Ⅲ320.来襲侍女は確認し、
「ったく……急に命令ぶっ込みやがって……」
ごめんなさい……と、私も今ばかりは腰が低くなる。本当に本当に申し訳ない。
彼には私の姿が見えないからこそ、こちらも声と言葉だけででも誠意が伝わるようにもう平謝りしかない。続けて「水よこせ」と要求するヴァルに、私からも装備完璧な騎士達に誰かとお願いした。
こちらには舞台で大暴れしたハリソン副隊長も立っているからか、いまのところ客は一人もこちらに接近する兆しすらない。
大暴れするレオナルドを止めるのに、ちょうど大穴からヴァルが顔を覗かせていたのが見えたら思わず頼らずにはいられなかった。
彼なら特殊能力で天井という死角からレオナルドを拘束できると思ったし、そして期待通り見事あっという間に生け捕りにしてくれた。今もシャンデリアよりもがっつり天井に固定されているレオナルドを、そのまま天井から壁伝いにと拘束したまま下ろしてくれている。
動けない状態の彼が今度は客に報復を受けないようにとアラン隊長が付き、あとは手の届く距離まで下ろされたところで特殊能力者の枷を付ければ良い。翼が使えなくなれば、彼に騎士から逃げるほどの力はない。
ヴァルからすれば、私達が合流できなかったせいで自力で脱出した上、いきなり訳もわからず命令をされたのだから不満があって当然だ。
私がお礼を言って駆け寄った時も第一声が「なにいきなり命令してやがる?!」だった。もう本当ごめんなさい以外返す言葉がない。レオナルドに強制回収宣言だけした私は、ひとまず彼を下ろすまでの合間に情報共有をする。
何故か汗びっしょりのヴァルとライアーは、レオナルドの暴動余波を受けてから自力で脱獄を成功させていた。きちんと奴隷被害者全員と、そして競売品まで回収してくれたのは正直ちょっと驚いた。あくまで最優先は奴隷被害者達と伝えていたし、横領とか盗みもできないヴァルは持ち帰ったところで自分が手に入るわけでもないから。
話によると、奴隷達が監禁されている檻の隣が宝物庫だったらしい。保管庫の荷物まるごと保護されたことに安堵しつつ、……運び方はなかなか雑だったからか美術品がいくらかグシャッとなっていた。
ステイルが全て瞬間移動で安全な場所に移動してくれたけれど、その惨状にカラム隊長とローランドは「亀裂が……」「絵画を踏んだのか?!」となかなかショックを受けていた。いつも冷静なカラム隊長だけでなく、ここまで寡黙なことが多かったローランドが声を上げたのは私もちょっとびっくりした。
奴隷達は、賞品リストを見た時からの予想通りミシェル以外に二人の特殊能力者が含まれていた。心を読める特殊能力者と、動きを固める特殊能力者と聞いて、裏家業関係者に渡ったら恐ろしい特殊能力者お二人にちょっとだけ肩がこわばった。二人ともすごくビクビク怯えていて、きっと酷い目に遭ったのだろう。……ライアーによると、半分以上はヴァルの運び方のせいらしいけれども。
彼らも含めた奴隷被害者も全員、透明化したステイルに我が騎士団の元に瞬間移動してもらっている。今後彼らの保護先は分かれるだろうけれども、ひとまず今は安全な場所で保護が第一優先だ。レオナルドも〝フィリップ様〟と知り合う前であればこれでもっと手早く強制的にいったのだけれども。……いや、どれも人任せ過ぎる。大体、今ステイルは。
「おい、無茶すんな。どうせすぐ騎士隊来ンだから」
「大……丈夫だ。一人ずつなら、……別に」
「別にの息じゃねぇだろ」
ぐったりと、今もアーサーの肩を借りながら一人ずつ瞬間移動で消していくステイルは、顔色が凄まじく悪い。今日一番どころか、この国に来てから一番じゃないかと思うほど息まで荒い。本当に、ここまで来てステイルにまでものすごい負担をかけていたことにも猛省する。
今回レオナルドが空中に逃げるから、私達全員がローランドからバラかず姿を消したままでいられるように瞬間移動しまくってくれたステイルだけど、……限界過重を何度もオーバーして頑張っていてくれた。
現在、自分を入れて大人六人分の体重が限界のステイルは、私達六人を一度に何度も何度も瞬間移動した。……しかも身体つきからして普通の大人六人より遥かに総重量の重い六人を。
一人ずつとか可能な過重内であれば負担がないらしいけれど、まとめてこんな人数を一度に運ばされたら疲れるのは当然だ。食器を一枚ずつ食器棚に運ぶのと、食器棚ごと一度に運ぶとでは負担が違うのと一緒だ。
最後、レオナルドをもう一度引き摺り下ろす為に過重攻撃をお願いしようと振り返った時には、もう頼める顔色じゃなかった。私のせいで過重攻撃を誰よりも受けていたのは、レオナルドではなくステイルの方だった。
いつの間にかアーサーに担がれていた彼はとっくに限界を超えていた。いつも涼しい顔で瞬間移動をこなしてくれていたステイルに無茶をさせすぎた。
