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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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Ⅲ300.来襲侍女は戸惑う。


「護衛はいりませんか?」


直後、撤退するスタッフの男に怒声を浴びせられたステイルはにこやかなまま手を振り見送った。

呼びかけるまでもなく、自分の腕を掴んでいた感触がそっと離れていく感覚に気付きながら今は見回さない。この場で別行動になるのも想定内だ。ほんの僅かな時間だからこそ、そのまま止めはしない。

隣でセドリックが緊張を飲み込みながら並ぶ中、プライドは軽く彼の肩にも手を置いてから立ち去った。「ありがとう」と一言彼の功労を感謝しつつ、透明の特殊能力者であるローランド達を連れてスタッフを追跡する。

もともとセドリックが受付に奴隷を取りに行かせる時についていく手筈だった分、この行動に確認も迷いも互いにない。結果としてスタッフはステイルの商品を持ってくる為に、奴隷も一緒に保管された舞台裏の保管部屋に向かうのだから。


「……じゃあ僕はここで失礼致しますね?十九番殿」

「ええ、お疲れ様でした」

取りに行かせたスタッフを尻目に、にこやかな笑みで撤退を告げるステイルへセドリックも自然な口調で返した。

一瞬、セドリックが敬語を話してきたことに注意しようか過ったステイルだが、すぐに改めた。彼の場合自分に対してだからいま口調が改まったのではなく、ただただ闇オークション関係者に対してのみ口が悪いだけだと理解する。

その証拠に、言葉は返してもいつものように礼まではしてこなかった。あくまで他人として振る舞ってはいるセドリックに、ステイルもそこで一度目を合わせてからその場を去った。キャンセル希望だった客が売る商品も買い取った商品も置いて逃げるなど、当然考えられる事態だ。

スタッフが部下を見張りに寄越す前にと、足早にステイルはアランとエリックを連れ、肩がぶつかるほどの人混みに紛れ中心へと消える。本来は人混みの中に紛れるだけで済ませる予定だったが、スタッフの顔色と銃を奪ったことを考えてもすぐに応援が来ると考える。


「……少し早いですが、使いましょうか。いっそヴァル達と合流するのも良いかもしれません」

「!フィリップ様、あそこが」

懐に手を伸ばそうとするステイルに、エリックが待ったをかける。

声を潜めつつ視線だけで指し示す先は堂々たる会場出口だ。両開きの扉の傍にはスタッフらしき男が一人腕を組んでいるだけだった。セドリックと異なり自分達は大荷物も所持しておらず、さらに支払いと引き取りの確認は別窓の受付だ。今ならまだ、退却する自分達を引き留める者はいない。

エリックの示す先に意図を理解したステイルは、迷わずに足を速めた。両開きの扉の先には大柄なスタッフが立ってはいたが、強引にステイルの肩を掴もうとしたところでアランが背後から絞め技で意識を奪った。

両扉をエリックが外から閉め切れば、もう通路までは無人だ。

想定以上に人員がハリソンへと敷かれたことにより、たった一人の見張りを倒せばもう阻む者はいなかった。


都合良く誰の目もない場所を確保したステイルは、そこで一度息を吐いた。

扉に外側からもかんぬきの施錠があるとエリックが告げれば、ステイルも即答した。入場した時にエリックと同じくステイルも外側から封鎖できる扉であることは覚えていた。客か、奴隷か、裏切り者か、主催側が逃がしたくない存在が闇オークションには多い。アランが締め上げた男も、万が一にハリソンが逃げ出した際に封鎖する人員だったのだろうと考える。

どうせ扉を施錠などせずとも彼らが逃げ切るのは不可能だと確信しながらも、ステイル達は打てる手は全て打つ。何より今の自分達には都合も良い。


「ここで、待ちましょうか。ダリオが長めに引き付けてくれていると助かるのですが」

自分達が帰ったと思えば、間違いなくスタッフは追いかけてくる。そして会場の扉が閉じていることに気付かれれば、容易に騒ぎにもなるだろうと理解する。

しかし、自分達も長くここに籠城するつもりはない。もともと長時間近衛騎士も自分とプライドから離れるのは認められていない。

逃げるつもりならばこのまま外に出ることなど容易いのだから。今はただ、何者からも姿を隠せていればそれで良い。

ステイルが壁際に寄りかかり目を閉じればアランは通路側に立ち剣を抜き、エリックは扉に耳を付けロビーの様子を探りながら、三人揃って気配を消した。

いつ来ても良いように、今はただひたずらに合図を待った。


……


「ミシェルは……?」


そう、思わずプライドが零したのは保管部屋に入ってすぐのことだった。

スタッフの部下達が一斉に向かう方向へ追いかけ、目当ての部屋へとたどり着けばもう身を隠す必要も殆どない。プライドの口を手で塞ぐよりも先に、騎士達の行動は決まっていた。

