2.ビアンカ狂いの王子様
ビアンカのとこに向かう途中で、初めて他のニンゲンと会話してるフィリベルトの姿を見かけてから、ずっと気になってたボクは。今日ついに、あの部屋の外でのフィリベルトの様子を観察することに成功したんだ。
「この件は現在対応中だ。十日ほど前に処理した書類を探して、同じように返答しておいてくれ」
「かしこまりました」
「それと資料室に寄って、ここ数年の各領地の収穫量が分かるような資料を探してきてくれるか?」
「承知いたしました」
上のほうの窓が開いててフィリベルトの声が聞こえてきたから、近くの木に登って確かめてみることにしたんだけど。
「視察の件については、どうなっている?」
「今朝方に返答の手紙が届いており、現在日程を調整中です」
「そうか。引き続き頼む」
「はい」
明るい部屋の中で、フィリベルトだけが座って机に向かってる。
なんか、思ってた以上に真面目な顔してて、ちょっとビックリしちゃった。雰囲気が真剣すぎて、一瞬誰あれって分からなくなっちゃうくらいには、ホントに別人みたいだったよ。
でも、リボンであの長い毛をまとめてるのは、フィリベルトくらいしかいないし。着てる服だって、ボクもよく見慣れてるやつだからね。間違ってるはずないんだけどさ。
(うーん……。いつもこの姿だったら、セレーナの相手としては確かにいいんだけどなー)
残念ながら、ボクはよく知ってるんだよね。ビアンカの前だとデレデレになって、だらしない顔してるニンゲンだってこと。
あと関係ないけど、あの長い毛って時々飛びつきたくなる衝動に駆られる時があるんだよねー。そんなことしたらビアンカに怒られそうだから、やらないようにガマンしてるんだけどさ。
「さて。今ある処理しなければならない書類は、これで終わりだろうか?」
「はい。この時間までにこちらに届けられているものは、それが全てになります」
「なるほど。では必要な資料が揃うまで、私はしばらく自室で休んでいる」
「かしこまりました。資料が全て揃い次第、お部屋にお迎えに上がります」
「あぁ」
そんなやり取りが聞こえてきた直後、フィリベルトがイスから立ち上がって部屋から出てっちゃう。
『もしかして、今からビアンカのとこに行くつもりなのかな?』
たぶんそういうことだよね? 今あのニンゲン、お部屋にお迎えにって言ってたもんね。
ってことは、もしかして……。
『フィリベルトって、もしかしなくてもすごく優秀なオス?』
今できることはないから、ちょっと休憩するってことでしょ?
さっきまでは机の上に置いてある箱の中から紙を取り出してたのに、今は空っぽになってるし。机の上に残ってるのが今すぐはなにもできないやつってことなら、そういうことのはず。
『なんか、意外』
ビアンカの前では、全然そんな感じしないのに。ニンゲンしかいない場所だと、ホントにキリッとしててカッコイイ。
ボク、フィリベルトがこんなに優秀だと思ってなかった。むしろずっと「ビアンカに会いたい」って言ってるんじゃないかって、勝手に想像してたんだけど。なんか、全然違ったよ。
ごめんね、フィリベルト。ボク、誤解してた。むしろフィリベルトのこと、かなり見直した。
って、さっきまでは思ってたんだけどね。
「ビアンカ~!」
『はいはい』
うん、ごめん。やっぱり訂正。
「毎日毎日執務ばかりで、疲れてしまうよ。たまにはビアンカとゆっくりしたい……!」
『分かるわ。ワタシだって、たまにはフィリベルトと一日中一緒にいたいもの』
フィリベルトは、やっぱりフィリベルトだった。
ニンゲンと一緒の時は、確かに優秀かもしれないけどさ。結局ビアンカ狂いの王子様ってことに、変わりはなかったよ。




