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重伝琴葉 殉職!? 

9 策士 加藤伝右衛門


 二日後の宝来警察署第四会議室

 第四会議室では捜査三課から提出された変死体身元報告書を検討している。

「スタジアムで見つかった変死体の身元。マエダミエハル、二十五歳。虚栄商事営業課勤務。経歴の中に元重量挙げの選手とある」

 捜査一課長ミヤハラが言う。

「黄金町の変死体の身元、ミナモトショウゴ、二十六歳、尾和根製作所勤務。経歴では国内体操選手高校総体では三位に食い込んでる」

 重伝が言う。

「ということは二人とも相当体力には自信があるわけね」

 ミヤハラが繋げる。「そうなると、だ、残りの二人も体力自慢と言えるだろう」

 しかし神崎は報告書を見つめる恐ろしげに反論する。

「だからといって神輿のように金庫、担ぎ上げられますかね? それに相当な速度で走る異常な能力は、どう見ても人知を超えていますよ」

「何か驚異的な肉体改造を施したか……施されたか……でも二人とも手足は筋肉が異常に発達しているようには思えなかったわ」

 そう言いながら報告書を見ていた重伝の目がとある一文に留まった。

「え? マエダミエハルは天誅教教会の元信者……?」

 慌てるように次の頁をめくる。

「ミナモトショウゴも元信者だっ」

 別の捜査員が声をあげる。

「次のページを見ろよ。二人は、民主今平党の党員でもあるぞ」

 全員の思考が一時停止する。

 重伝は報告書を前にして腕組みした。

「二人の共通点……民主今平党を中心に事件が動いている?」

 ミヤハラは浮かない顔つきになった。

「報告書から読み取るとその可能性は考えられるが、相手は政治家だ。それも大規模災害庁のおさだ。軽々には動けんぞ。第一、これだけでは、なんの証拠にもならん」

「でも、捜査一課長、捜査する価値はあるかと」と重伝。

 そこに、ドアが開け放たれた四会議室に加藤副署長が顔を出した。

「諸君ご苦労」

 その声に一同は起立する。

「まま、抑えて抑えて」

 そう言いながら加藤は会議室中央の椅子にどっかりと腰を落とした。

「副署長、何か?」

 普段は机上で指示を飛ばすだけの加藤だが、自らが部屋に入ってくるのは非常に珍しい。

加藤はひとつ咳払いをした。

「まあ、懸命に捜査に当たっている君たちには申し上げにくいのだが……」

 何を言い出すか捜査員一同、緊張する面持ちで加藤を見る。

 加藤は徐に言い出した。


「スケロクビル火災捜査は、本日をもって終了する」


 突然の終了宣言に驚く署員全員、言葉が出なかった。

 口火を切った重伝。

「何故ですかっ。せっかく犯人像がつかみかけてきたというのにっ」

 加藤も納得出来ない表情だが――「上層部うえからの指示だ」

 そう一言だけ言うと加藤は席を立った。


 加藤がいなくなり静まりかえる第四会議室――


「なんでこうなるんだ」と捜査官の一人が諦めるように呻く。

「納得出来ません」と憤懣やるかたない表情の重伝だ。

 しかしミヤハラは加藤の心境を慮って言う。

「副署長も納得いってない口ぶりだが上層部からの指示となると逆らえんさ」

 捜査官の一人がぼやく。

「こんな終わり方じゃとてもじゃないが慰労会なんて出来ないぞお」



 午後から火災現場の規制が解かれたのを祖父江と天馬が見ていた。

「規制線が解かれたな。って言うことは中に入れんのか?」

「そうでしょうね」

 祖父江は頭を巡らす。

「と言うことは俺たちに出来ること……片付けられる前に再利用出来るものがないか探すことだぜ。楓さん、先生に連絡だ」

 天馬は寺家に電話を入れる。

 程なくしてトラックと共に全員がやってきた。寺家はその足で杉田の病院に向かった。

「はい、新しい作業服」と願成寺が二人に真新しい作業服を配った。「先生が用意したんだよ」

