Side C-5
夏期講習とカノンとの時間を両立することは慣れてしまえば簡単だった。
僕は少し悪いことをしている気持ちを持ちつつ、それが楽しくなってきて、トールにも秘密で抜け出してはそのときを満喫していた。
いつもとは別世界に来たような高揚感と、その中心にいるカノンに惹かれていたのかもしれない。
でも、その日は違った。
小屋の近くまで行ったときに、普段は見ない男が3名ほど小屋の周辺をぐるぐると回っていたのだった。
小道から草陰に隠れて気づかれないように近づき耳を傾ける。
「ここに隠れ住んでるって話だよな?」
「そうらしいけど、いないな。ここ以外に小屋なんてないし」
「近くにいるかもしれない。一度戻ろう」
そんな話をしながら男達は去っていった。
用心してしばらくそのまま様子を伺って人の気配が無くなってから、小屋に近づくと、かすかにリクの鈴の音がした。
「カノン、居るの?僕だ、ライナスだよ」
返事はない。
「ヘンな男の人たちはどっかに行ったから、僕1人だよ」
今度は扉が小さく開いた。
「……入って」
カノンはシーツを被ったまま窓の死角へと隠れていたらしく、僕を招き入れると同じ場所へ戻った。
扉を閉まったのを確認してからシーツから出てきたカノンは瞳いっぱいに涙を溜めて、それをポロポロと溢しながら隅っこで黒ずんで見えるシーツを少しだけ捲って見せた。
「……リクが、ケガをしたの」
「え?」
捲られたシーツから少しだけリクが見える。黒い固まりが荒い呼吸に合わせて上下している。
目が慣れてくると、カノンのワンピースも所々汚れている。
リクに近寄ってみると力なく横たわって片目をうっすらと開け、意識があるのかないのか分からない状態だった。
「どうして?なにがあったの?」
「分からないの、きっと村か街の人たちだと思う。足を引きずって血まみれで帰ってきたから……どうしたらいいか分からなくて」
カノンは大粒の涙を流しながらリクを撫で続ける。
弱弱しく息をするリクがさらに目を細める。
「僕、合宿で持ってきた消毒液とか持ってくるよ、ケガしたところは洗わないといけないし、そうだ泉へ連れて行こう?」
「ほんと?リクは助かるの?」
「きちんと消毒してあげればきっと大丈夫だよ」
後ろ足がヘンな方向に曲がっているリクを見て、かなり不安になったけれど、ここでなにもしないで居るよりはマシだと思えた。
「平気だから、泣かないで」
僕は力強くうなずいた。
***
同じ頃。
テントの周辺をランプが照らす。
眩しさにトールは目を開けた。顔に当てられた明かりに眉を寄せて目を開けると、上官が居た。
「おい、トール。ライナスはどうした?」
「う、えー・・・トイレじゃないですかぁ」
「周辺には誰もいなかった、隠しているのか?」
ぐいっと体を起こされトールの意識が覚醒する。
隣にいるはずのライナスの姿はなく、ランプを持った上官が1人。
「ち、違いますよ!本当に俺は先に寝ちゃって……あ」
目を擦りながら答え、そしてふと思い当たった考えが口から漏れる。
すかさず、トール以上に体格のいい上官が詰め寄り、狭いテントのなかでより暑苦しくなった。
「なんだ、思い当たることがあるのか?」
「……あ、いや、もしかしたら泉に涼みに行ったのかなぁって……」
トールは、寝巻きのシャツと薄手のズボンのままテントから引っ張りだされた。




