第78話
あの竜の都での一件でちゃんと姿が消えていることはわかっているけれど、それでも緊張が走る。
上空から見る限り、その集落の規模はこれまで立ち寄ったオアシスの街とさほど変わらない。
しかし近づくにつれ異変に気付く。
(……?)
徐々にはっきりと見えてきた住人たちは人の姿の者と魔族の姿の者、半々だった。
その者たちが住居となっているらしいいくつもの横穴を慌ただしく行ったり来たりしている。
更には大声で叫ぶ声、泣いている子供の声まで聞こえてきて胸がざわついた。
彼らを見下ろせる低めの岩山にエルとローサが着地して、メリーもその近くに降り立った。
「何かあったのでしょうか?」
姿は消えていても声は聞こえてしまうとエルから聞いたのだろうか、ローサが声を潜め言った。
私はメリーに言ってその場に降ろしてもらい、改めて魔族たちの様子を見下ろす。
と、そのときカネラ王子が比較的大きめの横穴から出てくるのが見えた。魔族たちの行動に気を取られて気付かなかったけれど、いつの間にか中に潜入していたみたいだ。
王子はこちらの姿を見つけると忙しなく行き交う人々をうまく避けながら飛び上がった。
「何かわかりました?」
同じ岩山に降りた王子に訊くと、彼は集落を見下ろしながら答えた。
「クレマの街と一緒。怪我人が大勢いるっぽい」
「!?」
驚いて、しかしすぐに納得する。
クレマ王子の街があれだけ滅茶苦茶になっていたのだ。魔族側も無傷とはいかなかったのだろう。
クレマ王子も精一杯応戦したと話していた。
「それで、お願いがあるんだけど」
カネラ王子が続ける。その視線はなぜかメリーを向いていて。
「あのときみたいに魔法で治してあげられないかな?」
「は?」
「まさか、魔族たちを助けるおつもりですか!?」
思わずといった様子で声を上げ慌てて口を押さえたローサにカネラ王子は頷く。
「そう。ダメかな?」
「メリーは絶対に嫌なのです!」
改めて訊かれたメリーが私の後ろに身を隠しながら(私より大きくなったため全然隠れられていないけれど)信じられないという顔でブンブン首を横に振った。
「魔族なんて助けたくありません!」
「そっか……」
困ったなぁというように頭を掻くカネラ王子に、ローサが控えめな声で抗議する。
「なぜです! 魔族たちはあなたのお兄様の街を襲ったのですよ? 自業自得ではないですか!」
「まぁ、そうなんだけど……でも、魔族たちも同じこの『砂漠の国』の民だし」
「……っ」
ローサは言葉を失ったようだった。
(カネラ王子……)
私も彼のそんな発言に驚いていた。
と、彼は今度はローサの隣に立つエルに視線を向けた。
「じゃあ、妖精王さまは? 妖精王さまも癒しの魔法使えるんですよね?」
「うん。使えるよ」
にこやかに頷くエル。彼はどう答えるだろう。
エルも妖精。しかもその王様だ。魔族にはやはり良くない感情があるのだろうか……?
そんなことを考えていると、その翡翠の瞳がこちらを見た。
「コハルはどう思う?」
「え?」
「僕はコハルの意思に従うよ」
「え!?」
皆の視線が集まって私は動揺する。
「なんで私……」
「コハルは早く竜帝くんに会いたいんだろう? 魔族たちと話せば何か情報が得られるかもしれない。けど危険はあるし、ただ時間をロスするだけになるかもしれない」
(確かに……)
……魔族たちはクレマ王子の街を襲撃した。血を流し苦しんでいる人たち、それを見て悲しんでいる人たちが大勢いた。
そんな酷いことをしたのだ。ローサの言う通り、自業自得だとも思う。
(でも……)
そのとき再び大きな泣き声が聞こえてきた。
集落に視線を戻すと、女の子だろうか、魔族の姿をした小さな子がひとり顔を上げて泣いていた。
その姿はクレマ王子の街でお父さんを助けてくださいと泣いていたあの子とあまりに変わらなくて。
「……助けたい」
「コハルさま!?」
メリーとローサが目を剥いて驚く中、エルが優しく微笑んだ。
「コハルがそう望むなら。と言っても、僕がいきなり行っても驚かれるだけだろうし、やっぱりまずは君が話をつけてきてよ、カネラ王子くん」
王子はすぐに頷いた。
「ありがとうございます、妖精王さま」
言うなり彼は再び翼を羽ばたかせ岩山を飛び立った。
「あ、もう俺の魔法解いちゃってください」
「了解」
「じゃ、行ってきます」
そして彼は再び集落へと降り立つと、先ほどの泣いている子供の元へと駆け寄った。
魔法が解け王子の姿はもう見えているはずだが、その存在に気付いている者はまだいない。
王子が声を掛けるとその子は泣くのを止め彼を見上げ何か話し始めた。ここからではその会話は聞こえないけれど、子供が怖がっているような様子はない。
すると王子はその子の手を引き、そのまま先ほどの横穴の中へと入っていってしまった。
「大丈夫かな……」
「大丈夫なんじゃないかな?」
エルのあっけらかんとした声が返ってきたけれど全然安心できなかった。
それからどのくらい待っただろう。
流石に様子を見に行った方がいいのではないかと思い始めた頃、カネラ王子が横穴から出てきてこちらに向けて大きく手を振った。
「お願いしまーす!」




