そして実行する。
「貴方の留守を狙ってではありません!!貴方が競売に掛けられたと今日!リストを確認した時点で商人達が命じた報復と奴隷狩りです!!ッそして貴方が!!今この会場に来てしまった!!」
闇オークション側も目玉賞品が欠けたことは開催まで客に伏せていた。
そして今日、配られたリストを見てレオナルドだと確認した商人は誰もが一番に襲撃を命じた。……せっかくの獲物達を、同業者に取られないうちにと誰もが急いだ。
いっそ裏家業側の間者が本当に貧困街にいれば、レオナルドの復帰も広まっていて幸いだったのにとプライドは思う。しかし、固い結束で結ばれ情報統制をされた貧困街は首領に命じられない限り決して情報は流さない。
レオナルドが不在だったこと自体を隠していた彼らが、復帰を広めるわけもない。貧困街を狙っていた裏家業や人身売買達はレオナルドが闇オークションにかけられたという情報だけを胸に、その撤回を知らずに貧困街へ奇襲をかける。
ゲームで語られたレオナルドの過去に、訂正はない。
エルドが闇オークションに出品という情報を得ている時点で、同じ情報は他の裏家業達にも当然回っている。貧困街達だけがその情報を掴めたと考える方が無理がある。
裏家業や人身売買組織同士の繋がりの方が、その情報は早くそして浸透する。そして、実際闇オークションに参加してみれば、目玉賞品である彼を目当ての客がいたこともプライド達はその耳で確かめた。客すら知らなかった情報を、招待客でもない人身売買達も知っているわけがない。
レオナルドに今まで商売を邪魔され続けた人身売買組織にとって、確実にレオナルドがいない絶好の機会は今日だった。彼の厄介さを知っているからこそ、彼が競り落とされた後いつ逃亡するかもわからない。彼が確実に不在の時にしか、巣は叩けない。
「私達には手のだしようがありません!!貴方にしかできません!!!衛兵も誰も手を差し伸べられない非合法組織の貧困街を!貴方以外の誰が守るのです?!!」
非合法組織。力量や戦力の問題ではない。異国の、しかも軽犯罪組織の貧困街へプライド達は援助することができない。闇オークション殲滅とは話が違う。
正式に許可など下りるわけもなく、今まで犯罪行為をしないようにと契約をするのも抵触するか否かの境界線だった。裏家業が裏家業に襲われているのを騎士が堂々と助けられるわけがない。騒動という形であっても、それは片方の味方をするのではなく両方の検挙をする場合のみだ。そして身分を隠しているプライドも、今は闇オークション潜入を任されている立場にある。
ここで現場放棄することも、そして女王であるローザに無断で貧困街に赴くことも許されない。もう、自分達が自由に視察して良い期間は昨日で終わってしまった。
今この場で、貧困街を堂々と助けに行けるのは首領であり、公的立場のないレオナルドしかいない。
プライドの言いたいことをやっと理解したレオナルドは、すぐに返事はなかった。
翼をはためかせ、視界の隅で他の出席者が誰一人逃走経路を見いだしていない様子を捕らえつつ思考を巡らせる。自分の不在だけの情報が回り、今日この日を狙い人身売買達が貧困街に奇襲をかける。充分あり得る話だとは思う。
そして、目下の彼らが何者かはわからずとも、裏家業同士のもめ事に一般人が手を出せないことも知っている。自分もまた同じような理由で今まで衛兵にも指名手配にもされずに済んでいた。しかしここまで理解しても尚、自分が矛を収めるには決定的に欠けているものがある。
「……信じられねぇなあ!!お前らが嘘を吐いていねぇ証拠がねぇ」
「嘘である確証もないでしょう?!闇オークション参加者はこちらが責任を持って処理します!!もう騎士が攻め込んできますよ?!」
信頼が、ない。
速く!!と急かし焦れば焦るほど、レオナルドも逆に疑念が沸いてくる。それらしい嘘で、結局はこの場で自分を暴れさせない為に騙そうとしているようにしか思えない。プライド自身、この説得に欠けているものは自覚している。
裏家業で、しかも昨日痛めつけた正体不明の相手の説得を聞くなど都合が良いことはありえない。しかもレオナルド本人が強い意志と覚悟で訪れている。それを諦めさせるのに、自分では圧倒的に信頼も関係も足りない。今の自分は王族でもなければ、予知能力者という名札も掲げられない。信じてくれた近衛騎士達とは全く違う。
女性であることも含め、レオナルドから比較友好的にされていた自分が話を聞いてもらえると判断したプライドだが、やはりここまで聞いても信じて貰えないのも予想はできた。
