8.恋の成就も、ネコしだい?
それからしばらくして、フィリベルトがお家に遊びに来た日。前日が雨だったからなのか、珍しく庭を歩くこともないまま部屋の中でゆっくりしながら、会話を楽しんでるセレーナとフィリベルト。
実はこの間のフィリベルトの話は、ネロにもしてあるから。もしかしたら今日フィリベルトがセレーナに言うのかもしれないって、一緒にソワソワしながら様子を見てたんだ。
『ネロ、どう思う?』
『わかんない、けど……。でもきっと、ご主人様に話をするなら今日だと思うんだ』
『だよね。ボクもそう思ってる』
ちなみにネロは、セレーナを自分の主人にするって決めたらしい。なんか、イヌって群れで暮らすからリーダーを決めるらしいんだけど、ニンゲンと生活する場合はそのリーダーのことを『ご主人様』とか『主人』とか呼ぶらしい。とはいえ、元々はニンゲンがそう呼ばせてたっぽいけどね。
まぁようするに、セレーナがボスってことでしょ? それならボクからすれば、なんにも変わらないからね。フィリベルトからの話をした時も、ネロはセレーナについてくつもりでいるって言ってたし。
「ところで、セレーナ嬢」
「はい、殿下」
呼び方がちょっと違うだけでセレーナのことだって今は分かってるから、別にそこに引っかかることもなく。ボクたちの視線は、ずっとセレーナとフィリベルトだけに向けてたんだ。少し遠くから、ジャマしないように。
「実は今日は、大切な話があるんだ」
そしたら、急にフィリベルトの雰囲気が変わったんだよね。
ってことはつまり、やっぱりボクたちの予想通り今日だったってこと。というか、まさに今からってこと!
ボクたちと、他にも部屋の中にいるニンゲンたちが見守る中。不思議そうな顔して座ってるセレーナの横まで、フィリベルトはイスから立ち上がって歩いていって。そのままセレーナを見上げるような形で膝をついたんだ。
「で、殿下!?」
驚くセレーナと、声には出さないけど口を手で覆ってるニンゲンのメスたち。
逆にフィリベルトが連れてきたニンゲンのオスたちは、どこか冷静だった。
(これ、オスだけは先に聞いてて知ってたな)
しかも実はボクとネロも知ってたわけだから、ホントにこの部屋の中のオスだけが全員知ってたことになる。
なんか、こんなことってあるんだね。こういう時だけど、ちょっと不思議な気分になっちゃったよ。
「あのっ、殿下……! お召し物が……!」
「いいんだ。それよりも、セレーナ嬢。どうか、聞いてほしい」
「え、え?」
混乱してるセレーナを見上げながら、フィリベルトは胸に手を当てながら真剣な表情を向けて。
そうして、こう言ったんだ。
「君とこうして共にいると、私はとても楽しくて心が安らぐ。こんなにも愛しく思う女性は初めてなんだ。だからどうか、私と婚約してほしい。そしていずれは王妃に、国母になってほしい。もちろんそのために必要なものは全て私が用意するし、必ず君を守ると誓う。だから、この手を取ってはもらえないだろうか、愛しいセレーナ嬢」
そのまま胸に当ててた手を、今度はセレーナに向かって差し出す。逆にセレーナはその言葉を聞きながら、フィリベルトの顔を見て驚いたような顔をしてた。
差し出された手を見て、フィリベルトの顔を見て、また手を見て。きっといきなりのことで混乱してたんだろうけど、ようやくフィリベルトの言葉の意味をじわじわ理解してきたのか、セレーナの顔が赤くなっていって。
「そ、そんな……。わ、私でよろしいのでしょうか……?」
「セレーナ嬢がいいんだ」
少しだけ不安そうにフィリベルトに問いかけたら、自信満々に返されてた。
そこでようやく、全部理解したんだと思う。だって今まで見たことないくらい、すっごく嬉しそうな顔して柔らかく笑ってたから。
フィリベルトの差し出してた手に、セレーナがそっと自分の手を乗せる。それがきっと、ニンゲンの応え方なんだろうね。
「ありがとう、ございます。もちろん、お受けします。よろしくお願いいたします」
「あぁ、セレーナ嬢……! 嬉しいよ!」
だってこんなにフィリベルトも喜んでるし、周りのニンゲンたちも、すっごく嬉しそうな顔してるんだもん。
ただフィリベルトに抱きしめられてるセレーナだけは、少しだけ目が潤んでるようにも見えたんだけど……。でもきっと、あれは嬉し涙のはず。だって表情は、他のニンゲンたちの誰よりも幸せそうだったから。
『よかったね、セレーナ』
小さく呟いて、ボクはそっと窓のそばに歩いていったんだ。その後ろを、ネロが黙ってついてくる。でもその尻尾は、嬉しそうにブンブン振られてるけどね。ボクだって、嬉しすぎて尻尾がピーンって立っちゃってるし。
それにしても、セレーナがニンゲンのオスに恋しちゃったって知った時は、こうなるなんて思ってもみなかったけど。まさかボクが手紙を運ぶことになって、それがビアンカが言ってた通りいつの間にか恋文になってたなんて、ビックリだよね。
でもそうやってボクが手紙を運んで、セレーナとフィリベルトがやり取りを続けてたから、地すべりの時もフィリベルトを助けることができたわけだし。もしかして恋の成就も、ネコしだい? なんてね。
今は幸せそうなセレーナとフィリベルトをジャマしないように、ネロと一緒に窓の外の晴れ渡った青空を見上げながら。ボクはご機嫌に尻尾を揺らしつつ、小さく喉も鳴らしてたんだ。聞こえてたのは、ネロだけだったと思うけどね。
本編はこれにて終了です!
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!(>ω<*)
そして明日からは、おまけ話を更新する予定です(・`ω・)b
そちらもお時間のある方は、ぜひ!




