夜の森に蜘蛛が出た!
庭先で黒い子猫が緑色の紐を追いかけ回している。
飛び付く都度に逃げられ野生の本能のままに追いかけるその上に黒い影がさし、
ーーパクッ!
上で待ち構えていたエメドラに食いつかれた。緑色の紐はエメドラの尻尾だ。
ニャー!(暗いよ!狭いよ!……ヌルヌルする!)
エメドラの口から出ている下半身が暴れている。それが少しずつ中へ……。
ナー!(エメドラ、きちゃないからペッしなさい。ペッ!)
ーーペッ!
吐き出された黒猫は地面を転がるとぐったりしている。
ナー。(おお、勇者よ。死んでしまうとはなさけない)
ニャー。(そこ、お墓を掘らない)
土から頭だけ出して埋めておく。森に行くのに着いてこられると危ないからね。
ナー。(エメドラ、行こうか)
ーーシャアァァァァ。
背中に生えた羽をパタパタさせて柵を飛び越えるエメドラ。その尻尾に巻かれた姿で俺も柵を越えていく。
ニャー!(私もつれてきなさいよ!)
パシュティさんを忘れてた。
三日月が出ている森の中でエメドラに連れられて歩く。前に来た時はそこら辺にいたワニ口ネズミの姿が見えない。
ニャー。(でかい奴が来たみたいね)
ナー?(でかい奴?)
この森にいる大型の魔物は獲物を求めて森の中を徘徊する。その時に小さい動物や魔物は危険を察知して逃げるか隠れるかする。
ニャー。(エメドラの親もその中の1匹よ)
えっ? こいつまだでかくなるの?
ナー。(あんまりでかくならないでね)
シャァァ?
振り返ったエメドラは意味が分かってないようだ。しょせん爬虫類。
大型の魔物か……そんなのがいると聞くと、遭遇する可能性が上がるので帰ろう。うん、そうしよう!
アルさんの家に帰ろうとした時に1匹のワニ口ネズミが目の前を横切った。
ーーパクッ!
エメドラが素早い動きで捕らえてそのまま飲み込んでしまった。他には出てこないからはぐれた奴だったのだろう。
ニャ?(他にはいないね?)
ナー?(パシュティさんわかるの?)
ニャ。(嗅覚でわかるでしょ)
俺は使ってないな。猫なのに。試しにクンクンと臭いを嗅ぐ。
夜の冷たい空気の臭いに混じって変な臭いがした。クンクン……こっちか。
ニャ?(どこ行くの?)
ナー。(変な臭いがする)
地面というよりは空気を嗅いで歩いていく。しばらく歩くと獣道の途中にある木の根もとに出た。あの木の根本辺りだな。
ニャー。(嗅いだことのない魔物の臭い)
パシュティさんも知らないの? これは危険かもしれない。
ナー。(私は何も見なかった。さあ、帰りましょう)
エメドラの背中に乗る。エメドラ、ハウス!
シャァァァァ。
未知の魔物へのあいさつは今日の所は勘弁しといてやろう。エメドラ、そっちは木の根本の方。家はあっち!
鱗に爪をひっかけてエメドラを誘導しようとするが、お構いなしに近づいていく。そして、尻尾の先で木の根本辺りを叩く。
木の根本の土が捲れ上がり、中から何かが飛び出した。エメドラはそれに噛みつくと背中に乗っている俺にも構わずぶん投げた。
ナーッ!
当然、俺も飛ばされた。勢いって恐いね!
そして落ちたのは草の上……ではなくトゲトゲした毛の生えた物体の上だった。現実から目をそらすな? そらしたくもなるわボケ!
ニャー。(でっかい蜘蛛だ)
パシュティさんはすでに木の上に退避してます。
ナー!(助けて~!)
ニャ。(ムリ)
蜘蛛は俺が乗れるくらいの大きさの胴に脚が8本。うち、前の2本が長く先が尖っている。あれで獲物を刺したりして捕らえるのだろう。
蜘蛛が興奮して長い脚を振り上げる。それに会わせエメドラの前の地面から尖った土でできた槍が飛び出した。こいつ魔法使うのかよ!
エメドラはその槍をかわすと羽を振るわした。
蜘蛛がいきなりコケて俺が落っこちる。落ちた場所から見上げると片側の脚が全て切られていた。エメドラの風魔法で叩ききったみたいだ。
蜘蛛は残った脚でどうにか逃げようとするが同じように残りの脚も切り取られ達磨さん状態で転がる。
ナー。(バカめが、俺に敵うと思ったか)
ニャ。(何もしてないよね)
エメドラは蜘蛛を更に細かく切り裂いて飲み込んでいく。蜘蛛を全部たいらげたエメドラは頭から下がツチノコみたいに膨らんでいる。動ける?
ニャ。(ここが巣になってたのね)
パシュティさんはいつの間にか下りてきて蜘蛛の飛び出してきた穴を覗いている。
ナー?(何かある?)
暗くて見えん。その辺の小枝に火を着けて中に落としてみる。底に着いたのか火は小さいながらもまだ灯っている。思った以上に深い。あれが居たところだからね。
ナー。(よし、明日アルさんに丸投げしよう)
今日の所はエメドラも満腹になったし帰ろう。
帰ると庭から赤い目がこっちを睨んでいた。ああ、ルビーを忘れるところだったわ。




