第23話 夕焼けの思い出
一時間の放課後練を終えた後、私は今現在、花と満咲と共に帰路についている最中であった。
初日から忙しい準備に皆疲れ――といっても私の練習など一言程度しかないのだが、問題は……
「……未玖さぁ、それはある種の才能だと思うよ」
「はぁ……」
「だっ、大丈夫だよ未玖。明日にはもっと上手くなってるよ!」
私の横で花がげんなりとした顔を浮かべ、満咲が苦し紛れにフォローしている。
分かってますよ……。私の演技が壊滅的だってことは。
それに、後ろで声を上げて笑うミタが、私の只でさえわずかしかない自尊心をけちょんけちょんにけなしていますし。
「う~ん、今日一時間練習してこれか……。となると、何かもっと根本的なものが原因なのかもしれない……」
そんなに深く考え込まれても、どうせ「原因は才能のなさにあり」という結論しか出ませんよ。
ていうか、花はこうして私をからかっているのが楽しいだけなのでは?
げんなりする私をよそに、満咲と花は「いかにして私の演技力を向上させるか」という話題で盛り上がっていた。
しばらくして、途中の駅で花と別れた私達は、揺れる電車の中から静かに外の景色を眺めていた。
暗い山の縁から太陽の赤い光が溢れ出し、山々の隙間から太陽が金色に輝いている。
夕焼けが、窓の外を見つめる私達の両目に染みていく。
「綺麗な夕焼けだね」
「うん……そうだね」
「いつか、学校で……放課後、私の再試が終わるのを皆が待っててくれた日のこと、覚えてる?」
私は少し照れくさくなったが、満咲は頷いてから小さく笑って「その日がどうしたの?」と私を促した。
「皆……先に帰ってても良かったのに、わざわざ私のこと待っててくれたよね」
私は照れながら笑った。
満咲は頬を緩め、目を細めて穏やかな表情で言った。
「うん……だって、その日は……未玖の誕生日だったでしょ。それで、皆で放課後一緒に遊びに行く予定だった」
「うん」
私は頷いてから、静かに言葉を続けた。
「……そして、それを決めてくれたのは、永美だった」
その瞬間、満咲の表情が固まった。
私はそのまま言葉を続ける。
「再試が終わって……教室から出てきた私に、まず永美が言った言葉が辛辣でさ。『こんなテストで、まさか今日、再試に引っ掛かるなんて、信じられない』って。永美らしいよね」
苦笑を浮かべながら、私は続けた。
「でも永美は『そういう所があんたらしい』って言って、私に手を差し伸べてくれた」
赤く輝く夕陽を眺めながら、私は思わず頬を緩めて言った。
「あの時さ……夕陽が後光みたいでさ、永美がすっごく輝いて見えて……あんな言い方してるけど、本当はすごく優しい人なんだなって思った」
満咲の表情は見えないが、うつむいたまま小さく頷いているのは分かった。
「だから私は、永美をこのまま放って置けない……これからずっとこのままなんて、嫌だよ私」
満咲が今、何を思っているのかは分からない。
花は私達に「永美と関わるな」と言っている。
でも私は、永美のことを放っておくなんてできない。
私の願いは、花の言葉を無視する行為で――満咲はあまり気の強い方ではないから、花の意に逆らうようなことはしたがらないだろう。
しかし彼女は、誰よりも優しい子で……きっと今、どちらを大切にするか、決めかねているのだろう。
でも、私は……。
「永美ともう一度、一緒に過ごせるようにする。花と永美を仲直りさせる。私は、二人に今まで通りになって欲しい」
私は、友達を大切にしたい――それが、相手の意思に反することであったとしても。
満咲が顔を上げる。
その顔は、憂いに満ちた顔ではなく、私を見て、どこか安堵した表情だった。
「うん。私は……未玖に着いていくよ」
夕陽に照らされた彼女の顔が少し遠く感じられたことに、本当は気がつかないふりをしていた。




