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再びの異世界、可愛かった皇子様が俺様竜帝陛下になってめちゃくちゃ溺愛してきます。  作者: 新城かいり
竜帝

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第16話


「話は全て、あの妖精から聞いた」


 枕元の椅子に腰掛けたリューが神妙な面持ちで続けた。


「メリーから……?」


 そこで私は全てを思い出し、ガバっと起き上がった。

 ――そうだ。怒りの感情に任せて『聖女の力』を使ってしまったのだ。

 私は焦って彼の身体を見回す。


「リューはなんでもない!? 誰かほかに被害とか出てないですか!?」


 覚えているのは凄まじい雷鳴。

 脳裏に浮かんだのはあのとき見た黒焦げになった魔物たちだ。

 もしあれが誰かに当たっていたらと考えたらぞっとした。

 

「あ、ああ、大丈夫だ。城の屋根が一部焼け焦げていたそうだが、別に問題はない」


 それを聞いてほぅと息を吐く。


(良かった……や、全然良くない)


 聖女の力は、私の感情の高ぶりが引き金となる。

 勿論この世界でだけ。

 そのことを7年の間にすっかり忘れていた。


「私、どのくらい寝て……?」

「一時間ほどだ。先ほど、あの妖精が癒しの魔法をかけていた」


 だから今身体は楽なのだとわかった。

 私は頭を下げて心から謝罪する。


「本当にすみませんでした」

「いや、……それだけ、コハルが俺に対して怒りを覚えたということだ」


 その力ない声音に顔を上げて、リューが酷く気落ちしていることに気付いた。


「俺の無責任な発言のせいで……本当にすまなかった」


 そうして深く頭を下げた彼に、私は改めて訊いてみる。


「……アマリーは、どうなりますか?」


 メリーから全て聞いたと言うなら、きっと彼女の名ももう知っているだろう。


「先ほどの件は不問にするようにとセレストに伝えた。あいつも了承してくれた」


 それを聞いて、今度こそ良かったと胸を撫でおろす。

 お礼を言おうとして。


「だから、ここを出ていくなんて言わないでくれ」


 頭を垂れ小さくそう続けた彼を見て、私は先ほど自分が放った言葉を思い出した。


 ――私は即刻この城から出ていきます!


(あー……)


 酷く落ち込んだ様子の彼が、なんだか怒られて耳を伏せた大型犬のように見えてきてチクチクと罪悪感を覚える。

 私はシーツから出て彼の前に正座する。


「アマリーのこと、ありがとうございます。それと……私も、大人げないことを言ってしまって、すみませんでした」

「じゃあ、」


 ゆっくりと顔を上げた彼に、私は笑顔で言う。


「はい。出て行ったりしません」

「!」


 彼の金の瞳が大きく見開かれて、次の瞬間には強く抱きしめられていた。


「ちょ……っ!?」

「良かった……!」


 安堵の声と共にぎゅーっと抱きしめられて、私は小さく息を吐いてその背中を優しく撫でた。


「……そういえば、メリーは?」


 こんなところを見られたらまた怒って突っ込んできそうだと思ったのだけれど。


「ぎゃんぎゃんと煩いので締め出した。隣の部屋にいるとは思うが」

「そ、そうですか」


 想像が出来てしまって苦笑する。


 ――なら。


「リュー、訊きたいことがあるんですが」


 私が言うと彼は身体を離し、私をまっすぐに見つめた。


「なんだ? なんでも言ってくれ」

「その……もしかしたらなんですが、リューはお父さんのような竜帝陛下になろうと少し無理してませんか?」

「え……」


 彼がきょとんとした顔をした。


「なんというか……皆の前で竜帝らしくあろうと頑張っているいうか」


 7年前、皇子はお父さんに強い憧れを抱いていた。

 そして今、彼の竜帝としての姿と私の前で見せてくれる姿はあまりに違う。

 だから、もしかして無理をしているのではと思ったのだ。


 ――と。

 

