第63話
「やめてくださ……っ」
思うように動けないのに感触だけはちゃんとあって、無遠慮に触れられる度に身体が勝手に反応してしまう。
(こんなの、違う)
リューの手はもっと優しかった。
触れられて幸せだった。
(こんなの、全然違う!)
でも彼の言う通りだ。私に彼を殺すなんて出来ない。
この身にどんな理不尽を受けたとしても、私には人を殺めるなんて出来ない。
彼が魔族だとしてもだ。
それに彼は、7年前ほんの短い間だったけれど共に過ごした、この異世界で私を受け入れ信じてくれた、数少ない一人。
そんな彼を殺せるはずがない。
「これって、キスマーク?」
「……っ!」
胸元に残っていた痕をなぞられてカァっと顔が熱くなる。
おそらく竜の国を出る前夜に付けられたものだ。
「竜の国を離れてもう一週間になるのに、よっぽど強く付けたんだね」
「っ、こんなの間違ってます!」
私は精一杯彼を睨みつけて言う。
「こんなことをしたって私は貴方のものにはなりません!」
「なんで?」
きょとんという顔で首を傾げられて、必死な思いで続ける。
「なんでって、こんなやり方で好きになるはずがありません!」
「別に、好きとかそういうのはどうでもいいかな」
「な……っ」
さらりと返ってきた言葉に絶句する。
「ここに、俺の子を孕んでくれたらそれでいい」
冷たい指先が私の下腹を撫でた。
「そうすれば、あの竜帝だってさすがに君を手放すでしょ」
その言葉に目を見開く。
――リューが、私を手放す?
「そしたら聖女サマは竜の国に居られなくなるだろうし、この砂漠の国の王妃になるしかない」
――竜の国に、居られなくなる……?
彼の言葉を、頭の中で反芻する。
リューは嫉妬深くて、私が他の男の人と話しているだけで不機嫌になるような人で。
もし本当に私がこのままカネラ王子の子を妊娠してしまったら、彼は……。
「……ゃ」
「え?」
急にたまらなく怖くなって、涙が溢れた。
「イヤっ! もう触らないで!」
その叫び声に合わせて自分の腕がびくっと跳ねた。
彼にもそれが伝わったのだろう。
「あれ、香の効き目切れるのやっぱり早いな」
彼の手が私の脚にかかる。
「抵抗されたら面倒だし、さっさと済ませちゃおうか。あ、こんなとこにもキスマーク発見」
愛情も罪悪感も何も感じられないただ事務的な台詞に絶望を覚える。
涙でぼやけた視界の向こうで、カネラ王子は優しく微笑んだ。
「大丈夫。この美しい国で暮らせば竜帝なんてすぐに忘れられるよ」
――嫌だ。
忘れたくない。
忘れるなんて出来ない。
私を7年の間ずっと待ってくれていた彼を。
こんな私を愛してくれた彼を、忘れられるはずがない。
「リューーー!!」
気付けば彼の名を呼んでいた。
愛しい彼の名を。
ドーン! と、凄まじい音が聞こえてきたのはそのときだった。




