Ⅲ326.来襲侍女は飛び込み、
「騎士団だ!!」
「パルメン様に報告しろ!」
「お前達!死んでもこの先を通すな!!」
ステイル達以外、私達追走班全員でわざと屋敷の人間を追いやってからすぐに効果は現れた。
とてもわかりやすく、騎士に敵わないと判断した者から同じ方向へと逃げていく。囮の可能性もあるけれど、その先に新たな護衛がいるところから考えてもやっぱり安全な場所に逃げているという方が正しい。自分達の主人を護るに値する実力者のいる場所に。
つまりはそこに彼らの主人もいるということだ。もともと住んでいる屋敷じゃないからか、人数も少ないし戦える人間も限られている。温度感知の騎士が確認してくれた方向とも合致しているし、ほぼ間違いない。
カラム隊長による天才ネイトの発明も、ちょうど底を尽きた。
もともとマッチ箱の中には数本しかなかったこともあり、最初に惜しみなく音を立てまくってもらった。足音もわざと異変を主張するように激しく、ハリソン副隊長も天井の照明を次々とガッシャンガッシャン落として行くし、騎士達も武器を補充できている者から銃を何度も打ち鳴らして警告してくれる。なるべく派手に、私達の突入を知らせる。
「ジャンヌ!速すぎますから!!」
予知で状況の緊急性がわかった以上、私ものんびりアーサーに肩を借りてなどいられない。
足に力を込め、アラン隊長達には敵わずとも許されるだけの速度で走った。ローランド達と紐で繋がっている分、ラスボスチートの脚力にやや付いてくるのに苦戦する騎士もいるけれど今はミシェルの元を最優先させてもらう!あの子が誤解で殺されるのも……ッ焼印だって許しはしない!!
ぐっと口の中を噛み、更に足へと力を込める。闇オークション出発前から備えてきた剣と銃の場所を手だけで確かめた。並走してくれるアーサーに守られながら、ピンと張られた透明化に繋がる紐がまるで言うことのきかない犬の散歩のようだと思う。私のせいで一緒に透明化してるアーサーも紐がピンと伸びてて私とアーサーでまるで雪ぞりの犬だ。
先行のアラン隊長が派手な音を立てて開いてくれた扉の先は、とうとう行き止まりだった。そこで立ち止まったここの警備達も斬り伏せられる。道案内は終わり、先はもう聞くまでもない。
この足元にいる彼らの姿が見えている温度感知の騎士のロドニーが、高々に声を上げる。振り返れば壁際の絵画を真っ直ぐに指差していた。
「ッその先に見張りを確認!隠し扉と思われます!!」
隠し扉。その言葉に私も肩が勝手に揺れる。
更に足を速めようとすれば、背後へとピンと引っ張られた。紐に繋がっているのだと思い出す。今は一秒でも早くミシェルに間に合わないといけないのに!!
騎士達が遅いわけじゃない。ただ私が急いているだけだ。
そう頭に言い聞かせながら、奥歯をギリリと噛み締める。大丈夫、私が間に合わなくてもアラン隊長も高速の足を持つハリソン副隊長もいる。
拳で絵の破壊を試みるアラン隊長だけど、絵の裏側は鉄製なのか大きな振動音を響かせるだけだった。開ける為の仕掛けがあるのかと思った矢先、敵の一人が文字通りに飛んできた。悲鳴を上げ、ドゴッと衝突音と共に絵にぶつかるのとアラン隊長がすかさず避けたのはほぼ同時だった。多分、投げたのはハリソン副隊長だろう。
今ぶつかったせいで鼻は折れてるけど意識はしっかりしている男を、アラン隊長が胸ぐらを掴み上げる。聞かれるまま扉の仕掛けを説明されながら、さっきもう道案内に聞くまでもないと考えてしまった自分の甘さに私は一人顔を顰める。ああああもう!急ぎ過ぎて考えが短絡的になってる絶対!!!
でも説明される一秒一秒がもどかしい。音を立ててから何秒経ってるか考えるのも心臓が気持ち悪く揺れて集中できない。頭の裏側では今もさっきの予知が嫌なくらい鮮明に浮かんでしまう。早く!!早く行かないといけないのに!!