ゲームの設定とも予知とも言えない以上、これから起こる出来事を本人に信じさせることは容易ではない。自分達もまたレオナルドが信頼のおける人間とは思っていない。今こうして屁理屈で闇オークションに飛び込んできた彼に、第一王子の特殊能力を安安と振る舞うことも難しいと全員が判断する程度には、貧困街の首領に信頼は持てない。
双方が信頼関係がない以上、いくら説明しても交渉が決裂するのは仕方が無い。しかし、それでもとプライドは口の中を噛み、また声を張る。
「ッ後悔します!!!絶対に!!今この場に止まっても貴方が失うものはあっても得るものなどありません!!全滅する前に!!たった一人でも貴方が救えるうちに!!」
「あるねぇ?!俺が満足だ!!」
「騎士は本当に来ます!!貴方はそれでも満足できるまで復讐を完遂できると思っていますか!?」
ピキリと、彼女の言葉に余裕を演じる笑みが一瞬軋む。
何故それをと過ったが、どうせ言葉の綾だろうと思い直す。貧困街の人間すら殆ど知らないそれを彼女が知っているわけがない。
それでも騎士という言葉を多用する彼女の声に、とうとうレオナルドだけではなく観客までざわめき出した。標的が自分達からずれたことで少なからず余裕ができたせいもある。
騎士だと?何故騎士が、ミスミに騎士はいない筈だろうと語らう会話がレオナルドの耳にも細く入った。
彼女の言うことは信用できない。でまかせの可能正の方が遙かに高い。しかし、残り数%の可能性もまた鑑みる。もし、もしも本当に彼女の言葉が全て真実ならばと少しでも頭に過ってしまえば、レオナルドとしても一蹴できないことは事実だった。
騎士という存在に怯える参加者と、そして自分が彼らを殺すこと自体は想定よりも遙かに簡単だった。護衛や警備もあっという間に尽き果て、邪魔が入るまでは一人一人嬲る余裕すらもあった。
総合した結果、レオナルドは一つの手段を鑑みる。地下の奥深く窓のない空間で、確かめるにはそれが一番身近で手っ取り早い。
「じゃあこうしようか。これさえ合ってりゃ信じてやる。アンタの言うとおり尻尾を巻いて逃げてやる」
両手を優雅に広げ、声のする目下へ視線を注ぎ直すレオナルドは空中での体勢を変えだした。
ただ羽ばたき浮遊している状態から、目指す先へと羽先を向ける。レオナルドの提案の意図もわからないまま、彼の向く方向へ顔ごと動かしたプライドは一瞬で顔色を変えた。
アラン達も、同じくレオナルドの先を理解したが、もうレオナルドが飛び出し回転を加えた時だった。彼を止めることよりもプライドの安全を優先して動く騎士達が、今の立ち位置が悪いとその場を飛び退いた。
「俺が!!」とステイルが、互いに縄で繋がった状態での飛び退きよりもと判断しプライドと共に繋がる全員を瞬間移動する。レオナルドが滑空した時にはハリソン達を含めた全員がその場から退いていたが、同時に通り過ぎる彼を止めることもできなかった。
強靱な翼に包まれ巨大な弾丸となったレオナルドが突入した先は、自らが破壊し塞いだ筈の出口だ。
今は瓦礫の山になっていたそこに、レオナルドが再び飛び込めば、砂の城を突いたように綺麗な穴が空いた。出口が開けたことと、そこにレオナルド本人が飛び込んだことに客達も喜べば良いのか絶望をすれば良いのかも状況の整理がつかない。少なくともレオナルドがいるそこに、まだ飛び込もうとする客は一人もいない。そして、レオナルドもわかっていた。
自分が想定した以上に敵戦力が弱体していた以上、穴一つ開けたところで逃げられる心配などないと判断した。
自ら地上へと繋がる通路に立ったレオナルドは、天井も低いそこで腰に手を当てる。瓦礫の先に姿を消したレオナルドに、プライド達だけが急ぎその後を追いかけた。
ステイルの足が遅く感じたアーサーが強引に彼を担ぎプライドのすぐ後ろに続く。同じ透明化した同士飛び出したプライドの姿が見えるカラム達だけでなく、エリック達も確かめるまでもなく同じ方向に走った。
しかし彼らが駆けつけるよりも先に、レオナルド自身がすんなりと穴からロビーへと戻ってきた。再び素早く空中へと地面を蹴って逃亡するレオナルドに、プライドは網で引っかけたくなる。
「ここで、騎士連中が本当に突入してきたら信じてやる。あと少しなんだったか?何分だ?」
「その時は貴方を捕らえなければならない時だと言ったでしょう?!突入した騎士が貴方を逃がすと思いますか?!」
「逃げれるね。逃げるぐらいなら難しいこたぁないおあつらえ向きの狭さだ」