「これって先生個人で経費を負担してるんでしょ?」と天馬。

「そうだよ、経営者だからね」と願成寺が返す。

 寺家優子を思う天馬が言う。

「先生、資金続くのかしら?」

 逆に願成寺は天馬の憂慮を考えないかのようにあっけらかんとした。

「そうだよねえ、さっきも明日が返済日、どうしようとか深刻そうな顔つきだったけど。なんで社長んとこに相談に行ったんじゃない。でもさあ、喋れんのかなあ」

 そんな心配を他所に二人の間に立つ祖父江。

「ほら、二人とも。無駄口叩くんじゃねえ。倉庫で使えそうなもの探すんだ」

「あ、そうだ。ケンジ、これ」と願成寺が胸ポケットからタバコを差し出した。

「お、かたじけねえ」

 願成寺が火を差し出すと旨そうに煙を吐き出した。「吸えなくてイライラしてたんだ」

「これも先生の?」

 天馬が言うと願成寺が首を振る。

「うんにゃ。キャッシュカードの再発行、銀行にお願いしていたら今朝届いたんだよ。でね、これはあたしのポケットマネー」

「ちょっとっあなたたちはっ」

 この非常時に全く呑気な話だ、と天馬は癇癪を起こした。

 向かいの道路で赤色灯を回しサイレンをならすパトカーと消防車が慌ただしく通り過ぎていく。

「また事件かよ」

 吐き捨てるように祖父江は言うが――


 丁度この時、三人目の変死体が山下公園岸壁に浮かんで大騒ぎになっていたのだった。

 さらに四人目が赤煉瓦倉庫7街区の駐車場隅にひっそりと死んでいた。

 ふたつの変死体もマエダミエハルと同様岩洞法師の法力による死に方だった――



 宝来警察二階の刑事課大部屋の奥の方にある強行犯係の机の前で、頼近誠也が変死捜査資料作成に没頭していた。

「奇妙だよな」

 頼近が傍らの部下に言う。

「そうですよ、体内の臓器が爆発するなんて常識では考えられませんよねえ。ところで係長、スケロクビル火災事件捜査中止って聞いてます?」

「ああ。ビックリだよ。これで俺らの捜査資料も断裁機行きだな」と不満そうに頼近が言う。

 二人が語り合っていると内線が鳴った。

「係長、加藤副署長がお呼びです」

 何の呼び出しだろう……と思いつつ頼近は副署長室に向かった。

「頼近入ります」ドアをノックしながら副署長室に入ると、手を後ろに組んで窓の外を眺めている加藤の姿があった。

「呼び出して悪かったな」

 そう言いながら加藤は頼近の方を向いた。その顔は何か決心したような表情だ。

「スケロクビル火災事件、中止になったのは聞いているよな」

「はっ、上からの指示で中止と聞いております」

 おもむろに語り出す加藤。

「ワシはあと数年で定年を迎えるし上層部にたてつくつもりはない」

 何が言いたいのだろう……頼近は加藤の真意を測りかねた。

「今回スケロクビル火災捜査中止だが変死体の捜査は残っている。病死か事故死か、はたまた抗争による殺人か」

「お言葉ですが、ビル火災に端を発した付随的な事案ですが、火災事件が中止になった以上、『病死』扱いで捜査打ち切り、が現実的でしょう」と頼近。

「ワシにはそうとは思えない」

「はあ?」

 加藤の言葉に益々訳が分からないと頼近は首を振る。

「あくまでも不可解な変死事件だ。そこで、それを解明するためにワシは変死体事件の捜査班を起ち上げたいと思っている」

「新たな捜査本部立ち上げですか……でもまた上層部から、まった、がかかるのではありませんか?」

 いや……と言うように首を振る加藤。

「捜査本部、では上層部から横やりが入るのは目に見えている」

「副署長、何をお考えでしょうか?」

「宝来警察独自の捜査をする」

「独自の捜査? なにをおっしゃいます、副署長。県警本部から応援がないと苦しいですよ」

 そう言う頼近だが加藤は断言するように言う。

「捜査名称を変死体捜査評議会とする」

 加藤は続けた。

「これなら文句はあるまい」