これから来る騎士隊に競売品と奴隷被害者達は預けようと言ったのに、自分から「いえ!できます……!」とフラついた足で頑張ってくれているステイルは、それでもまだ無理をして頑張ってくれている。少なくとももう六人での瞬間移動は絶対やめておかないと。
ステイルが最後の一人を瞬間移動したところで、ちょうどアラン隊長がレオナルドを連れてきてくれた。ヴァルが特殊能力で両手だけ自由にしたところで、特殊能力者用の手枷を嵌められたレオナルドはもう翼も生えていない。
今までの余裕の笑みが嘘のように、悔しげに顔を歪めながらアラン隊長に腕を引っ張られるレオナルドはきっと姿が見えたら私を睨んでいただろう。
「アラン殿、エリック殿、ハリソン殿、私も同行して宜しいでしょうか」
「「!勿論です」」
レオナルドが無事捕らえたところで、二階席から静かに声を張られ見上げる。きっと本当にずっと様子を見計らっていたのだろう、セドリックが護衛の騎士と共にこちらを見下ろしていた。
アラン隊長とエリック副隊長が「ご無事で何よりです」と挨拶をする中、了承を受けたセドリックは階段を降りるのも面倒なのか二階の踊り場から直接飛び降りてきた。大した高さではないから護衛の騎士もすぐに飛び降りたけど、これにはちょっと焦った様子だった。
でも、こちらにそのまま駆け寄ってくるセドリックはもっと焦っている。「フィリップ殿は」と姿の見えないステイルの安否を心配してくれたのか、セドリックに同じく姿を消した私が「ここにいるわ」と透明化していることも含めて安否を答える。今はちょっとステイルは返事の余裕がないことをやんわり伝えると、大きく目を見開いた。
「なんと!そこまで健闘されたとは。申し訳ありません、私も助力ができれば良かったのですが、客と判断されれば攻撃対象になると騎士の方々に護衛という立場から止めていただき……」
「良いの、良いのよダリオ!?本当にその通りだから!!」
自分も援助するべきだったと言わんばかりのセドリックに、私も見えてないとわかりつつ両手を振って断る。
レオナルドはセドリックとは顔を合わせたことがないのだから!!ただでさえ止まる気皆無の皆殺しモードだったレオナルドに今のセドリックが出たらどうなっていたことか!!
続けて早口で説明してくれるセドリック曰く、ハリソン副隊長が抜け穴を破壊した後にすぐセドリックもロビーへ出ようとしたらしい。でもレオナルドが大暴れしているのを確認して、護衛の騎士が収まるまでここでと出るのを止めたと。
それからレオナルドと私達のやりとりも陰ながら見守りつつ、沈静化を大人しく待ってくれていた。本当に騎士の言うことを聞いてくれて良かった!!偉い!!
ステイルのお陰で競売品全てを先に安全圏に運べた私達は、ひとまず身軽になると同時に全員集合できた。セドリックが「上の状況は……?!」とミスミの方のオークション状況を心配してくれて、私達も把握していない部分が多いけれど道すがら共有することにする。
「ならば急ぎ上がりましょう……!!私は、地上に上がったら急ぎ護衛の彼らと共に会場へ向かっても宜しいでしょうか……?!」
「ええ勿論よ。それでヴァル。……も、申し訳ないのですが、この大穴をもう一度塞ぐことは……?」
「なんなら通気口も埋めてやる」
それは流石に……。
これ以上お願いするのが申し訳なくて弱い声になる私に、ロドニーが差し出した水筒の中身を一気飲みしたヴァルは口元を手の甲で拭いながら悪態吐いた。奴隷被害者全員保護したとはいえ、もう全員殺しても良いだろう発言は彼らしい言い分でもある。
出口の穴を抜けた私達はヴァルに大穴を塞いでもらい、会場を後にすることにした。
また閉じ込められることで客達も騒ぐかなと思ったけれど、口をぽかりを開けたまま誰一人動かなかった。多分、観念したというよりもハリソン副隊長やレオナルドを捕まえたアラン隊長とエリック副隊長に、また脱走奴隷らしいヴァルとライアーいうラインナップに何もできなかったという方が正しいだろう。
もしくは、レオナルドにもう刃向かう精神をごっそり削がれた後だからという可能性もある。瓦礫が埋められても、私達がいなくなったらもう一度掘り返すくらいはするだろう。
レオナルドを引っ張り連れるアラン隊長と、セドリック達に情報共有するエリック副隊長、ステイルに肩を貸しながら歩くアーサー、汗だくのヴァルとライアーと全方位警戒するカラム隊長とロドニーに守られ、ローランドに姿を消してもらったまま私達は出口へと歩き出す。……途端、ヴァルが歩くのを面倒がって私達全員の足下が自動歩行になった。
ジェットコースターの速度はやめてもらうように速度制限を命じたから、あくまで早歩きくらいの速度で上り坂も余裕で上がっていった。




