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【アニメ2期!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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Ⅲ317.逃亡者は汗が滲む。


「なんで応援が来ねぇんだ!!」

「知るかよ!!奴隷に手こずってんだろ!!!」

「さっさとお前行け!!!」


地上へ向け階段を上れば上るほど、警備やスタッフの数は増えるどころか減っていた。

幹部は早々に地上へ退避し、荒事自慢の警備の殆どは会場でハリソンに返り討ちにされ、舞台裏ではアーサーに無力化され、ロビーではレオナルドにより肉塊にされ、……残された最下層の地下競売商品安置所からの逃亡者達へ対処できる人間どころか、人員の数自体が底をついていた。

階段の段差を上がれば上がるほどてっきり人海戦術でなだれ込んでくると考えていた脱獄者の彼にとっては、肩透かしも良いところだった。ここに来るまで炎の矢を作るまでもなかった。

今も死体の山を踏みつけ上がる先で自分を待っていたのは、たった三人の男達だけだ。

しかも三人の内二人は身体付きから考えても荒事要員には見えない。裏家業独特の匂いは感じるが、高級武器である銃を構えながらも自分に向けてすぐに撃ってこない一人と、二回りは身体ができあがっている男の背中を足蹴に急かすもう一人は指示役かと予想する。本来であれば安全圏で足を組んでいる筈の立場の二名がまとめてそこにいることを考えれば、もう動かせる他の駒は全員使えなくなったのだろうと、脱獄者の先頭に立つ彼は両手の平の上に炎をボワリと宿しながら考える。


最初に前に蹴り出された男に向け、右手を翳し炎を放つ。

今までの男達を仕留めてきたような風穴を空ける為の炎ではない、身体の大きな男の全身を飲み込む規模の炎だ。炎に飲まれた本人だけでなく、背後で背中を丸めていた指示役スタッフの男達も大きく背中を反らした。目玉がこぼれそうなほど大きく開き、歯をむき出しに食いしばる。

蹴り出した先であっさりと火だるまになった部下を前に、後ずさるが怖じける彼らの歩幅など炎の特殊能力者ライアーは簡単に詰めていく。火だるまになったまま藻掻き苦しむ男を、とどめを刺してやることもせずにひょいっと避けるとその横を抜けた。

並ぶ男達二人の背後にようやく階段の最後の段差が見えたことに、早くもニィィと笑みを浮かべた。まだ地下には変わりないが、やっと開けたところに出ることに開放感が強い。さっきまでは相手を飲み込むほどの規模の炎を出すことも制限していた。


来るな、と男の一人が銃を構えたが、ライアーの方が放つことに怯えもない。左手で放った炎で銃ごと男の手を焼けば、あっさりと絶叫ととともに手放した。腕が腕がと喚く男と今更銃を自分も懐から取り出そうとする男達の間へと駆け込み、その両手でそれぞれ男達の顔面へ手を翳す。触れてもいないのにボワリッと火が上がり、男達の顔面から髪までが大きく燃えだした。

ぎゃああああああっと、もう悲鳴しか出てこない。助けを呼ぶ余裕もなく、ごろごろと床に転がる男達の腹を蹴り飛ばし、ライアーはようやく最後の段差を登り切った。


「あ゛~~っ!やあっと出た~~!降りてきた時の倍は長く感じたぜ!!あっちぃ~~」

やりきったと言わんばかりに腕ごと大きく身体を伸ばし、滴る量の汗を一息で拭い、パタパタと自分の顔を自分で扇ぐ。

炎の特殊能力を使うライアーだが、触れれば火傷をし、当然高温に強いわけでもない。狭い地下空間で酸素不足にならないようにと制限しながらここまで来たが、熱自体はひたすらこもり続け登り切った今でも階段も熱風呂状態だった。直線距離自体は大した距離ではなかったが、毎回毎回足を止めての戦闘が面倒だったと思う。裏家業時代のように、自分の特殊能力を隠す必要がない分戦闘自体は楽だったが、せめてもっと開けて涼しい場所でやりたかった。

階段を上がれば、あとは道なりに通路を進み、角を曲がった先が自分達が奴隷として引き渡された場所だ。軽い足並みでそのまま涼しい場所へ進もうとするライアーに、そこで「おい!!」と後方から低い怒鳴り声がかけられた。


「もういねぇのか?」

「いねぇ~……な?今ので最後だったみてぇッッえ゛え゛っと?!!」

うおおっ?!!!と、ライアーも思わず声を漏らす。振り返った途端、自分の後続が凄まじい速度でなだれ込んできた。

ライアーが敵を倒すまで後方で待っていた宝物の固まりが、三倍の速さで前進しライアーも逃げるようにさらに通路の奥へと走り出す。地面を滑らせ運ばれる競売品の包まれた土製の巨大な箱にめり込まされた奴隷被害者達も箱の背面からあまりの速度に悲鳴をあげた。通路の突き当たりで曲がったところで飛び逃げ、宝物庫の固まりも壁にぶつかり止まったが、ライアーはさっきまでのどの戦闘よりも本気で死ぬかと思った。

