Side D-3
「ねぇ、ママ……パパはいつ帰ってくるの?」
カルロが何日も家に戻っていない事には気づいていた。
年下のブロンドが綺麗な女と会っているのも知っていた。
私が嫌われた原因の黒髪と私が嫌いな青い瞳をもつイリア、その瞳はクラリスを連想させる。
私を嫌っていた母も、カルロを誑かすブロンドの女にも憎しみが募る。
ほんの少しの嫉妬心から、どうしようもない憎悪になるのはあっという間だった。
そしてその気持ちを晴らすのはいつも……
「ごめんなさい、ごめ・・・なさ、ママ」
気がつくと、頬を真っ赤に腫らして髪を乱したイリアが頭を抱えて震えて泣いていた。
散らかった部屋とイリアの嗚咽が現実に引き戻す。
イリアに手をあげることが、日常茶飯事になっていた。
手をあげて虐げることで、どこか自分を画一できるような気がしていた。
それでも、怯えるように私を見つめるイリアの青い瞳が、どこか哀れみを持っているような気がした。
「その瞳で私をみないで!!」
「ママ……」
「その黒い髪も、青い瞳も、声も顔も全部なにもかも憎い、私の大切なものばかり奪ってどうする気なのよ!」
「ちが、ママ……私……そんなことしないよ」
「うるさい!!あんたなんか生むんじゃなかったわ、なにもかも憎らしい子!」
「・・・・・・」
散らかる部屋と腫れた顔と痛む手と、いつもなら泣き出すあの子に違和感を感じたのはそのときだった。
あの子瞳には、なにもうつしていないかのようにただ青いガラス玉のように、どこかぼんやりとしていてその中に私が映る……背筋を寒気が走る。
「な、なによ。なんなのよ!その目はなによ!文句があるなら出ていきなさい!」
あまりにもじっと見つめるから恐怖を払うように手前にあったおもちゃのぬいぐるみを真横の壁に投げつけた。
怯えることもなくイリアは顔を拭うと、いつも読んでいた絵本を両手に抱きしめて扉へと向かった。
出て行くことなど初めてのことだった。
扉を開けると私を一度だけ見つめて、とても冷たい声で問いかけてきた。
「じゃあ、どうして生んだの?」
返答を待つかのようにじっとこちらを見つめている、その青い瞳が涙でにじむ。
「……イ、イリア?」
呼びかけた私を見ることなくイリアへ家から飛び出していた。
扉の閉まる音が耳に響いて、やがて部屋は静かになる。
イリアの初めての反抗と、問いかけの答えが出ない自分とがぐるぐるする。
「なによ、なんなのよ」
崩れるように床に伏せると、亡き母の言葉をよぎる。
母は、私を愛してくれた。
とてもたくさんの愛情と言葉をくれた。
それはとても幸せな言葉で、
自分は愛されているのだと感じることができた。
ああ、
母はなんといっていたのだろう?