透明の姿のままローランドが扉を内側から施錠し、アーサーとカラムが一斉に動いた。温度感知の騎士が見張り以上の異常はないと確認しきるよりも早かった。

ローランドと縄で繋がっていようとも、姿を消している騎士が先手で負ける理由がない。


急所を狙い一撃で沈めたところで、数秒の沈黙が流れた。

扉の向こうからはドンドンと扉が叩かれ命令が放たれれば、奴隷の一人が震える手で開こうとしたがそれをローランドが止める。


「駄目です」

自分達は敵でないことをその声色でも伝える。

姿の見えない相手に手を掴まれたところで悲鳴も上げられなかった奴隷だが、同時に身じろぎ一つできずすくみ上がった。反射的に動けなくなった身体に反し、頭だけがあまりに慣れない柔らかな口調を向けられたことに疑問符が浮かぶ。

瞬きをしている間に、部屋の人口密度は変わった。さっきまでは自分達奴隷とそして急に気を失った見張りの男四人だったのに、さらに目新しい男が二人も佇んでいる。


「突然失礼致します。我々は騎士で、貴方方の味方です。奴隷被害者の救出に参じました」

「扉も、危ないんで近づかないでください。大丈夫です、姿は見せませんけどその人も味方です」

奴隷二人の丸い目が自分達に向けられ、同時にプライド達の姿が見えなくなったカラムとアーサーは代表として奴隷達に呼びかける。ロドニーが部屋の安全は確認したとはいえ、わざわざプライドの姿まで見せる必要はない。


騎士、という言葉を知る奴隷と、そして彼らが何を話しているかも理解できない女性が並び棒立ちになる。

一体何が起きたのかもわからないまま、しかし今まで向けられた表情や振る舞いと違う、両手を胸の前で開いて見せながら落ち着いた声色で呼びかけられるだけでも肩の力が静かに抜けた。

扉の前で固まる女性に、ローランドはそっと指先で触れる程度の柔らかさでその肩をアーサー達の方向へ押し出す。

押されたことに女性もたどたどしい足取りで二人の方へ歩み、途中で転んだ。震えた足と繋いだ鎖を引きずるままに倒れた男達を避けて歩くのは難しく、だからといって踏みつける度胸はなかった。短く悲鳴を上げ、倒れる女性をカラムは手を伸ばしそして自分の胸へと引き寄せる。先程のオークションでの紹介も覚えているカラムは、恐らく彼女は言葉がわからないのだろうと判断する。両手で抱き留め、それから怯えさせないように優しい手つきで鎖に繋がれた彼女の手に触れ


バキャンッ。


「もう大丈夫です」

両手の鎖を怪力の特殊能力で引き千切った。

女性に通じないと理解しながらも構わず言葉を掛け、目の前で鎖が切れたことに瞼を無くす女性へそっと跪いた。今度は彼女の両足の鎖も同じように引き千切る。鎖は繋がったままでも、これでもう拘束力は無くなった。

カラム達が何者かはわからずとも、鎖を切ってくれた相手に助けてくれるかもしれないとやっと彼女の胸に希望が灯る。カラムが背中を向けた途端、今度は安堵のせいで腰が抜けそうになれば、アーサーに素早く受け止められた。

大丈夫ですか、と声を掛けながらアーサーは丁寧に彼女を壁により掛けるようにして座らせた。その間にカラムは、もう一人の奴隷の鎖も同じように引き千切った。目に見えて奴隷被害者二人の顔色から恐怖が薄れたのを確認したところで、再び透明のプライドは声を掛ける。


「あのっ、歌を歌っていた奴隷は……?!ここにいる筈なのだけれどっ……」

プライドの悲鳴に近い声にカラムも前髪を指先で払い、千切った鎖を捨てて立ち上がる。

部屋にいる奴隷はたったの二人だけ。しかも順番を思い返せば、ちょうど歌った奴隷被害者の前後に舞台に上げられた二人がここにいる。間の順番にいる一人だけが先に返されたとも考えにくい。

可能性とすれば高額商品だから特別な部屋に、もしくは鞭を受けた怪我を治療する為に場所を移っているかのどちらかだ。

知りませんか、とアーサーはその場にいた奴隷被害者二人に尋ねたが、答えは得られなかった。女性の方はアーサーが何を話しているかも理解できず、そしてもう一人の男は何か訴えようとはしたが舌が抜かれていた。身振り手振りで訴えるには難しく、必死に部屋の扉を指して口をパクつかせるだけだ。

足下に転がっている男達に聞ければとプライドは狭い床を埋める足下を見つめたが、声を掛ける前に諦めた。もともと意識を奪うことを目的に騎士に攻撃された人間が、揺さぶる程度で起きられるわけがない。

その証拠に、意識を奪った本人であるカラムもアーサーもチラッと足下を見るだけで起こそうとはしない。


「ひとまずフィリップ様をお呼びした方がよろしいかと」

「あの!一緒に連れてこられた奴隷の人って、地下の檻とあの歌ってた人以外はお二人だけですか?!」

予想外の事態にも冷静に次の一手を促すカラムの横で、アーサーは男の方の奴隷に問いかける。

口の利けない奴隷は頷きかけ、途中で青い顔で首を横にブンブン振った。指を一本立てた後、口を必死に動かしながら頭を両手で押さえ肩より下まで下ろして見せる男のジェスチャーにアーサーは「あ、その人は大丈夫です」と息を吐いた。