苛々と、気付けばはしたなくも床を踵で蹴ってしまう。
ガチャンガチャンと仕掛けが解除されれば、巨大な絵画ごと鉄製の扉が内開きに開いた。
回転扉のすぐ足元が、螺旋階段になっている。状況を他の騎士達にも報告してくれるエリック副隊長が言い切る前に「急ぎます!!」と私は声を荒げる。タカタカタカタカタカタカタカッといっそ転がり降りたいくらいの気持ちに駆られながら階段を降りる。暗闇の中で転びそうになりながらも構わず降りながら声を上げてミシェルを呼ぶ。階段でまた紐で繋がる騎士達を前のめりに引っ張るわけにもいかないと、こうなったら剣を抜く。自分に繋がる紐を剣で切り、進む。「?!それは駄目です!」とアーサーに怒られたけれど、こんな暗がりの狭い階段でこのまま私に繋がってる方が危ない。
ローランドとの繋がりが切れたことで姿が露わになる代わりに今度はアーサー達の姿だけが綺麗に見えなくなる。……と、思ったところでアーサーまで姿を見せた。私と同じように紐を切ったらしい。
「!おおッアーサーまで!!」
進行先でこちらを振り返るアラン隊長は、階段を数段飛ばしで飛び降りていた。ハリソン副隊長の姿はないからもっと先に降りてくれたらしい。
私に速度を合わせて階段を駆け降りるアーサーに顔は向ける余裕がないけどなんだかものすっっごく視線が痛い!絶対怒ってる!!
カラム隊長が「アラン!お前はハリソンを追え!!」と呼びかけエリック副隊長が「最下層におられます!」と叫ぶのを聞きながら螺旋階段の最下層を覗き見る。
一つだけぼわりと炬火が飾られてるそこに、ハリソン副隊長が佇んでいるのが見えた。まさかその先がまた通行止めなのか。……最下層?
ハッと今更ながら気付いた瞬間、自分の思考の遅さを呪うよりも行動に移す。階段を一つ一つ降りる足を止め、強く蹴り、飛び降りた。
ラスボスチートの身体能力があればこんな高さ!階段を降りるまでもなかった!!
「?!ジャンヌ!!!!!」
そう、アーサーの叫び声にも振り返れない。
ハリソン副隊長が気付いてこちらを見上げる中、再び剣を抜く。
ハリソン副隊長が止まっているなら理由が絶対ある。また仕掛け扉かそれとも施錠か、どちらにせよかけられる時間はない!
「ミシェル!ミシェル!!聞こえたら返事を!!」
何度もどこかにいる筈の彼へ呼びかけながら、着地の先に目を凝らす。
壁に固定された炬火の照らす先、ハリソン副隊長の向かおうとしてた先を分厚い扉が阻んでいた。ナイフを構えたハリソン副隊長が突破できなかったということからも、理由はひとつしか考えられない。
落下に身を任せながら剣を握る手に力を込めた。着地と同時に背後からも同じような着地の気配を感じつつ、今は眼前に集中する。予想通り、施錠されていたのだろう鉄の扉に
「無駄なことを」
剣を、振るう。
最初からこうすれば良かったと思うほど、簡単に扉は斬れた。
ピシンッと軋むような音の直後に、大振りに刻んだ扉の残骸が僅かに崩れ出す。薄い扉ならまだしも、想定より分厚かったせいで切れても殆どそのまま崩れることなく維持された鉄塊に待てず、蹴りをいれたけど駄目だった。
少し奥に破片の一つがいったくらいで非力な私じゃそれ以上は崩せない。けれど、それを無に帰するほど騎士二人の蹴りが破片を散らせた。
すぐ傍にいてくれたハリソン副隊長と、そして恐らく私を追って同じように飛び降りてくれたのだろうアーサー。私が蹴り付けるのと殆ど同時の素早さで繰り出した二人の一撃で、扉が向こう側へと崩れ破壊された。
破片の一部が崩れるだけじゃ終わらず、近くにいた男達へ飛んだのが視界の隅に見えた。
障壁が無になった時点で私も、ハリソン副隊長とアーサーに負けず空いた隙間から待たず縫うように飛び込む。周囲の男達を目にも捉えられないような速さで無力化してくれるハリソン副隊長に、アーサーも私の傍に離れず駆けながら切り開いてくれた。




