亡霊デビュー戦
廃ホテルの入口が開いた。
『どうもー! オカルトハンターズです!』
金髪のタクヤがカメラへ向かって叫ぶ。後ろにはケンジとユウ。三人ともニヤニヤしていた。
『今日はガチ心霊スポットです!』
『幽霊出たらどうする?』
『配信映えするから最高だろ』
三人は爆笑した。ホテルの入口には古びた立入禁止の看板が立っている。タクヤはそれを見るなり蹴り飛ばした。
ガンッ!
看板が倒れる。
『邪魔』
『お前また怒られるぞ』
『炎上しても再生数になるからな』
三人が笑う。管理室のモニター越しにその様子をニヤニヤと見つめていた。ミコは黙っていた。だが胸の奥が嫌な気持ちになる。
三人はロビーへ入る。床にはガラス片。壁紙は剥がれ落ちている。普通の人間なら不気味に感じる場所だった。だが三人は違った。
『うおっ』
タクヤが壁を蹴る。ボロボロの壁材が落ちる。
『やめろって』
『どうせ廃墟だろ』
さらに蹴る。笑う。カメラを回す。まるで遊園地に来た子供だった。やがて廊下の奥で古い祭壇のようなものを見つける。誰かが供えた花が置かれていた。
『なんだこれ』
タクヤが近付く。
『触るなよ』
『なんで?』
タクヤは花を蹴飛ばした。花瓶が倒れる。乾いた音が響いた。
『幽霊さん怒ってますかー?』
三人が笑う。
その時だった。
ギィィィィ……
奥の扉が勝手に開いた。
笑い声が止まる。
『……ん?』
『誰かいる?』
返事はない。
『風だろ』
タクヤは無理やり笑った。だが声は少し小さくなっていた。管理室。黒崎が釣り糸を手放す。
「一つ目成功」
イヤホン越しにミコへ伝える。
『聞こえてる』
ミコは三階の暗闇で待機していた。呼吸を整える。緊張していた。やっぱり辞めたい。帰りたい。そんな気持ちが芽生えていた。
その頃。
三人はさらに奥へ進んでいた。
『そういやここ』
ユウが言う。
『昔、自殺した女子高生が出るらしいぞ』
『マジ?』
『ネットに書いてあった』
タクヤは吹き出した。
『幽霊いるなら出てこいよ』
三人が笑う。
『死んだ奴も配信のネタになれば本望だろ』
爆笑。
その瞬間だった。
コツ。
コツ。
コツ。
廊下の奥から足音が聞こえた。三人が固まる。一定のリズム。ゆっくり。近付いてくる。
『……聞こえた?』
『聞こえた』
『誰かいる』
もう誰も笑っていなかった。
照明が点滅する。
パッ。
パッ。
パッ。
暗闇。
光。
暗闇。
光。
そして。
一瞬だけ。
廊下の奥に少女が立っていた。
濡れた制服。
長い黒髪。
俯いたまま動かない。
『うわっ』
ユウが声を漏らす。
照明が戻る。
誰もいない。
『見たよな』
『見た』
『女いた』
三人の顔色が変わる。すると突然。
バタン!!
背後の扉が閉まった。
『うわあっ!』
ケンジが飛び上がる。
『やめろって!』
呼吸が荒くなる。
そして。
『俺ちょっと見てくる』
ケンジが一人で廊下の奥へ向かった。強がっていた。だが本当は仲間の前でビビりたくなかっただけだった。ライトを照らしながら進む。
静かだ。
何もいない。
少し安心する。
その時。
廊下の突き当たりに少女が立っていた。
さっきより近い。
『おい』
ケンジが呼ぶ。
返事はない。
『誰だよ』
一歩近付く。
少女がゆっくり顔を上げた。
青白い顔。
血の気のない唇。
暗い目。
ケンジの全身に鳥肌が走る。
照明が消えた。
『うわっ!?』
真っ暗。
慌ててライトを向ける。
少女はいない。
『どこだ!?』
背後から。
コツ。
足音。
ケンジは振り返る。
少女が立っていた。
手を伸ばせば届く距離に。
『ぎゃあああああああ!!』
ケンジは絶叫して逃げ出した。
その頃。ユウも仲間とはぐれていた。
『タクヤ!』
返事はない。
『ケンジ!』
静寂だけが返ってくる。震えながら窓ガラスを見る。その瞬間。窓の反射に女が映った。真後ろに。
『ひっ!?』
振り返る。
誰もいない。
再び窓を見る。
映っている。
女が。
首を傾けながら。
『やめろ……』
ユウは泣きながら走り出した。
残ったのはタクヤ一人だった。広い廊下。静寂。仲間の姿はどこにもない。
『ふざけんな……』
タクヤは床に落ちていた鉄パイプを拾う。手が震えていた。
『出てこいよ』
声も震えている。
『出てこいって言ってんだろ!!』
怒鳴る。だが、返事はない。そして、廊下の奥に少女が現れた。
ゆっくり。
本当にゆっくり。
こちらへ歩いてくる。
『来るな……』
タクヤが後退る。少女は止まらない。
一歩。
また一歩。
『来るな!!』
理性が削れていき、恐怖が怒りに変わる。
『来るなああああああ!!』
タクヤは錯乱した。鉄パイプを振り上げる。そして絶叫しながらミコへ向かって走り出した。ミコは突然のことに体が動かない。タクヤはミコの顔面目掛けて、鉄パイプを振り下ろす。
鉄パイプが風を切る。
その瞬間。ミコは死を覚悟した。
――まずい。
本気でそう思った。幽霊のフリをしていただけだ。本物の幽霊じゃない。殴られれば普通に痛い。下手をすれば死ぬ。
ほんの数センチ先まで鉄パイプが迫る。避けられない。
はじめまして!
マオです!
こうして挨拶するのは今回が初めてになります。
私は漫画や小説を作りながら、「誰も知らない物語」を届けるために活動しています。
正直、まだまだ無名です。
それでも、いつかたくさんの人に作品を届けたいと思いながら、一つひとつ作品を作っています。
もし作品を少しでも面白いと思っていただけたら、感想や応援、ブックマークをしていただけると本当に嬉しいです。
皆さんからの反応が、次の作品を作る大きな力になります。
これからも面白い物語を届けられるよう頑張りますので、よろしくお願いします!