 頼近はこの時、加藤の覚悟を悟った。「……加藤副署長……」

「頼近」

「はっ」

「防犯カメラ解析班と変死体捜査班の編成を頼む。大がかりではなく少数精鋭だ。人選は――頼近、君に任せる。明日からでも取りかかってくれ――以上だ」

 加藤の気持ちを汲んだ頼近は断言した。

「今から取りかかりますっ」

 頼近は敬礼をし副署長室をでた。その足で第四会議室へ行くと主だった捜査員はまだたむろしていた。

 頼近が言う。

「加藤副署長から新たな指示が出た。急を要する事案だ。今から人員を決める。吉川いるか?」

「ここにおります」と吉川が手を上げる。

「よし」と言いながら周囲を見回す。そこで重伝と目があった。

 躊躇無く頼近が言う。

「重伝――君もだ」


 頼近の一存で次々と捜査員が決められ、頼近を中心とした変死体捜査評議会が急ごしらえで出来上がっていった――


 宝来警察署の会議室でも一番小さい第六会議室が変死体捜査評議会の溜まり場となり、長机の前には今までの捜査資料が山積みされ、より詳細な変死体の資料が貯まっていった。

 頼近はワイシャツの袖をたくし上げながら、ハッパをかけるように言い出した。

「今日の午後も変死体が見つかった。司法解剖の結果を踏まえて身元調査を開始するが、まずは今までの捜査資料から目通してくれ」

「こんなにあるのか。渡されている資料は数枚だったぞ」と神崎が驚く。

 頼近は言う。

「捜査強行係で渡したのは要約文書だよ。実際は判明した変死体から司法解剖の結果や調査報告はこれだけあるんだ」


 

 東部病院救急センター

 寺家の手によって危機を乗り越えた杉田はICUから一般病棟に移されていた。

 個室の病室で眠っている杉田の横で寺家はじっと見つめていた。喉元の下には酸素管が着装され、各種測定器への信号線、右腕には点滴、と管だらけだ。

 ただその中でも静かな時間は流れる――

「耕一……」

 寺家は杉田の耳元で囁く。

「五百万の返済、立て替えておくからね……」

 寺家の声が聞こえたか杉田はうっすらと目を開けた。

「起こしちゃったみたい、ごめんね耕一」

 寺家は寝かしつけるように杉田の額に手を当てる。

「あらあ、先生ぇ、いらしてたんですかあ」

 看護士の小島ミドリが話ながら入室してきた。

「もうそろそろかなあと思って点滴の具合見に来たんですぅ……やっぱりちょうど良いようですねえ」

 手早く取り去る小島。解放された杉田の右腕が動き始めた。寺家には何のことか分からなかったが、小島ミドリはメモ帳とペンを渡した。

「筆談なら何とか出来るようになりましたんですぅ」

 小島ミドリはゆっくりと電動ベッドを起こし始めた。そこで杉田は書き出し始めた。

『五百万?』

「ごめん、愚痴ったの聞こえたのね。傘内信用金庫の柴田さんが来て明日返済日なのよ。心配しないで何とかするから」

『利子 借り換え』と言う文字が躍った。

「何、どういういうこと?」

 当初は何を言っているのか意味不明だったが、だんだんと理解出来た寺家だった。

「要するに利子だけ払って元本はそのままッて事ね? そんなことたまにしてる? さすがこうちゃん……好きよ」

 寺家は杉田の頭を撫で繰り回すが、成り行きを傍らで見ていた小島ミドリは思った。

『病室じゃなくて、よそでやって欲しいわよお』


 とりあえず杉田の機転で返済問題は一時的にも免れたのであったが……


10 後輩


 三日後の第六会議室

 ミヤケ捜査官はホワイトボードに二人の顔写真を貼りだしていく。一人は不鮮明だがもう一人は優しい顔立ちをしている。

 ミヤケは言う。

「本牧ふ頭で発見された変死者は海水を大量含んでいたためこのようにAIでも明確にはならなかった。だが7街区みなとみらい駐車場で発見されたほうはかなり正確に仕上がり、これを行方不明者届の写真と照らし合わせた結果、ヒットしたのがこの男。カズサトモヒト」

