第17話
「コハルさま~~!」
寝室の内扉から隣の自分の部屋に入った途端、メリーがもの凄い勢いで飛びついてきた。
「もうお身体はなんともないですか? もう一度癒してさしあげますか!?」
「ありがとう、メリー。もう大丈夫」
笑顔でお礼を言うが、メリーはまだ心配そうに首を傾げた。
「でもなんだかお顔が赤い気が」
「えっ」
ぎくりとする。
先ほどリューに言われた言葉が妙に胸に刺さって全身が熱くなった自覚はあったけれど、顔にも出ていただろうか。
「ううん、本当に大丈夫! メリーの癒しの魔法のお蔭。いつも本当にありがとう、メリー」
「そうですか? それなら良かったです~!」
嬉しそうに笑ったメリーが可愛くて、私はそのもふもふな身体をぎゅーっと抱きしめた。
と、そのときトントンと扉がノックされて顔を上げる。
「どうぞ」
ゆっくりと扉が開き、その向こうに立っていたのは。
「アマリー!」
私がその名を呼び駆け寄ると、彼女は真っ赤な顔で私を見つめた。
「コハル様……先ほどは、本当に申し訳ありませんでした!」
アマリーは深く深く頭を下げた。そして。
「私などのために、本当にありがとうございました!」
その言葉で、リューが先ほど言ったことは本当だったのだとほっとする。
「ううん、私こそさっきは驚かせてしまって本当にごめんなさい」
「いいえ! コハル様はなにも……全ては私の不注意が招いたこと。それなのに……っ」
俯き肩を震わせた彼女に、私は笑顔で言う。
「これからもよろしくね、アマリー」
「! ……はい、コハル様っ!」
彼女は顔を上げ、涙を拭ってから可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「アマリー、良かったわね」
そう優しく言ったのは後ろに控えていたローサだ。
「これからも共にコハル様に誠心誠意お仕えしましょう」
「はい!」
そうして微笑んだローサに、私は早速お願いする。
「ローサ、もう一度着替えと髪を整えてもらってもいい?」
「え……ですが、もうお身体は良いのですか?」
「うん、メリーのお蔭でもう全然平気!」
腕の中のメリーを見下ろし言うと、メリーは得意げな顔をした。
――先ほどリューにも今日はこのまま休めと言われたのだけど、朝セレストさんから聞いた話では午後も何かと予定が詰まっていた。
私のせいで、これ以上スケジュールを狂わせたくはない。
「だから、お願いします。アマリーも」
するとローサもアマリーも笑顔で「はい」と頷いてくれた。
でもそのときだ。
「――あ、陛下!」
ローサが慌てたように廊下の脇に避け頭を下げた。
見れば廊下の向こうからリューがひとりこちらにやって来る。
と、アマリーはそんな彼の前へ出て先ほどのように深く頭を下げた。
「陛下、先ほどは大変失礼いたしました!」
「あ、あぁ」
リューはそんな彼女を前に最初驚いた様子だったけれど、その後ちらりと私を見た。
(え……?)
そして彼はひとつ咳ばらいをすると、アマリーに声をかけた。
「これからも、コハルのことをよろしく頼むぞ」
それはもう、めちゃくちゃ良い笑顔で。
「――っ!?」
そのキラキライケメンスマイルをまともに喰らったアマリーはひゅっと息を吸ってそのまま固まり、余波を受けたローサも目を丸くし顔を赤らめた。
メリーだけが私の腕の中で「うげぇ」と小さく呻いていた。
リューは「これでどうだ」と言わんばかりの得意げな視線を私によこし、言った。
「コハル、また後でな。無理はするなよ」
「は、はい……」
リューが去ってしまって、まだその場に呆然と直立したままのアマリーにローサが心配そうに声をかける。
「アマリー、アマリー?」
(確かに、優しい竜帝陛下になって欲しいとは言ったけど……)
ローサに肩を揺すられても固まったまんまのアマリーを見て、これはこれでちょっとマズイかもしれないと、思ったりした……。




