第68話
なんとか日が高くなる前に到着したそのオアシスには小さな村があった。
そこの住人たちも王都の人々と同じようにカネラ王子の姿を見るなり皆集まって来て歓迎してくれて、私たちの服も用意してくれた。
彼らに竜の姿を見なかったかと訊ねると、皆首を傾げるか横に振るかで肩を落としかけたけれど――。
「竜の洞?」
「はい。そう名のついた洞穴があると、聞いたことがございます」
杖をついた白髪のおじいさんがカネラ王子にゆっくりとそう話してくれた。
「昔、そこに竜が棲みついていたとか」
「それはどこにあるんですか!?」
思わず私が前のめりになって訊くと、そのおじいさんは驚いたのか目を丸くして固まってしまった。
「あ、ごめんなさい……」
「その場所は、ここから遠いのか?」
カネラ王子が訊き直してくれると、おじいさんは再びゆっくりと口を開き話し始めた。
「魔族の街、か……」
泉のほとりの木陰に腰掛けて、私は溜息交じりに呟いた。
カネラ王子曰く、件の『竜の洞』へはここからラクダに乗って5日はかかるらしく、しかも『魔族の街』と呼ばれるエリアにあるというのだ。
「危険な地域のようですし、十分に用心して参りましょう」
真剣な顔つきのローサに私はしっかりと頷く。
元々、私たちは魔族の調査のためにこの国にやってきたのだ。しかし「魔族から攻撃を受けている」という話は王子のでっち上げた嘘だとわかった。
けれど、そのエリア周辺が以前から治安が悪く、紛争の絶えない危険な地域だというのは事実らしい。
(そういえば、砂漠の国に援助するとかしないとか、いつか大臣たちが話してたっけ。……リュー、本当にそんなところにいるのかな)
しかし他に手がかりが何一つないのだから、今はその情報に縋りつくしかない。
本当はすぐにでも出発したかったけれど、長旅になるのなら昼間の暑い中を進むよりも日が落ちてから進んだ方が効率が良いと言われ、今はこうして涼しい風が通り抜ける木陰で身体を休めている。
でも当然ながら気持ちは全く休まらず、この何も出来ない時間がとても歯がゆく感じられた。
……それにしても。
(やっぱり人気あるんだなぁ)
未だ村人たちに囲まれ何やら話し込んでいるカネラ王子に視線を向ける。
先ほど私たちに食事を運んでくれた女性たちも、カネラ王子にとても感謝しているようだった。
この場所で収穫出来たという野菜や果物がふんだんに乗った色鮮やかな料理を私が絶賛したときだ。
「これも、カネラ様のお蔭です」
「え?」
そうして彼女たちは嬉しそうに語ってくれた。
元々は本当に小さな水場だったこの場所をここまで緑豊かなオアシスにしたのは彼なのだという。
「この場所で、こんなにも作物が穫れるなんて思いもしませんでした」
そう笑顔で話す彼女たちを見て、私も釣られて笑顔になっていた。
――でも。
どんなに彼の王子様然とした立派な姿を目の当たりにしても。
(彼は、王様になりたいがために私を利用しようとしたんだ)
そうしてまた昨夜の一件を思い出してしまい私はぎゅっと目を瞑った。
「コハルさま?」
「え? ――あ、ごめん。なんでもないの」
メリーを抱っこしていた腕に知らずのうちに力が籠ってしまったみたいだ。
不思議そうにこちらを見上げるメリーに苦笑して、私はもう一度カネラ王子に視線を向けた。
お詫びの気持ちにと、私たちについて来た彼。
(でも、やっぱり彼のしたことは簡単に許せることじゃないし、油断しちゃダメだ)
そんなふうに思わなくてはならないことが、とても悲しかった……。