 その名前を見た瞬間、おもわず重伝が立ち上がった。「それって――」

「どうした重伝、心当たりでもあるのか」と頼近が言う。

「間違えなければ、コーナン警察署捜査二課で一緒だった後輩だわ」

 写真を見つめている重伝は心なしか震えている。

「よく覚えているもんだな」と感心する頼近。

「覚えてるも何も……新人だったのでよく教え込んだわ。性格も神崎と同じぐらい素直だった」

 神崎は言う。

「だから僕も厳しく指導してるんですね?」

 頼近が声をあげる。

「水死体は今後の捜査次第として、判明したカズサトモヒトの身辺捜査を行おう。そうだな吉川班、君たちが……」

 言いかけたのを遮るように重伝言う。

「私が捜査しますっ」

 言い切る決意の重伝の表情――頼近は冷ややかに重伝を見つめる。

「私情は抜きだぞ、出来るか重伝――」


 資料室に走る重伝と神崎。

「そのカズサトモヒトってなんでまた行方不明に?」

「バディとして組んでからかなりたって退職した。鍛えれば優秀な捜査官になると思って指導してたんだけど、退職と聞いてがっかりしたものよ。指導が厳しくて辞めたのかな」

 そう言いながら重伝は傍らの端末装置を叩いてカズサトモヒトの情報を引き出す。

「港南区笹下……届け出は両親……届け出日、失踪時の服装……」

 次々と頭の中に叩き込む重伝琴葉。

「まず、両親と会う」


 日没近く、カズサの邸宅に到着した。

 警察です……と玄関先でいきなり言われ、応対した母親は咄嗟に「トモヒトが見つかったんですか?」と重伝に問いただした。家族にとって大事な一人息子であり、その存在はとても大きい。

「夕飯時に申し訳ありません。まだ発見されておりませんが確認したいことがありましてお伺いしたのです」

 重伝の後ろでは神崎は聞き逃すまい、と無言で立っている。

「確認したいこと?」

 父親が顔を出した。

 両親とも六十代前半だ。

「行方不明になる前に何か変わったことございませんでしたか」

「変わったことねえ……」

 父親は顎を撫でながら思い出す。

「一年前に警察を辞めてからは自室に籠もりっきりでパソコンを眺めるだけでしてなあ、引きこもりを心配はしてたんですよ」

「部屋から出るのは食事とトイレだけ」と母親も言い出す。

「警察を辞めた理由は何か話していましたか」

 父親は思い出すかのように言う。

「いやあ思い当たることは何も……かえって、良い先輩に指導を受けて励みになる、と喜んでいましたけどねえ。それがいつの間にか警察を辞める、と言う話になって、驚いたんですが、本人の意志は固かったですなあ」

「トモヒトさんのお部屋、拝見出来ますか?」

「それでトモヒトの行方が分かるなら、どうぞ」と父親。

 重伝と神崎は、失礼します、といって上がり込んだ。

「二階の突き当たりがトモヒトの部屋です」

 そう言いながら父親はドアを開けた。六畳ほどの部屋だが正面にはちいさな祭壇が祭られていた。


『やっぱり……』


 祭壇を見た重伝は落胆し膝に手を当てた。その仕草に両親は不安に思ったように言い出した。

「随分前からあったんですが、これで息子の気が晴れるなら、と思ってそのままにしてたのですなあ。刑事さん何か?」

 気を取り直す重伝。

「いや、信心深い息子さんだ、と思いまして……その他に何か思い当たることはありましたか。何でも結構です」

「思い当たることねえ……」

 父親は顎を撫で右横の机を見る。

「インターネットで何か検索していたことくらいですかなあ」

 母親がふと思い出した。

「おとうさん、何時だったかのお昼時、政党の名前、口にしてなかった?」

 その声に父親も気がついた。

「そういやそんなことあったな。そう、それから二日して部屋を飛び出してそれから帰ってこなかった。何処でどうしているか、犯罪に巻き込まれたんじゃないか、と思って警察に相談しに行ったんですよ」


 両親の言葉に重伝の心がざわつき始めた。

 

 間違って欲しい!