「それ、は……っ」


 彼の顔がみるみる赤くなっていくのを間近で見て、私は目を丸くする。

 そしてそれを隠すように彼は手で顔を覆ってしまった。


「ひょっとして、他の者にもそう思われているのか……?」

「え? あ、いえ、私がそう感じただけなので、他の人たちにはちゃんと威厳ある立派な竜帝陛下に見えていると思いますが」


 慌てて言うと、彼は安堵したように息を吐いた。


「そ、そうか……」


 それを見て私はやっぱりと思った。


(リューは今でもお父さんを……)


「コハルが、昔言っただろう?」

「え?」

「この国を去るときに、父上のような立派な竜帝になってくださいと」

「!」


 ――だからリュー皇子、お父さんみたいな立派な竜帝陛下になってくださいね。


(……言った)


 確かにそう言ってしまった覚えがある。

 またか、と私は当時の自分を本気で引っ叩きたくなった。


(まさか、私のせいもあったなんて……)


「だから俺は、」

「す、すみません。確かにお父さんのような威厳ある竜帝陛下もカッコ良いとは思うのですが」


 私は思い切って続ける。


「リューにはもっと、皆に好かれる優しい竜帝陛下になって欲しいです」


 でも、それを聞いたリューは不安げに眉をひそめた。


「俺は、皆に好かれていないのか?」

「えっ! いえ、あの、……少しだけ怖がられているような印象を受けたので」

「怖がられて……」


 流石に出過ぎたことを言ってしまっただろうかと焦る。

 と、彼は私を見つめた。


「コハルも、俺が怖いか?」


 私はぶんぶんと首を振る。


「いえ、私は全然怖いとは思いません。……その、とても優しくしてくださるので」


(それに、こんなに子供っぽい一面も見ちゃってるし)


 こっそり心の中でそう付け加えてから続ける。


「なので、その優しさを他の皆の前でも出していくのはどうかなと。――あ、勿論リューが嫌だったら」

「いや……優しさ、か……」


 口元に手を当て、彼はうーむと考え込んでしまった。


 私はそんな彼を見てほっとする。

 そんなことお前に指図されたくはない、と突っぱねられることだってありえた。


 ――そして、私は軽い気持ちで訊いてしまった。


「そういえば、お父さんは今どこに?」


 ぴくりと、リューの手が震えた。


「まだご挨拶が出来ていないので」


 このお城の中にお父さんの気配はない。

 だから、どこかに別邸などがあるのだろうかと思ったのだ。――でも。


「父上は、5年前に死んだ」

「え……?」


 掠れた声が自分の喉から漏れていた。


(死ん、だ……?)


 その言葉の意味を理解して、さーっと血の気が引いていく。


「――ご、ごめんなさいリュー! 私、」


 お父さんが亡くなっていたなんて知らずに軽率な発言ばかりしてしまった。

 罪悪感で頭が真っ白になる。

 でもリューは笑顔で首を振った。


「いや、謝ることはない。俺もコハルに言わなければと思いながら、なかなか言い出せなかった」


 5年前ということは、私がこの世界を去ってから2年後ということだ。

 魔王の洗脳から解き放たれたリューのお父さんは、私にも「ありがとう」と言ってくれた。

 そのときのリューに少し似た笑顔は、まだ鮮明に覚えている。


「やはり魔王に操られていたことが大きな負担になっていたようでな。コハルが去った後、臥せがちになって」


 そう話してくれたリューを、私は強く抱きしめていた。


「コハル……?」

「ごめんなさい」


 あんなにお父さんに憧れていたリューが、ショックを受けなかったわけがない。

 きっとすごく辛くて寂しかったに違いない。

 そんなリュー皇子を想像したら、たまらなかった。


「ごめんなさい、リュー」


 ――そのとき彼の傍にいられなかったことが、酷く悔やまれた。


「……コハルのお蔭で、なんとか頑張って来れたんだ」

「え?」


 彼が優しく微笑んでいた。


「当時はさすがに落ち込んだが、コハルをこの城に迎えなければならないからな。そのためにコハルにも皆にも認められるような竜帝を目指してきた」


 私は目を見開く。


「コハルの存在が、いつでも俺の原動力だった」


 そうして彼は私の両手を握り、言った。


「ありがとう。コハル」


 その感謝の言葉は、私にまた少しの罪悪感と大きな高揚感を与えてくれた。



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