せっかく一度整えた息をぜぇはぁと乱し、もう一度自分の顔を扇ぐ。「なにしてくれちゃってんの!!」と怒鳴る中、通路と土の箱の隙間から後続の奴隷達が一人ずつ順番に出ては死にそうな顔で壁や地面に手をついた。中には抜ける前から四つ這いの者もいる。

彼らの様子に、返事を受ける前からライアーは今自分が殺されかけた理由を理解した。


「クッッッッッソ熱い蒸し部屋にしやがって……!!」

そう、一番後方である殿を務めたヴァルは、隙間を縫って進む奴隷を蹴り出すこともできず順番を待つのももう無理だった。

一度特殊能力を解き、土まみれの宝飾品や美術品が音を立てて地面に崩れ出す。芸術品の上を構わず踏み歩き、めりこまされていた奴隷の女性と子どもも手足を全て使って逃げた。あまりの暑さと恐怖のあまり女性は自分の特殊能力がいつの間にか解けたことにも気付かない。

しかも箱にめりこんでいた人数もいつの間にか数名増えていることに、ライアーは今気付く。全員意識はあるが、めり込まされた状態から解放された後もヘドロのような動きで自分の方へ這い出てくる。

そして最後の最後にやっと熱帯通路を抜け出したヴァルは、後方にもう奴隷の残りがいないことを確認してから土壁で階段を封鎖した。燃えさかる死体ごと階段を壁が断熱し、さらに通路の先の角を曲がるだけでも、空気が幾分マシになる。

自分で作った壁に両手をつくヴァルは、ライアーの胸ぐらを掴む気力も今はない。手の平に伝わる土壁の冷たさにやや助けられる。


おおおぅ……とライアーも自分が死にかけたことも忘れて顔が引き攣った。

戦闘で歩いてきた自分が一番肉体労働という意味で汗だくだと思い込んでいたが、階段を上って初めて振り返ってみれば後方の人間ほど灼熱状態だったのだと今目で理解する。

焼死体を作ったまま放置を続け、いくら酸素量を配慮しても狭い空間で熱源が増えれば増えるほど前も後ろも通路全体の温度が上がっていくのは当然だった。そして一番その灼熱の煽りを受けたのは一番後ろを歩いたヴァルだ。

酸素も地上よりは遙かに薄いだけではなく、灼熱の中だ。のろのろと奴隷達の歩幅に合わせて競売品を運ぶ土の箱を盾代わりに動かすだけでも面倒なのに、そこで灼熱が続けば流石に脱水症状を起こしかける程度には地獄だった。髪もセフェクの放水よりも遙かにべっしょりと後ろにまとめて流してもまだ汗が滴り落ち、全身を濡らしていた。もともと奴隷として潜入する為に軽装備だったヴァルだが、今は上半身の薄い布も剥ぎ取って捨てた後だ。


ヴァルよりもマシな位置で歩いていた奴隷達の中には、暑さのあまり歩けなくなった者も出ていた。その奴隷達も次々と回収し箱にめり込ませるという、自分にとっては塵拾いに近い作業をしながら一番灼熱地帯を自分の足で歩ききったヴァルはむしろ耐性は強い。

幼い頃からフリージア王国の下級層で生き、その後も崖地帯や配達中も各地で野宿などをこなしてきたヴァルだが、周囲の誰もが根を上げた温度にも自分だけは平然としていられた分、今回の灼熱は想定外の支障だった。今はぐったりと壁に手も、そして額もつけて肩で呼吸を整え項垂れる。


「脳まで溶けてやがんのかテメェ……!!!」

「あー!あーーー!見ろよ兄弟。扉の方、穴が空いてやがるぜ」

良いのか??とわざとらしく戯けた声を上げ、わざと話を逸らすライアーはそのままヴァルから距離を取るべく扉のあった前まで軽くなった足並みで駆け寄った。

待ちやがれと、尋常ではない汗を流しながら足を動かすヴァルはもう足を動かすことも面倒になり足下の地面を滑らせ自分だけ自動歩道で進む。


ライアーが立ち止まった先は、闇オークション参加客が通されたロビーに繋がる扉だ。

作戦通りであれば、客は舞台のハリソンが引き付けているだけの筈だが、何故これみようがしに大穴が空いているのかとライアーは首を捻る。しかも近づいてみれば、一度天井が落ちたように瓦礫で塞がり、扉があったと思った場所は埋まっていた。そこで新たに開けたらしい穴は、扉を壊し瓦礫を吹き飛ばしできあがった物だ。

