2.クロのこと
少しでもビアンカの寂しさが紛れるようにと思って、今日は夕方まで一緒にいてあげることにして。その間、いつもの部屋のソファーで一緒に丸くなって寝たり、ボクがこの部屋に遊びに来てることを知ったニンゲンが、ビアンカのごはんと一緒にボクのごはんも用意してくれたり。
ビアンカは誰かと一緒にごはんを食べるの初めてって言ってたから、きっと兄弟とかいないんだろうなって思ったんだけど。それよりもごはんの美味しさにビックリしたボクは、食べ終わったあと『これすっごく美味しかったよビアンカ!』ってずっと話しかけてたんだ。毛づくろいだって、いつもより念入りにしちゃったよね。
そんなボクを見て、ビアンカは『こんなの普通でしょ』って言ってたんだけど。それでも一緒に長い時間毛づくろいしてたから、やっぱり毎日食べてても美味しいことに変わりはないんだと思うんだ。
『じゃあ、ボクそろそろ帰るね』
『えぇ、また明日』
『うん、また明日ね』
あんまり遊ぶのは好きじゃないらしいビアンカは、ごはんのあとはゆっくり寝たいって言ってたから。そのタイミングで、ボクもお家に帰ることにして。ちゃんと明日の約束をしてから、いつもの木に飛び移った。
そっからは、いつも通り。今日はクロのとこには寄らないから、まっすぐお家に帰ってボクも少し自分の部屋で休んでから、セレーナに遊んでもらって。
そうそう。他のどのニンゲンよりも、セレーナは遊びが上手なんだ! おもちゃの動かし方もだけど、ちょっと隠したりして音だけで楽しませてくれたり、時には小っちゃいボールを投げてくれたり。とにかく色んなおもちゃで色んな遊びをしてくれるから、毎回飽きないんだよね。
そうやって、当たり前の一日を過ごして。いつも通り、セレーナと一緒にベッドに入ってから。
「ねぇ、ルシェ」
『なぁに?』
「ルシェのお友達の、黒いあの子は……ちゃんと無事に、今も過ごしているのかしら?」
『セレーナ……』
やっぱりクロのことがずっと気になってたみたいで、そんなふうにボクに聞いてきたんだ。優しく、頭を撫でてくれながら。
「殿下を探しにあなたと一緒に出てくれた、我が家の専属騎手のジャンがね、あの子のことを心配して門番に話をしてくれていたみたいなの。だから一応、帰ってきていることは知っているのよ」
『え、そうだったんだ。ジャン、やるじゃん』
クロがいなくなってたことに気づくのが遅かった割には、ちゃんと色々やってくれてたんだね。なんか、ちょっと見直したよ。
「でもね、かなりの距離を走ってくれていたはずでしょう? きっと疲れているだろうし、お腹もすかせていると思うの」
『うん。小鳥たちからクロが疲れてるって聞いて、ボクも会いに行くのちょっとガマンしてるんだ』
「それに、あんなに賢い子なのにすごく汚れていて……。きっと本当はもっとキレイな柄をしているはずで、もっと愛されて大切にされていいはずなのよ」
『……うん、そうだね。ボクも、そう思うよ』
クロはあんまり昔のことを話したがらないけど、ニンゲンとあんまり深く関わろうとしてない感じから、きっとなにかあったんだろうなって思ってた。だからボクがお家で一緒に暮らそうって言っても、頷いてくれないんだって。
でもボクは、クロだって幸せになっていいはずだって思ってる。ボクがセレーナに愛されてるみたいに、クロだってニンゲンから愛されたっていいはずなんだ。
「ねぇ、ルシェ。私、少し考えていることがあって……」
『考えてること?』
「お父様にお願いして、もし許可が下りたら……あの子を迎えに行きたいって思っているの」
『え! ホント!?』
セレーナの言葉があんまりにも嬉しくて、思わずその顔に頭をこすりつけちゃった。しかも、結構強い力で。
でもでもだって、ホントに嬉しかったんだもん! セレーナがそんなふうに言ってくれる日がくるなんて、思ってなかったから!
正直、ボクがクロを連れてきてセレーナにお願いすれば、きっと許してくれるだろうなって思ってたけど。そのためには、クロを説得しなくちゃいけなくて。でもそれが、すっごく難しかったから。
「ルシェ、いいの? 私のワガママなのよ? それでも、許してくれるの?」
『許すもなにも、クロと一緒に暮らすのはずっとボクが望んでたことだもん! すっごくすっごく嬉しいよ!』
「……そう。やっぱりあの子は、ルシェにとって大切なお友達だったのね」
前に新しい首輪を見せた時、クロはいつもとはちょっと違う反応をしてたから。もしかしたらセレーナなら、クロを説得できるかもしれない。そう思ったら、楽しみで仕方ないよ!
思わず喉まで鳴っちゃったんだけど、ボクが何度も何度も頭をこすりつけてるのを、セレーナは優しく笑って受け入れてくれてた。




