべてとろけちゃいそうな目をしながら、ある特定のニンゲンのオスとの出会いについてを、ずーっとボクに聞かせてきたんだ。
『ねぇ、セレーナ……』
「そのあとも、ルミノーソ家の馬について知りたいと大勢の方に質問されてしまって困っていたら、また助けてくださったのよ」
『だから、あのさ』
「王太子様は淡く優しいブルーの瞳をお持ちの、腰ほどまである長いプラチナブロンドの髪を、リボンを使って後ろの低い位置で一つにまとめているお方で――」
ニンゲンのことはあんまりよく知らないボクでも、普段と全然違うセレーナを見てれば、さすがに気がつくよね! セレーナが、そのニンゲンのオスに恋しちゃったんだってことくらいはさ!
だっていつもだったら、ボクとセレーナだけの幸せな時間になるはずなのに! セレーナってばそのオスのことを思い出しながら、すごくうっとりした顔で言ってるんだもん! 分からないはずないよね! あと、そのオスのこと詳しく話しすぎ!
『ボクの! セレーナなのに!』
「ただ……お礼を申し上げたくても、大勢の方に囲まれていたの。とても素敵なお方だから、当然といえば当然なのだけれど。私、どうしても恥ずかしくて……」
自分からは話しかけられなかったんだって、セレーナは言ってるけど。そんなことよりも、目覚めてすぐ盛大なショックを受けることになったボクの気持ちは、どうしてくれるの……!
『ボク、いい子で待ってたのに! セレーナは褒めてくれないし、撫でてもくれない!』
「そうよね。いつかお礼はお伝えすべきよね」
『しかも、ボクの言葉は全然通じてないし!』
ボクそんなこと、ひと言も言ってないよ! いつもだったら、少しくらいは意味を理解してくれるはずなのに!
セレーナがこうなったのも全部、そのニンゲンのオスのせいなんだから!!