誰かが扉を封鎖し第三者が扉を開けたのかと想像はするライアーだが、具体的に推理までは難しい。潜入しているジャンヌ達の誰かが客を逃がさないように扉を閉じたかまでは考えられたが、ならばこの大穴はその客に逃げられた証にも思える。少なくとも瓦礫の量から判断し、自分達のところまで振動がきた揺れの原因はこれだということだけは確信を持てた。

ならロビーはまさかもぬけの殻かと、状況を把握するべく大穴をライアーはひょっこり覗いた。さらにそのライアーに文句を言い切れないヴァルもその肩を背後から掴み、体重をのし掛ける。濡れた手に触れられ、一度は肩を回して振り払おうとするライアーだが、すぐに視線の先にそれどころではなくなった。


「!おっ?あれお前の雇い主達じゃねぇか兄弟」

「ア゛ア゛ァ?!」

ライアーの言葉に、ヴァルも大穴を覗いてみる。暴力が許されない分、二人並んでも充分覗ける大穴を前に肩をぶつけてライアーを押しのける。大穴の縁に手を掛け、ライアーの視線を向けていた先を睨めばそこには天井に飛んでいるレオナルドと彼を取り押さえようとする騎士達の姿が映った。しかし、プライドの姿はどこにもない。

よくよく考えれば彼女は透明の特殊能力を受けている筈だと思い直したヴァルだったが、ライアーにとってはジャンヌも騎士も全員がヴァルの雇い主という認識が強い。

レオナルドが何故いるのかも、昨夜は圧倒した騎士達が何故手間取っているのかも、あんな乱闘を前に何故客が棒立ちのまま逃げようとしないのかも何もかもわからないヴァルだが、同時にどうでも良い。舌打ちを鳴らし「いねぇじゃねぇか」と悪態吐いて覗いた首を引っ込めようとした時だった。


「レオナルド!!!今すぐ帰ると言いなさい!!さもなくば後悔させます!!!」


その声に、ぴくりと褐色の耳が反応する。

姿は見えないが、凜と響かされたその声は間違いようもない。騎士達がいる時点から予想はできたが、やはりまだこの会場にいたのかと、ヴァルが再び声の出所を探すように眉間に力を込めた。

あのへんかと、なんとなくの声の方向に目を向けながらプライドすら逃げていない状況で、こちらに合流もせず何を遊んでいるのかと考え



「ッヴァル!!!!レオナルドを拘束してください!!!!!」

「アァッ?!!!」

突然の、自分への名指しと命令だった。

そして既にこの声がプライドだと認識した以上、自分に拒否権はない。何故急に自分に振ってきたのかを唸るように不満を喉で上げたが、文句を言うよりも特殊能力が勝手に発動した。

視界の先に捉えていたレオナルドに一番近い天井の一部を変形させる。まさか頭上が動いているとは思いもしないレオナルドを視界に、彼を捕らえるとは別の意図で苛立ち特殊能力が機能する。

プライド達が合流できず手間取っている理由が乱入者だろう彼であるということが火を見るよりも明らかである以上、つまりは自分がこの灼熱地獄で蒸しられたのもテメェのせいかと胃が煮えたぎる。


ヴァルの鬱憤に呼応するように、両手足のついた地面から伝わり会場全体が揺れ出した。

「おおっ?!」とライアーも突然の揺れに周囲を見回す中、一人大穴から標的を睨むヴァルは変形させた天井の一部でレオナルドを捕まえた。天井の一部が出っ張りレオナルドの肩から脇を捉え、さらに反対肩も同じように彼の自由を奪っていく。翼も飛べなければ意味がないと、天井にまるごと背中を飲み込ませ固定する。

特殊能力者の奴隷を運んだ時と同じように土製の天井に取り込めば、まず動けない。

標本のように天井に縫い止められた間抜けの男を完遂してからやっと幾分かは気も晴れた。


いっそこのまま顔ごとめり込ませて窒息死させてやりたいとも過ったが、そこまでの加害は許されていない。ただでさえ、レオナルドが闇オークションの関係者ではないことはヴァルも嫌でも認識できてしまっていた。

残る苛立ちの処理方法に思考を巡らせる中、騎士達まで自分の方に駆け寄ってくるから不快のままに顔を歪めて睨み返す。今は得意になるような気分でもない。むしろ「テメェらなにぐだぐだやってやがる」と怒鳴ろうと、肺に息を吸い込んだが。




「ヴァル!ありがとうございました!!」




扉を守る為に駆け寄ってくる騎士と少し違う位置から、叫ばれた。

嫌でも誰のものかわかるその凜とした声に、鋭くした眼光で睨みながら、決めていた言葉で怒鳴りつけた。そこにいたのかと、頭の少なからず冷めた部分で見えない彼女に思うがそれは言葉にしない。


怒鳴った直度には、残った鬱憤も少なからず晴れた。

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