1.ようやく安心
結局クロがいなくなってることにジャンが気づいたのは、街に戻ってきてからだった。
すっごく焦ってたけど、マルツィオになだめられて冷静さを取り戻してから、クロがお家の前に自分の力だけで来てたことを思い出して、一応大丈夫だろうって結論出してた。
実際それはそうなんだろうけど、なんだか納得いかないなって思ってたら、小さな声で呟いてたけどね。「念のためあとで確認しておこう」って。
(だからまぁ、ジャンのことは許してあげる)
たとえそのせいで、セレーナがすっごく心配してたとしてもね!
実際ボクたちが帰ってきた時、クロの姿が見えないことをすっごくすっごく気にしてたんだから。寝る前も窓の外を気にしながら、ボクに聞いてきたんだよ。「あの子は大丈夫なの?」って。
フィリベルトのことはニンゲンから話を聞いて、とりあえず安心したみたいだったけど。今度は逆に、クロが戻ってこないから心配してるんだよ。
だからホントはクロが帰ってきたら、一回お家に来てもらおうって思ってたのに……。
『え!? クロ来ないの!?』
『疲れちゃったから、しばらくはゆっくりしたいんだってー』
『ルシェがワタシたちを連れてってくれた路地裏で、今日はこのまま寝るって言ってたー』
『そ、っか……』
言われてみれば確かに、あれだけの距離を三日で二回も往復してもらってるんだもんね。疲れてるに決まってる。
それなら今日は無理に会いに行かないで、体力が回復してそうな数日後とかのほうがいいのかな。寝てるとこジャマするのも悪いし。
『じゃあ、先にビアンカのとこに行ってこようかな』
『それがいいかもー』
『クロってイヌのことなら、ワタシたちが様子見ておくよー』
『うん、ありがとう』
セレーナを安心させてあげたいのはもちろんだけど、だからってクロにムリさせたいわけじゃないからね。まずはゆっくり休んでもらって、元気になってからセレーナに会ってもらえばいいんだから。
クロのことは小鳥たちに任せて、ボクはビアンカのとこに向かうことにしたんだ。昨日は遅くなっちゃって行けなかったけど、たぶんニンゲンがフィリベルトのことは教えてくれてると思うんだよね。そうじゃなくても、もしかしたらフィリベルトがビアンカのために手紙を書いてたりするかな?
(さすがに、それはないか)
あんな状態で、わざわざ手紙を書く必要はないもんね。そこにいるニンゲンに、ビアンカへの伝言もってお願いすればいいんだもん。
でもそうなると、ホントのフィリベルトの状況って、ビアンカには伝わりにくくなっちゃうから。実は昨日寝る前、セレーナにもお願いされたんだ。「ビアンカにも殿下の様子を教えてあげて」って。
最初からビアンカのとこには行こうと思ってたけど、セレーナにまで頼まれたら、もちろん伝えないわけにはいかないよね!
ということで。
『ビアンカー、フィリベルトの様子見てきたよー!』
『!!』
約束通り、色々分かったから情報を伝えに来たボクは。最近では毎回フィリベルトのベッドの上で丸くなって寝てるビアンカに、元気に声をかけたんだけど。
『おっそい!!』
なぜか、すごく、怒られました。
え、なんで? ボク、なんか悪いことした?
『あれから何日経ってると思ってるの! 先にニンゲンから聞いたわよ! フィリベルトったら、山で遭難してたらしいわね!』
『え、あ、うん』
しかも、ものすごい勢いだったから、思わず黙ってビアンカの話を聞いてたんだけど。
結局、最終的には――。
『本当に本当に、心配してたんだからぁ……! もう二度とフィリベルトに会えなくなったらどうしようって、ワタシ……ワタシっ……!』
『うんうん、そうだよね。すっごく心配してたんだよね。不安だったんだよね』
やっぱりボクから直接フィリベルトの様子を聞くまでは、ずっとずっと不安だったらしい。そんなビアンカを落ち着かせてあげるために、しばらくの間ボクは頭を舐めてあげることにしたんだ。
まだフィリベルトが戻ってくるまでは、もう少し時間がかかるけど。とりあえず無事だったことが分かって、ようやく安心できたんだろうな。だから、こんなにいっぱい文句が言えるんだろうし。
(とりあえずフィリベルトが帰ってくるまでは、毎日ビアンカのとこに来ようかな)
話し相手がいるだけでも、少しは落ち着くかもしれないからね。




