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金色と漆黒  作者: 雨後乃筍


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3. 金色の人生

 冬香は、焼酎をストレートで飲みながら、まるで他人の話をするかのように、自分の過去を語り始めた。

 どこか諦めたような、虚しいような、でも淡々とした喋り方で。


 その内容は、夏美が夢にまで見た刺激的な人生だった。


「私はさ、高校入ってすぐ家出したんだよね。母親が再婚して、その再婚相手が私の風呂を覗きに来るクズ野郎でさ。あ、本当の父親? 誰だか知らないんだ。母親も誰が父親だかわかんないみたい」


 夏美は、自分の退屈な学生時代とはかけ離れた話に、両手で缶ビールを握りしめた。


「高校なんて行ったの、最初の数カ月ぐらいかな。夏前には家に帰らなくなって、ダチとか、ネットで知り合った男の家とか、転々としてた。金をもらったこともあったな。あれって売春とかになるのかな?当時はそんなことも考えてなくてね……」


 夏美は、あまりの衝撃に呆然としていた。テレビとかネットニュースで見るような話が、いま目の前で展開している。


「ふつー、娘がそんなことしてたらどうする? ひっぱたいて、引きずってでも連れ戻すでしょ? でも私の親は我関せず。厄介払いができたぐらいに思ってたんじゃないかな?」


 そんなことないって夏美は言いかけたが、口をつぐんで話を聞いていた。自分はそんな無責任な言葉は出せない。


 ーーそれにしても……。


 夏美は、想像の遥か上をいく衝撃的な冬香の話に、言葉を発することができず、ただ黙って聞いていることしかできなかった。


「男の家巡りも、友達と遊ぶのも、なんとなく飽きちゃって。十八で海外に出たのが、人生のターニングポイントかな。バックパッカーって言うと聞こえは良いけど。要するに貧乏旅行者。最初は楽しかったよ? 見たことのない風景、言語、食べ物。けど、お金無くなるとやばいじゃん?」


 冬香は焼酎のパックをくるくると手の中で回していた。


「イタリアの……あれはなんて街だったかな? 日本人なんて居ないようなトコに行ったときの話ね。街でフラフラしているヒッピーみたいのに声かけられて、もう見た感じからヤバそうなんだけど、行く宛もないからついて行ったんだよね」


「え? それって危なくないですか?」


「それまではさ、公園とかで寝ていたんだよね。だからさ、寝れればどこでも良かったんだ。いま考えたらそうとうヤバいよね?殺されても文句言えないよ」


 ぞくぞくする。夏美はスリルと興奮で身震いした。


「こんなこと言ったらおねーさんに引かれちゃうかな? そいつの家で、みんなキメてんの。あ、クスリってことね」


 ーークスリ? ドラッグ?!


 夏美はまじまじと冬香の顔を見た。


「あたしも変な錠剤飲まされてさ。もう頭の中ぐちゃぐちゃ。でも多幸感ってヤツ? とにかく楽しくって、あ、おねーさんも経験ある?クスリ」


 夏美は、黙って俯くことしかできなかった。夏美の心の中は、よくわからない敗北感を感じていた。


「やったことないよね? うん、やらないほうが良いよ。芸能人とか芸術家とか、クスリで捕まる人いるじゃん?あれ、分かる気がするんだ。芸能人とかにチヤホヤされて、あるとき相手にされなくなった時、チヤホヤされたときの高揚感を味わいたいとか、凄い発想が浮かんだりするんだ。だってさ、ただの石ころをみているだけなのに、楽しくって目が離せなくなるんだから。狂ってるよね」


 そういう冬香の表情はちっとも楽しそうじゃなかった。


「気づいたら、朝の公園でさ、一人で寝てた。服も半分脱げててさ。たぶんヤるだけやって捨てられてんだろうね」


 夏美は、冬香の話が現実離れしすぎて、目がまわりそうだった。


「え? 大丈夫だったの?」


「なにが? 体? もうボロボロ」


「いや、そうじゃなくて、その……」


「心の問題? ぜーんぜん、日本にいるときとそんなに変わんないよ」


「そう……なんだ……」


「で、自分のポケット見たらさ、なんか金が入っていたのよ、それも結構な金額。よく盗られなかったと思ったけど、半裸でホームレスみたいな女が、道端に横たわっていたから、死んでいるとでも思われたんだろうね」


「それは……ラッキーでしたね……」

 夏美はやっとの思いで言葉を出したが、場違いな言葉だった。


 冬香はフッと笑った。


「ラッキーか……そうだね。でさ、その金でそっからカジノに行ったら、めっちゃ当たっちゃってさ! あれも一種のドラッグだね」


 夏美には、想像すらしたことのない世界だった。


「一瞬で金持ちになれたよ。億万長者まではいかないけど、札びらで男を犬みたいに使えるぐらいには儲かってね。それはそれで楽しかったけど、金が無くなったら誰もいなくなったよ。本当に蜘蛛の子を蹴散らす感じで、バーってね」


 夏美は息をのんだ。目の前の金髪の女性が、まるで冒険映画のような体験をしてきたことに、現実感がなかった。


 <つづく>


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