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金庫強奪

3 不自由な身体

 背中一面に火傷を負っている杉田は両腕を枕に病院のベッドでうつ伏せに寝かされ、ネブライザーで焼けた喉の治療で身動きができない。

 何日この状態でいるのか、見当がつかない。

『俺はどこにいるんだ……皆、どうしてる? 和道が一番心配だ……こうしちゃいられないぞ』

 ベッドから立ち上がろうとすると左腕が、背中が、強烈に痛む。

 ベッド内部のセンサーが異常を察知、看護師ルームから看護師がとんできた。

「動いちゃ駄目ですよう、杉田さん」

 愛嬌あふれる小太りの年配ナース、小島ミドリが言う。

「……俺……やる……事……」

 とぎれとぎれに言葉を出すが、火災の際の呼吸で杉田の喉は気道熱傷を起こしておりこれが精一杯だ。

 息を吸うと途端に喉にも痛みが走る。

 そして激しく咳き込むと背中に猛烈な痛みが走り二重苦にさらされる杉田。

「喋ってはいけませんよう、安静にしてていただかないとぉ。三時間後に背中に軟膏を塗ってあげますからねぇ」

 治療薬の軟膏を塗るにしても、湿潤した体液がガーゼや包帯が染みつき、背中じゅうに張り付いている。取り替える度に激痛が走る。それも一日二回は身悶えするのである。


 別の病院では和道は集中治療を受けている。いつ亡くなってもおかしくない状態だ。

 黒川も蔵前もベッドに寝かされ身動きできない。


 そんな状況を知りたくても知るすべを持たない杉田だ。

「あと……(げほ)……どれ……(げほ)……」

 小島ミドリは制する。

「だからぁ喋ちゃあ駄目ですよう。分かりますよ、退院できるのは後何日かかるか、でしょ?」

 弱々しく首を降る杉田。

「担当医から退院許可が降りるまでねぇ。今までの例だと三か月くらいかなあ」

『そんなにかかったらそれこそスケロク商事は潰れちまう……』

 気が気ではない杉田だが、小島ミドリは杉田を諭すようにわざとのんびりとした口調で言う。

「焦っちゃぁ治るのも遅くなりますよぅ、先生から処方されたお薬飲みましょうねぇ。舌下錠ですから水無しで飲めますからぁ」

 素直に与えられた薬を舌先で転がしていくうちに眠気が襲ってきた。ウトウトする杉田。

 それは睡眠薬だった。

 杉田は眠りに落ち、ネブライザーの音だけが静かに鳴っている。

 完全に眠りに入ったことを確認した小島ミドリは呟く。

「やっと落ち着いたわねぇ。可愛そうだけどこのまんまじゃあ逃げ出しそうだし。会社より生命いのちのほうが大事なんだからねぇ」


 ある意味、小島ミドリの予想はあたっているのだが――


 ナースルームに病院受付アバターが小島ミドリを呼び出した。

『受付に警察の方が二人患者の杉田様に面会を求めておりますが如何致しましょう』

 マイクを握る小島。

「面会に警察の方ぁ? とりあえず伺いますからお待ち頂くように話してくださいな」

『承知しました』

 しかるのち小島は待合室に赴いた。

「お待たせしました」

 小島ミドリは二人の警察官に軽くお辞儀をする。二人は重伝と神崎だ。

 警察手帳をかかげた重伝が口を開く。

「こちらにスケロク商事代表の杉田さんが入院していると伺いまして、杉田さんと事情聴取したいのですが」

 そんなことだろうとおおかた予想をしていたが、いざとなると重伝の言葉の重みに怖気づく小島ミドリだ。

「事情聴取ぅ? 火災の原因でぇ? 担当医の許可が必要ですしぃ、まず会話は不可能ですよぉ。それに良くここが分かりましたねぇ」

 神崎はむすっとした感じで言う。「警察を侮るなよ」

 重伝は神崎に言う。「神崎、口出しするな」

 重伝は小島に謝る。

「失礼しました。彼は先走る癖がありますが、警察は情報を把握する立場におります。でも会話出来ないのとは、そんなに重傷なのですか?」

「火傷は軽傷の部類ですが、それ相当の治療が不可欠ですぅ」と小島は言う。