馬鹿!!とあと少しで叫びかけた。自分を直接制したアラン達に対してと異なり、まだ騎士のことを甘く見ているとプライドは確信する。本当に、もう騎士達の突入時間まで時間もないというのにと眉間に力がこもる。
もし本当に騎士が突入してきてからの逃亡を試みればどうなるか。間違いなく騎士達はレオナルドを正式に無力化し捕らえないといけなくなる。騎士の陣形が乱れ、逃がしてしまう客もいるかもしれない。レオナルドの戦力だけは本物だ。騎士であろうとも直撃すれば負傷する騎士も考えられる。考えれば考えるほど、どう考えてもレオナルドが騎士の突入後に逃亡を図れば全てが詰みだった。
捕らえてください!!とプライドが声を張ると同時に、アラン達も動く。
これから闇オークション会場を殲滅する騎士達に無駄な被害などあげられない。もともと飛び込めば手の届くことは確認済みのエリック達の二度目の突入は迷いもなかった。プライド自身もまた同じ手でとそこで名を呼び振り返ったが、そこで諦める。自分が動くことはできるが、もうレオナルドに同じ手は使えないと言葉には出さず理解する。
無理だと一人首を振り再び見上げれば、早くもアラン、エリックそしてハリソンがまたレオナルドに飛び移り終えていた。しかし、三人の体重ではまだレオナルドも空中から降りようとはしない。過重に苦しそうな顔で振り払おうと空中で暴れるがそれだけだ。
カラムから手枷を受け取っていたアランが使う機会を見計らうが、レオナルドの翼になんとか掴まっている体勢で彼の両手を束ねることは難しい。
レオナルドがぽっかり空けた穴には、様子を伺うように逃げようとする客がにじり寄り始めた。
自分達全員で飛びかかることは難しい高度に立つレオナルドと、そして出口を交互に見比べたプライドはそこで、気付く。
ジャンヌさん、とカラムも声を掛ければすぐに一声返した。レオナルドの為にも、そして騎士隊の為にも、闇オークション関係者を逃がさない為にももうそれしかない。決断を下したプライドは、もう一度だけ最後の最後の機会を与えるべく、大きく息を吸い込んだ。
「レオナルド!!!今すぐ帰ると言いなさい!!さもなくば後悔させます!!!」
「へぇ?!痺れるねぇ??やれるもんならやってみりゃあ」
「ッヴァル!!!!レオナルドを拘束してください!!!!!」
直後、地鳴りが鳴り会場全体が揺れ出した。
騎士の突入かと錯覚しかけたレオナルドは、彼女の言葉の意味よりも出口に目を向けた。しかしそこに騎士の姿はなく、代わりに見えたのは自分が空けた穴から鋭い眼光を向ける〝妙な目の〟男だ。
地鳴りに意味はなくその正体を結論づける前に、背後から拘束される方が先立った。人間の感触ではない、また見えない何者かが飛び乗ってきた過重も感じられず、むしろ自分にぶら下がっていた男達三人もあっさり自分から離れ飛び降りていた。
しかし肩から腕が巻き込まれるように掴まれ、何もない筈の天井に引っ張り込まれる。肩が天井にぶつかり、逃げようと翼の羽ばたきを止めても降下しない。それどころか足までも同じように巻き込まれ、天井に引っ張り込まれていく。
振り返っても天井しか見えないまま、翼ごと自分が天井の一部のように飲み込まれた。特殊能力を解き、もう一度翼を出そうとしたが今回は翼を出すことも叶わなかった。いくら天井も抉る強度の翼でも、背中ごと天井に飲み込まれていれば生じさせることはできない。完全に天井の一部と化したレオナルドは、翼どころかもう身じろぎ一つできなくなった。
おい、なんだこれは、ふざけんな、と怒鳴り喚くが、翼も出せず自身も動けなければどうしようもない。
さっきまで自分を取り押さえようと躍起になっていた男三人も、今は自分よりも出口から客を逃がさないように大穴に揃って向かっていた。「ヴァル!ありがとうございました!!」と叫ぶ声に、あっちかと目だけを動かし睨む。
客もぽかりと口を開けて見上げてくるのがまたレオナルドには嘲笑されるほどに屈辱だった。下ろせ、離せと喉を荒げるが、その間に彼女の返事はない。自分じゃない男の怒鳴る声の方がよく聞こえる。再び姿の見えない彼女から凜とした声が放たれるのは、自分が喚き切った後だった。
「出ますよレオナルド。自分の目で確かめなさい」
騎士隊が突入してくるのは下ろしたレオナルドに特殊能力者用の枷をかけてから、僅か一分後のことだった。
本日2話更新分、次の更新は水曜日です
よろしくお願いします。
また来週は夏休みいただく予定です。




