Side C-10
夏期講習
泉
出会った少女
交わした会話
少女の夢
ケガをした猫
炎
夢は回想のように流れていく。
体が痛い。
目を覚ましたいような、このまま眠っていたいような。
一体なにがあったんだろう、
どうしてこんなことになったんだろう、
「……」
意識と反して目が覚める、ぼんやりと白い天井が見えた。
「あ!」
視界がはっきりするのに数秒かかる。
やっとクリアになったとき、天井を遮るように顔が出る。
「……トール?」
「やっと目を覚ましたか!大丈夫か?ちゃんと分かるか?」
涙を浮かべているのが分かる。
体は動かなかったが、トールと自分のことと今ベッドに寝ていることは理解できた。
「ライナス……」
トールの隣から顔を覗いたのはアイク上官。
心配そうな表情がほっとしたのが分かる。
「あの……ここは……?」
「ローレルの山の麓にあるコルド街の国営病院だよ。ロル村の火事現場でお前と陸軍のレックスさんは焼け崩れた家の下敷きになったんだ、肩や背中の骨にヒビが入っているから動くなよ?」
反対から顔を出したヴァン上官が説明をしてくれた。
フラッシュバックのように思い返す、そして一番気になっていたこと。
「あの……カノンは……」
一瞬、三人は顔を見合わせる。口を開いたのはアイク上官だった。
「……火傷が原因で亡くなったよ」
ー……亡くなったよ。
たった一言が、ずっしりと痛みを伴う。
目覚めなければよかったと唇を噛む。
「あと、こいつ」
ヴァン上官は横から抱き上げたリクを見せてくれた。
「治療したケガ以外はなんともなかったけど、煙吸ってたみたいだ。もう平気そうだから無理言って一緒のとこに移してもらったよ」
心なしか元気がなさそうに見えるリクは右手と腰の間に置かれた。指先で触ると頬を摺り寄せてくる。
急にこみ上げてきた涙を隠すように目を閉じる。
数秒の間を開けて、
「体、起こしてもらえませんか?」
「ん、もちろん!」
トールを筆頭に協力してもらいながら体を起こすと、シンプルな1人部屋の病室を見回す。
腕や足に包帯が巻かれている。
腰に痛みがあるが、後ろにもたれるようにすると少しラクになった。
「……あの、勝手なことばかりですみませんでした」
出来る限り頭を下げた。
本当に、なにやってんだって自分で自分を責めたくなる。
「時間になっても帰ってこないからアイク上官と見に行ったんだ、トールは無理やりついてきたけど……そしたら小屋は焼けてるし、小屋から見えた村は火事になっているし、俺はそこで街まで下って消防隊を呼んできたけれど……」
ヴァン上官の言葉から続けるようにアイク上官が話す。
「キミと一緒に下敷きになっていたレックス中尉は私の同僚でね、彼の部下のアレフ君とケビン君がキミたちを助けてくれていた、処置も早かったよ。ただ、村の火事をおさえるまではいかなかった。今は軍の人たちが調査をしているけれど、焼けた人と逃げた人……崖から自殺した人まで居たそうだ」
「……なんで、あの村はそんなにまで……」
「それも、調査中だよ。元々レックス中尉たちはそれを調査しに行っていたようだけど」
ー…コンコン
話を遮るようにドアがノックされる。
「陸軍本部所属 ケビンと申します」
「どうぞ、入ってください」
「失礼します」
静かに扉が開けられ、深く頭を下げたその人はロル村に居た軍人の1人だった。腕や頬にガーゼが当てられている。
入るなりアイク上官とヴァン上官に敬礼をする。
「今は、まぁオフタイムということで堅苦しいのはなしにしよう」
「はい」
敬礼を解いたケビンさんは座っていた僕を見てふと表情を緩ませた。
「目が覚めたんですね、良かった。先に目が覚めたレックスさんも心配してました。」
「あの、助けて頂いた様でありがとうございます。あのレックス中尉にもお伝えください」
「いいえ。様子だけ見てきて欲しいということだったので…あとで直接お話できると思います、今は体を休めてください」
「ありがとうございます」
そこで一度話が途切れる、喋ることが以外に体力を使うんだと実感した。少し腹筋が痛い気がする。
「では、またあとで……一度失礼します」
頭を下げてケビンさんは出て行った。
「私もレックスを見てくるよ、ヴァンもせっかくだから挨拶くらいしておくといい」
「了解、じゃあゆっくり休んでるんだぞ」
オフタイムといったアイク上官は、普段僕たちの前では出さない言い方でヴァン上官とともに出て行った。残ったトールはぼんやりとリクを撫でている。
「……なんかさ、すっげことになっちまったな」
「うん……」
ぽつりと呟いたトールは持ってきたイスに座ってリクの目の前に頬杖をつく。
ふと見上げた窓の外は夕焼けで、昨日までの出来事が夢のようだった。
時折痛む体が夢じゃないと実感させる。
「……っ」
気がつくと、視界は滲んでいた。
悔しさと、悲しさと、痛みと、色々な気持ちが混ぜ合わさって。
そしてそれがなにに対してなのかも分からないまま、ただ涙がこぼれた。




