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再びの異世界、可愛かった皇子様が俺様竜帝陛下になってめちゃくちゃ溺愛してきます。  作者: 新城かいり
予兆

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第75話


 日が高くなり、私達は比較的涼しい水辺に場所を変えることにした。

 今は静かな泉の周りにも魔族たちとの争いの跡がいたるところに残っていて再び気分が落ち込みかけたとき、エルが溜息交じりにぼやいた。


「それにしてもコハルは酷いなぁ、折角お守りだよって贈ったのに仕舞ったまま置いていっちゃうんだもんなぁ」

「! そ、それは、」

「わかるよ、竜帝くんに見られたら不味いのは。でもこの子が気を利かせてくれなければ今頃」

「そうなのエル! リューが大変なことに……!」


 なんだか誤魔化すようなタイミングになってしまったけれど、エルは優しく頷いてくれた。


「うん、僕も見ていたよ。……竜帝くん、完全に怒りに我を忘れていたね」


 言いながら、彼は泉の水面を見つめた。

 ――そうだ、あのとき眠っていたメリーを起こしたのがエルなら、リューが竜の姿に変貌していくところも間近で見ていたはずなのだ。


 私は声を潜め続ける。


「それに魔族が、魔王が復活するって……」


 この話もきっとブローチを通して聞いていたはず。


「エルは何か知ってる?」


 妖精王である彼なら、もしかしたら何か情報を掴んでいるかもしれないと思ったのだけど。


「魔族や魔王の動きは僕にもわからないけど、竜帝くんが何らか関わっているのは間違いないだろうね」

「!」


 ――やっぱり、と思ってしまった。

 タイミングがあまりにも合致し過ぎている。


「でも、魔王の復活に必要なのは」

「多くの血と、多くの負の感情、だね」


 リューから聞いていたものと同じだ。

 この世界の共通認識なのだろう。


「なら、今からでも魔族たちを止めれば、まだ」


 おそらくは最初に魔族たちの襲撃を受けたこの街も幸い死者は出なかったし、メリーのお蔭で重傷だった人たちも治った。

 以前魔王が復活したときにどれだけの血が流れたのかわからないけれど、これ以上の被害が出なければきっとまだ……。


「どうだろうね」

「え?」


 エルは困ったような笑みを浮かべ言った。


「ひょっとしたら、既に魔王は復活しているのかもしれない」

「!?」


 その場にいた皆が息を呑んだ。


「――な、なんで! だってまだ」


 ふぅと息を吐いてエルは続けた。


「厄介なことに、竜帝くんの魔力は僕にも計り知れないほどでね。彼ひとりの負の感情だけで魔王が復活してしまってもおかしくない」


 ふいに思い出した。

 私を迎えに異世界、日本にまでひとりで来てくれたリュー。

 あのとき、ティーアも花の国の人たちもその規格外の魔力の大きさに驚いていた。


「コハルは、前の竜帝くんがどうして魔王に操られたか知っているかい?」

「それは……前の竜帝妃、リューのお母さんが病気で亡くなられたからだと」


 7年前、リュー皇子がそう話してくれた。


「そう。大きな悲しみの感情。そこを魔王につけ入られた」

「! まさか」

「今の竜帝くんは、コハルを奪われた怒りと、裏切られた悲しみでいっぱいになっているだろうからね」

「それは、」

「誤解だったとしても、彼はそう思い込んでしまっている。だから、今の竜帝くんも前の竜帝くんと同じように魔王に操られてしまう可能性は十分にある」

「そんな……」


 手が震えた。

 だって、もし本当に既に魔王が復活していて、リューがお父さんのように操られてしまったら、私はリューと戦わなくてはならない。

 あのとき……7年前はリューと協力してなんとかお父さんを助けることが出来たけれど、それでも、その数年後にお父さんは……。



 ――やはり魔王に操られていたことが大きな負担になっていたようでな。コハルが去った後、臥せがちになって……。



 リューの言葉を思い出して、私はメリーの身体をぎゅうと抱きしめていた。


「コハルさま……」


 と、エルの視線がカネラ王子に移った。


「君、本当に大変なことをしてくれたね」

「え……?」


 急に話を振られた王子がポカンと口を開ける。

 エルは見たことのない冷たい眼差しを彼に向けていた。


「今生きていられることを、コハルにもっと感謝したほうがいい。それと、もしこのままコハルについて竜帝くんに会いにいくつもりなら、殺される覚悟でね」

「……っ」


 流石のカネラ王子も青ざめた顔で視線を落とした。


「そういえば、君も魔族みたいだけど」

「え!?」


 私の腕の中でメリーが甲高い声を上げ、ローサも目を丸くした。

 

「まさかとは思うけど、君、魔族たちと共謀してわざとコハルに」

「違う!!」


 カネラ王子が珍しく声を荒げた。

 そして自分でもその声の大きさに驚いたのか、焦るように再び視線を落とし小さく続けた。


「……それは、違う。俺は、ただ……」


(カネラ王子……?)


 その両の拳が強く握られているのを見て、エルはふぅと短く息を吐いた。


「違うならいいけど。君もまた随分と面倒というか、損してるというか……まぁ、魔族の君だからこそ出来ることもあるんじゃないかな」

「え?」


 エルのよくわからない言葉に、カネラ王子は顔を上げて目を瞬いていた。


 そして、エルの優しい瞳がこちらに戻ってくる。


「とにかく、まずは竜帝くんに会わないとね」


 そうだ。

 早くリューに会って、早く誤解を解かなくちゃ。


「うん!」


 だってまだ、間に合うかもしれないのだから。



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