「口にした政党の名前、覚えてますか?」

 父親が言う。

「政党の名前より、その党首の名前に印象がありますなあ」


 それ以上聞きたくない――重伝は耳を塞ぎたかった。



 一方、焼け跡ではガラクタを拾い上げていた。

「この長机、使えそうじゃん」

 管弦は掘り当てた。

 その他にくの字に曲がった寸胴鍋、取っ手が焼け落ちたフライパン、欠けた皿など次々と拾い上げていった。

「結構、掘り出しもんあるんだねえ」

 願成寺は現場から探し当てる。


 その他も使えそうな物品を探す様は、まるで火事場泥棒のようだ。


「お、これは?」

 祖父江は金属の塊のようなものを探り当てた。それは焼けただれたHAL9000の残滓だ。焼けただれた取っ手が痛々しいが深く埋まっていて容易に取り出せない。

「何か見つかりました?」

 祖父江の側に天馬が近づいた。

「これ、HAL9000のボディだと思うぜ。だが残骸が邪魔で掘り出せん」

 諦めるような祖父江だが、やはり近寄った越狩が言う。

「この特徴はまさにHALさんでやんす。このままそっとしていたほうが供養というもんでやんすよ」

 天馬は言う。

「まって」

 しゃがみ込んだ天馬は左腕を取っ手に伸ばす。

「おいどうすんだよ」

 バイオアームの左腕が残骸を捕まえ、ゆっくりと引き出す。

「まじでやんすか」

 ビックリする越狩。

 鞄ほどの大きさだが中味は和道が引きずり出しているので空っぽだ。

「天馬、その腕……?」

「他人には見せるな、と言われたけれど。仲間なのにこのままじゃ可哀想よ」

 的場が声を出す。

「これ直美さんの笛でがすか」

 焼け焦げていて使い物になるか分からないが焼け跡から腰袋を的場はかかげる。

 ややあって警察車両が止まった。

「押収物、返却する」

 ぶっきらぼうに言う警察官が三つの段ボール箱をおいていった。

「今更返されても、どうすりゃ良いンかさ」

 管弦は不服そうだが、天馬は段ボールを覗き込む。

「顧客名簿があれば、それを元に営業がかけられるかも」

「どんな意味があるんだよっ」と反発するような管弦。しかし祖父江は考えた。

「瑠那、そりゃ意味あるぜ。電話かけまくって仕事取るんだ。てぇ事は倉庫に電話が必要だぜ、先生に言って電話、引いて貰おうぜ」

 ここで的場が口を挟む。「先生の負担が益々増えるでがす」

「だよなあ……それに口の利き方知らないからなあ」と願成寺。

「営業電話、あたしがやるわ」と天馬。

 少し希望が見えてきた……その矢先寺家が戻ってきた。


 一時的にせよ返済問題が棚上げされ晴れ晴れとした顔つきだ。


「どう、使い物になりそうなもの見つかった?」

 伊東はだまってトラックを指さす。

「あら、意外と掘り出し物があるわね」

 寺家は時計を見る。「そろそろ営業時間も終了ね」

「日没までまだ間がある、ギリギリまで拾い集めるぜ。なあ……」

 祖父江は皆を見回す。すっかり祖父江はまとめ役だ。誰も逆らうことはない。


 そのなか、一台の高級車がやってきた。

「岡田かよ」と管弦。恭しく後部ドアが開かれ、管弦が言うように岡田が現れた。

 眉をひそめる願成寺。「請求書でも持ってきたんじゃあ?」

 だが岡田の目的は違った。

「人数分の段ボールベッド手配した。今夜には届く。じかに寝るのでは寒かろう?」


 有り難い申し出だが、そうまでする岡田の真意は一体何処にあるのか?