「警察としては状態だけでも拝見したいです。無理でしょうか」

 あくまでも強硬な重伝だ。

 渋々承諾する小島ミドリ。

「面会許可が必要ですが、警察の方々ですからねぇ。病室まで案内しますが、内緒にしておいてくださいよぉ」

「わかりました」

 そして病室に顔を出す二人の刑事。確かに苦痛に顔を歪ませ寝ている杉田がまさにベッドにうつ伏せで横たわっている。

「杉田さん……」

 杉田の耳元で囁くが反応はない。

 腕を組む重伝。

『この状態では事情聴取は無理だな』

 そう見立てた重伝は小島ミドリに念を押すように尋ねた。

「明日明後日ぐらいには会話出来そうですか」

 重伝の問いかけに小島ミドリは、滅相もないと言いたげに、手を振った。

「気道熱傷を起こしておりますんでぇ十日以上は会話出来ませんねぇ」

「そんなにかかるのか」と神崎。

 怒る重伝。「あんた黙ってって。筆談は可能ですか」

 小島ミドリは困った顔をした。

「出来なくはないですけどぉ、火災の後遺症でどの程度できるか私は分かりませんねぇ」

 畳み掛ける重伝。

「筆談も出来ませんか」

「まあやってみないことには……」

「起床時間は何時ですか」

「七時半ですねぇ」

「明日その頃伺います」

 小島ミドリは、尋問しているようにしつこく尋ねる重伝の顔に執念を感じ取った。

「分かりました、事務局にそう伝えます」


 警察車両に乗り込む刑事二人。

「杉田と和道以外のウラは取れましたけど、まず保険金目当ての犯行ではなさそうですね」

 そういう神崎に対し重伝は言う。

「そんな簡単に結論出しちゃ駄目。いくら外部からの放火といえども全員を疑ってかかるのも警察の役目よ。明日七時半再訪する……私人として杉田社長とは縁が深いけどね、捜査は捜査だ。私情は別」


 放火だからこそ色々なシチュエーションを潰してゆくのが警察の役目である。


 その一方――

 岩洞法師の前に両腕をだらりと下げている四人の下人が控えている。

「金庫の在処分かったのか?」

 一人の下人が抑揚のない声で「へえ」と声を出した。

「取り返せそうか?」との岩洞の問いかけに対し別の一人が言う。

「埋まってまさあ」

 やはり抑揚のない声だ。「掘り起こさんンと」

 それぞれ短く話すのは岩洞の法力に縛られているからだ。

「掘り起こせ」

 岩洞は命令する。

 しかし「無理で」と短く言う下人達。

「掘り起こすのは無理なのか?」

「へえ」

「掘り起こす道具を用意しても駄目か」

「へえ」

 生気が失せるように下人は答える。

『並外れた身体能力を持つ貴様らを選定したが……なんとかしないとこのままではあの方の怒りを買うだけだ』

 決断した岩洞が四人に命令する。

「お前らの特殊能力を限界まで上げる。ワシを見ろ」

 言われるまま虚ろな目を向ける下人衆。

 岩洞の目が金色色こんじきいろにひかる。

「おおっ」

 四人衆に力がみなぎる。


 岩洞は今回の作戦に対し、並み居る下人達から身体能力が異様に高い特殊能力を備えている四人を厳選していた。

 四人は怪力の持ち主であり、並外れた跳躍力を持つ異能集団だった。

 岩洞はその能力をまた一段引き上げる催眠法力を使った。しかしそれは体力の限界を超えるのであり、使い果たせば肉体の『死』を与える凄まじい催眠法力――四人を死なせても手に入れなければならない。

岩洞の額に汗が吹き出た。強力な催眠法力は岩洞の体力をも消耗するのだ。

『……何としても今夜には……』

 岩洞は焦りの色を濃くしたが、 放火と断定されたスケロク事務所火災現場では四六時中警官たちが警戒に立ち、検察の捜査が夜通し続くようになっている。



 火災から二日目の夜、深夜二時

 スケロク三号車の荷室には祖父江、伊東、的場、越狩、御手洗の五人だ。シェパードのグローリー号は盲導犬協会に、ハヤブサの権太は野毛山動物園にそれぞれ引き取られていった。