一人、髪の長い奴隷が逃げ遅れているとちゃんと伝えようとしてくれている彼は信用できそうだと頭の隅でこっそり思う。もし取り繕われて嘘を言われていればと心配したが、幸いにもしゃべれない以外はむしろ協力的だ。

まさか身を案じてくれたその奴隷が、潜入の騎士で今も大暴れしているとは思いもしないだろうと考える。


カラムの促しとアーサーの確認に、混乱気味だったプライドも我に返る。

そうだった!と思ったところで、口笛を吹き鳴らす。ローランドとロドニーの前でも合図を使う許可は貰っている。

ピイイイイイイイと鳴り響く口笛は、たとえ地下であろうとも分厚い扉越しでも関係ない。扉の向こうでは今も蹴破ろうと声を荒げた男達が喚き叩く中、扉の施錠もなくステイル達が姿を現した。


「お待ちしてました」


そう告げ、瞬間移動で現れたステイルはアランとエリックと共に見張りの男達の上にむぎゅりと着地した。

あまりに狭い部屋だった為、プライド達にぶつかるくらいならばとステイルの意思で男達の上を選んだ。嫌な踏み心地に、すぐさまそこで床へと降りる。

セドリックが「まだ俺様の落札商品は来ないのか」という名目で護衛の騎士達と共に、スタッフ達を捕まえ足止めしたお陰で幸いにもまだステイル達が扉を閉じたことで騒がれることはなかった。

しかし、かんぬきをそのままに瞬間移動してきたからどちらにせよ騒ぎになるのは時間の問題だろうとステイルは予想する。


早速彼らをと、奴隷被害者達を瞬間移動させようと口を開きかけたステイルだがそこで止まる。

プライド達の姿が見えないのは想定内だが、プライドが一番気にしていた奴隷被害者がいないことに気付く。狭い部屋に、誰かの陰に隠れているかとも思ったが首の角度を変えてみても見つからない。


「ジャンヌ。件の奴隷被害者は?」

「私達が来た時にはもういなくて。捕まっている彼らにも聞いたのだけれど……」

一人は言葉が通じず、一人は舌がない。そう説明すれば、ステイルも足下の男達を目だけで見下ろしてから納得した。

なるほど、と眼鏡の黒縁を押さえようとしたところで仮面を思い出し今外す。もう、姿を隠す必要もない。ステイルが仮面を取ったところで、アランとエリックも同じように顔から外した。

まずは確保した彼らから逃がしましょうと、やはりカラムと同じ結論に至ったステイルはそこで女性に歩み寄る。異国、という点から試しにいくつか異国の言葉で話しかけてみたが、残念ながらどれも戸惑われるだけだった。

仕方ないと肩を竦めたステイルは、社交的な笑顔で彼女の手を取った。さらに、順番では誤解されて抵抗されるかもしれないと男の方も手招きしその手を掴む。男の方は話が通じるのならばと、安心させるようにステイルは耳心地の良い声色で言葉を掛けた。


「後はお任せください」

それでは、と。二人揃って一度に瞬間移動させる。

お陰で部屋の中は足下の見張り以外、ステイル達だけが残された。他にはもういないのかと再度確認するステイルに、プライドもその一人だけだと返した。残る問題は、ミシェルだけだ。

本来ならばここで脱出する筈だったプライド達だが、ミシェルの不在を知っているのは自分達だけだ。本人の所在がわからないままの撤退はできない。


「扉の向こうの奴ら何人か引きずり込んでみるか?」

アランが軽い調子で扉を指す。扉を開き、意識がある男達を引きずり込むくらいはわけもない。

ただし、見張りでもない彼らが知っているかはわからない。開けた途端に「奴隷がいないぞ!」と騒がれる可能性もある。ステイルからは一度ヴァル達と合流してそちらにいないか確認してからでもと提案が挙げられる中、そこで今度はアーサーが挙手をした。

「あの」と、会話に入るのを少し遠慮しながらもその目は既に据わっていた。


「連れてきます。扉の前も一掃するんで、ちょっとだけ離れても良いですか?」

すぐ戻ります。と、断言するアーサーはそこでステイルと目を合わせる。

どこか行きたい場所があるのかと、その視線だけで理解するステイルは眼鏡のない顔で眉を寄せた。ある程度予想はできるが、アーサーが言うのならば確信もあるのだろうと考える。

プライドからも肯定が返されれば、ステイルも自らアーサーに歩み寄った。見張りの頭を踏みつけながら「どこに?」と尋ねれば、予想通りの一度通った場所だった。扉を開く必要もなくアーサーに触れ、合図もなく姿を消した。


直後、急激に騒がしさが増していく。


お待たせしましたと、落ち着いた声でアーサーが外から扉をノックするまで十分もかからなかった。

エリックに銃を奪われたままの受付スタッフの男を締め上げ引きずってきたその姿に。……ステイルは、相棒がハリソンの部下だった事実を静かに思い返した。


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