第67話
「なんで……」
呟くと同時、ローサが剣の柄に手をかけるのを見た。
「コハルさまを追ってきたのでしょうか……?」
腕の中のメリーも威嚇するような低い声を出した。
(まさか、私を連れ戻しに?)
つい先ほどの恐怖を思い出して、メリーを抱っこする腕に少し力がこもってしまったかもしれない。
……逃げた方がいいだろうか。
でも気付く。
彼が、他に2頭のラクダを連れていることに。
「良かったぁ、すぐに見つかって」
私たちの元に辿り着いたカネラ王子はそう言いながらラクダから下りた。
「何のおつもりですか。コハル様を連れ戻しに来たのなら」
剣に手を触れたまま、鋭い視線を向け訊いたローサにカネラ王子はふるふると首と手を振った。
「違う違う。だって竜帝を探しにいくんでしょ。道案内するし。ラクダも使ってよ。日が昇ったらまた暑くなるから」
先ほどの呆然した姿は見間違えだったのかと思うほどいつもの調子で話す王子に、ローサが困惑するように眉を寄せ私の方を見た。
私は警戒を緩めずに口を開く。
「リューの行き先を知っているんですか?」
「いや、それはわかんないけど……あー、や、もしかしたらわかるかも?」
「なんだそれ」
カネラ王子の曖昧な返答に鋭くツッコミを入れたのはメリーだった。
私も全く同じことを思ったので、メリーが言ってくれて助かった。
「どっちにしても、聖女サマたちよりはこの国に詳しいし、それに……」
「それに?」
「一応、お詫びの気持ちっていうか」
急にバツが悪そうに視線を外したカネラ王子を見て、思わずポカンとしてしまう。
……お詫びって、本気で言っているのだろうか?
「だから、俺も一緒に連れていってくれないかな」
そんなふうに小首を傾げられて、私はローサと顔を見合わせる。
ローサは最早呆れたような顔をしていて、きっと私も同じような顔をしているのだろう。
「コハル様、いかがいたしましょう?」
「……道案内してもらえるのは有難いけど」
丁度この先どうしようかと考えていたところで、まさに“渡りに船”ではある。
するとカネラ王子は任せてとばかりに砂山の向こうを指差した。
「この先には小さいけどオアシスがあるから、一先ず日が高くなる前にそこまで辿り着けたら上々かな」
「……」
じとりと、私は彼を見つめる。
確かに有難くはあるけれど、彼は私たちを貶めて、つい先ほど私を襲おうとした張本人だ。今思い出してもぞくりと震えが走る。
そんな彼を、そう簡単に信じてしまっていいのだろうか。
でも、このどこまでも続く砂の大地をこのまま当てもなく進むのは確かに無謀。私だけじゃなくローサやメリーも危険に晒すことになってしまう。
(背に腹は代えられない、か……)
はぁと息を吐いて私はカネラ王子に言う。
「わかりました。道案内をお願いします。それと、ラクダありがたく使わせてもらいます」
すると彼は眠そうな目を少し大きくしてから「うん」と大きく頷いた。
「ただし」
すらりとローサが剣を鞘から抜いてカネラ王子に向ける。
「少しでもおかしな行動に出れば」
「わ、わかってるよ。わかってますって」
もう一度慌てたように両手を振った彼を見て、私はもう一度溜息を吐いたのだった。
――こうして、私たちは再びラクダに乗り砂漠の大地を旅することになった。