 御手洗は黒猫マギーを抱えながら背中を撫でている。

「今夜も来るかなあ」と御手洗がボソリという。

 全員、火災がトラウマとなっており、眠れない夜を迎えているのであった。

 火災現場には複数の投光器が強烈な光を放っており、その光のもとで複数の職員が動いている。どうやら災のもとになった金庫を瓦礫の中から掘り起こしているようだ。

 深夜の火災現場に、ざくり……ざくり……と音が響く。

 トラック荷台の端に寄りかかり遠目で見ている祖父江が呟く。「ご苦労なことだ。警察の奴ら金庫を掘り当てたようだぜ」

「金庫持ってかれるのぉ?」と御手洗。

「仕方ねえだろ、立入禁止だしどうすることも出来ねえ。グローリーがいたって警察じゃあな」

 諦め顔の祖父江の横顔に投光器の光が映える――

「中見たら腰抜かすだろうぜ。それになんでこんな物があるんだってぇことで、俺ら尋問されるだろう。嫌疑がかけられ全員逮捕、送検となりゃあスケロク商事はお陀仏だ……」

「ヤバイでやんす」と話を聞いていた越狩が寝袋から身を起こす。「どうせ、神奈川県警の女刑事片平の差し金でやんしょ」

 祖父江は独白する。

「ナントカしてくれ、社長。寺家先生だけでは無理だ。消防に連絡……いや、個人情報が厳しいから教えてはくれんだろう」

 その時、数人の警察官が交通規制に乗り出した。赤い光を放つライトが複数見える。

「奴らナニするんだ?」と身を乗り出す祖父江。程なくして巨大なクレーン車がエンジン音をたてながらゆっくりとやってきた。

 祖父江はピン、ときた。

「そうか。クレーンで金庫、吊し上げるつもりだぜ」

「こんな深夜なのにぃ? 近所迷惑考えないのぉ?」と御手洗。

「周りはビル群だ。夜間は人気ひとけが無い。深夜だし交通規制もやりやすい。俺達にゃ分からんが警察は早く手に入れたい理由わけがあるんだろう」

 祖父江の言葉に全員は気落ちする。


「ん?」

 祖父江は異変を感じ取った。


 深夜に流れる奇声――警察官達の怒声

 火災現場がにわかに騒ぎ始めた。


 何が起きたのか――五人は思わずトラックの荷室のヘリにしがみつき、成り行きを驚きの目で見つめる。

 複数の警察官が警棒を振りかざしているようだ。その先にはあの異能者が四人。

 催眠法力によって極限まで肉体を強化された四人が、両腕を振りながら警察官たちを掴み上げなぎ倒してゆく。弾け飛ぶ警察官が瓦礫の山に突っ込まれる。頭から流血する警官……絶叫……

 ワラワラと警察官たちが集まるが四人は平気だ。

「抵抗やめろッ発砲するぞッ」

 その声だけが深夜に響く。

 二人が金庫にむしゃぶりついた。その強靭な肉体で五十キロはある金庫をまるで空箱のように軽々と持ち上げた。

「威嚇発砲、開始ッ」

 主任警察官の切迫した声が響く。

 パン……パン……

 拳銃の乾いた音が天に響く。しかし怯むこともない二人が、金庫を警察官に向けて投げつけた。

 うわ……

 地響きのような音とともに簡単に金庫が転がり、運悪く交わしきれない警察官の左足から骨が折れる鈍い音がする。逃げ遅れた警官の一人が金庫に潰される。

 発砲を繰り返す警察官達。

「撃っても効かないぞっ!」

「何だこいつらっ、人間じゃねえっ!」

「こっちに来るぞ!」

 恐れをなした警官が逃げ惑う。

 さらに四人が事もなげに血に塗れた金庫を拾い上げ、耐火金庫をいとも簡単に警察集団に放り投げる。

 血を滴らせながら宙を飛ぶ金庫は今や凶器だ。

 複数の発砲音が木霊するが四人は平気だ。

 

「凄え……」

 五人は言葉にならない衝撃を受け、一部始終を見つめていた。


 そして――耐火金庫は闇に消えていった。


次回は病院を抜け出そうともがく杉田を中心に進みます。喉は焼かれ背中の火傷で歩く度に激痛が走ります。そんな追い込まれている状況で果たして病院を抜け出る事はできるのでしょうか?


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