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主よ。と夢で呼ばれても……。

「ようこそ、我が新しき主よ」


 目の前で深々と頭を下げる執事。顔をあげるとその顔は鋭い黄金色の瞳をもち顎先に髭を残した壮年の男だった。


「ここは、何処でしょう?」


 男の背後には大理石のような白い回廊が奥まで続いている。その回廊を挟むようにアーチ状の入り口が同じように奥に向かってずらっと並んでいる。奥は暗くなってよく見えない。見える限りでは終わりが見えない。

 アルさんの家じゃないよな? 俺って縛られたまんま部屋に閉じ込められたはずだし……。


「ここは主の持っている指輪の中です」


 指輪? 指輪ってあの『魔物ハウス』の指輪?


「『魔物ハウス』? そんな紛い物と一緒にされては困ります。私は『迷宮リング』であり、この世に1つしかない物なのです」


 眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をする。粗悪品と一緒にすんな! コノヤロー! って事か?


「あれらは私を元に造られた小さな家くらいの空間魔術を付与された指輪です。私のように……」


 アーチ状の入り口の1つに近づき、内部を指差している。そこを覗き込む。


「自由に作り替える事が出来ない」


 そこには砂浜と打ち寄せる波。浜辺が広がっていた。すごい!


「すごい、夢だ!」

「へ?」


 寝ると目が覚めるんだよな。それは後でいいか。波打ち際まで行ってみよう。貝殻見っけ。


「夢じゃないですよ。ここは迷宮リングの中で、意識だけこっちに呼んだだけですから」


 そう言われてもな~。よくわからん。


「そう言わないで、聞いてくださいよ」


 いつの間にか近くに海の家があった。そこから漂う焼きそばの匂いにフラフラと引き寄せられる。


 皿に盛り付けられた焼きそばがテーブルにのっている椅子に座ると対面に男が座り、コーラを飲みだした。


「冷たくてうまいですね。こんな飲み物飲んだことないですよ」


 俺は焼きそばを食っている久しぶりのソースの味。ちょっと固めの麺。安っぽいがうまいんだなこれが!


「まさかこんな風に食べることができるなんて、思いもしませんでした。今度の主は当たりですね!」


 にこにこして焼きそばを頬張って、コーラを飲む。あっ、ちょっとむせたな。


「今までの主達は魔物を放り込むだけ放り込んで、放置するんですよ! 放置!」


 何か愚痴り出した。オレンジジュースも飲む?


「ありがとうございます。それでですね、この前はゴブリンを入れてて他の人の手に渡ったんですけど、普通はそれでもいいんですけど、ゴブリンは繁殖力が半端ないでしょ? 増えちゃって増えちゃって。使い方もわからない意思疏通も出来ないおまけに魔力も少ないーーああ、迷宮の大きさは主の魔力の大きさによって変わりますーー主でしたので狭くなるし、ゴブリン臭いからゴブリンを出してやったんですよ。そしたら、大喜びして使い道も無さそうなゴブリンを大量に出してくれてゴブリン一掃できたんです」


 ん? どっかで聞いたような?


「その後、主に拾われてこの人もどうかな? って思ってたんですけど、……別にバカっぽそうとかいろいろ間が抜けてそうとか思ってないですよ! でも私に干渉して食べ物を作り出せるとは……」


 しみじみと言う男。その手にはオレンジジュース。しまらないな。


「主、焼きそばをもう一皿いいですか?」


 空になった皿を物欲しげに見て呟いた。海の家なら他にもたこ焼きとかもいいだろうと思い、出ろ! と念じる。これは夢だし!


「これは何ですか! これも食えるんですか!」


 たこ焼を見て驚く男を見てそういえば名前聞いてないなと思い出す。夢だからすぐ忘れるだろうけど。


「名前ですか? 『迷宮リング』の管理者としかありません。良ければ着けて下さい!」

「それじゃ、セバスチャンで」

「セバスチャン! それが私の名前ですか?」


 執事といえばセバスチャン。……安易すぎたか?


「ううう……今までの主は名前さえ付けてくれなかったのに……ありがとうございます!」


 泣き出した。泣かんでもいいのに……。オレンジジュース一気飲みして喜びを噛み締めている。今度はメロンソーダだ。お腹も落ち着いたし戻りたいんだが、いつまでここにいればいいんだ?


「そろそろ目を覚ましたいんだが?」

「あ、泣いてる場合ではなかった。それでは主、魔物をこちらに送って貰えれば管理させてもらいます。それとそちらから呼びかけてもらえれば、こちらに意識だけこれます。またのお越しをお待ちしております」


 目の前が暗黒に飲まれて……目が覚めた。


「変な夢見た。……それより、トイレーー!」


 溜まりに溜まった物が漏れる! 叫んでいると気がついたアルさんに街に行くかどうか聞かれた。それより! トイレーー!



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