11 乗り込む重伝――そして


 第六会議室

「そうか。カズサトモヒトもその一員、と言うわけだな」

 頼近は重伝の報告を聞いてため息をつく。

「ますます民主今平党の疑惑が濃くなったな。だからといって相手は国会議員で長官も務めている。かなり証拠を積み上げていかないといかん。さらにどのような方法で死に至らしめたか、想像も出来ない」

 ミヤケが言う。

「大体、今平党周辺に防カメが設置されていないのがどうも不思議ですよ。どうしますかこっちでカメラ設置しますか」

「予算が通るか……それよりも今平党から警察庁に珠伊師党首のさらなる警護要請があったようだ」

「まじっすか」と若い刑事が驚く。

 頼近は腕を組んだ。

「SPの警護だけでは心許ないと思ったのか、何か危険を感じたのか……」

 ミヤケは言う。

「だとすればそれを理由に捜査カメラを設置するのは?」

「まず難しいだろう。事件性が無いわけだし。そうだなあ……ザキの商店街組合に協力をお願いするしかないだろう」


 重伝と神崎は商店街組合長に打診したが、意外な答えが返ってきた。

「民主今平党が?」

 重伝は驚くように組合長の顔を見た。

「そうなんですよ刑事さん。今平党の幹部がプライバシーの侵害を理由にね、だからあの周辺カメラがないんですよ」

 組合長は、仕方ないと言う顔をする。

「その幹部と掛け合ってきましょう、なんていう方ですか」

 組合長は名刺ファイルを見ながら言う。

「『近藤』と言う方です」


「近藤は外出中です。……戻る時間ですか? 把握しておりません。珠伊師党首なら行き先は存じていると思いますが、党首も大規模災害庁で執務中です」

 若い受付の声が素っ気なく飛ぶ。

「一度お話ししたいことがありますので、お戻りになられましたら宝来警察署の重伝琴葉までご一報くださるように」

「分かりました。伝えます」

 そう言って重伝達は党本部から引き上げた。

「そう、分かりました」

 受付から報告を聞いた珠伊師和代は党本部の執務室に身を隠していたのだ。

 そして傍らにかしずいている大男に言う。

「宝来警察署か。何か探りに来たのかのう、聖ハントス」


 近藤――聖ハントスも珠伊師和代の執務室にいたのだ。


 近藤は考えるように言う。

「女刑事ですか。注意人物かも知れませぬ。身辺警護の強化早いに越したことはありませぬ。そうなれば地元警察より、SPの増援を図ったほうがよろしいかと」

「ならば今一度、小田切警視総監に増援を強く申し込むぞよ」

「は。良きお言葉でございます。近藤、感服いたしましたぞ」

 珠伊師は近藤を見る。

「聖ハントス、お前は当分、地方各地の民主今平党の支部周りで出張中とする。良いな?」

「ははっ」


 午後五時。重伝は天馬のマンションに戻った。ドアを開けるとそこには誰もいない空間だ。

 重伝は大きくため息をつくと、リビングに向かい、天馬あてに手紙を書いた。


『天馬楓へ 半年会えてないけど元気にしているかな さんざん使わせて貰ったけど家賃取らなかったね ありがとう』


『家賃代わりに 全て置いてくから これからあたしは いなくなるかもしれないけど 心配しないで』


『どうしてもいかなければならないことが出来たの』


『可愛がってた後輩が 殺された 間違いない 知った以上見てぬふり出来ない あたし はこれから いく』


『鍵はポストに入れとく さよなら』


 書き終えるとテーブルの上に置き静かにリビングを出た。

 マンションのドアに鍵をかけると暫く無言でドアの前に立っていた。そして――意を決するかのようにドアの鍵をポストに入れる。

 カラン……と言う音が響く。

 その音を確認した重伝は振り返ることもなくエレベーター前に歩を進めていった……。


 次に続く


第9話 最終章に続きます

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