そして許可する。
「ひどい話でしょう?商人としてどうしても諦められず……。地下への入り口がここであることも合流の為聞いていたので、突然押しかけることが無礼とは存じておりましたが」
つまりは背後の荷車にあるのは、もともと搬入する予定の商品かと見張りの男達は期待を膨らませた。
名簿の確認を任された見張りはどんな品が搬入される予定だったかも名称だけは知っている。予定商品は騎士団に取り上げられてしまったことは間違いないが、本来の提供者ともなればそれに準じた商品を持ち込んでいるとも期待できる。オークションにとっては大目玉ともなる奴隷、その品数が増えるのならと気づけば喉がごくりと太く鳴った。
しかし目の前の男が騎士関係者であることもまだ疑える。話している内容に納得はできるが、騎士団に捕まった人間の紹介など信用できるわけがない。しかし、大口商品を一つでも増やしたいことも事実。少なからずの危険を取るかそれともと見張りの二人が口を閉じたまま考えを巡らす中、にっこりとさも当然のようにローブの男は胸を張り荷車を手で示した。
「フリージアの血は彼に提供したあの二品のみでしたが、それに相応する自慢の二品です。纏めて売れば良い額になるかと。なにせ、異国といえど別大陸の希少な人種です」
別大陸?と、見張りは大きく目を見張る。
学もない裏稼業で生きてきただけの男達だが、奴隷市場でどのような商品に価値があるかは知っている。自分達の戸惑いが気取られぬように、目くばせだけで互いに疎通を試みる男達だがその視線だけでローブの男には充分手に取れた。「いかがでしょう」と抑揚を過剰に含んで見せながら、自分を大きく見せるかのように両手を広げた。
本来市場に出せば、フリージアの血どころか特殊能力者と相応する価値のあるほど海の先にあると言われている別大陸。その中でもとうに滅びたとされていた異民族。そう、まるで伝承が語るかのような荘厳な語り口で告げる男はそのまま悪戯するかのような手招きで、荷車へと見張り二人を誘った。実際に見て確かめてみてくださいと語りつつ、護衛の男達に荷車の扉を開けさせた。
最初は罠かとも警戒した見張り二人だが、開かれた扉の先で鎖に繋がれた男二人のうち一人にハッと大きく目を見開いた。今まで見たことのない、人間と呼べる形の商品が自分達を睨んでいた。
「いかがでしょう?収集家であれば私財全て投げ打ってでも欲しがる珍品ですが」
間違いなく収集家好みの商品だった。特殊能力があるかもわからない、見掛けはただの人間であるフリージア人よりもはるかに人の目を引く珍品だ。
疑いようのない希少品に、見張りの一人はうっかり名簿を落としかけた。悍ましさに鳥肌も立ったが、それ以上に自分達への報酬にも影響するであろう高額商品に目の色がギラギラと変わる。
わかった、参加させてやろう、特別だと、横線で消された名簿の参加者名に新たな名を書き足していく。この商品を突き返したと知られた方が、自分達の立場を悪くする。ちょうど席もまるごと一つ空いているのだから問題はどこにもないと、ただただひたすらに目の前の金の鳥を前にもっともらしい理由が頭の中で組み立てられていく。
勝手に名簿へ書き込んでいく仲間に、もう一人の見張りも「良いのか」と声を掛けようとしたが、偶然としか思えないほど同時に商人は「もう片方の男も」とさらに普通の風貌の商品にも付加価値があると語っていく。
同じ別大陸の人間で、人種こそ珍しくはないが一族でずっとその異民族の研究と捜索に人生を費やしていた。その証拠に商品の異民族へ造形が深いだけでなくその言葉も理解でき、異民族に対して世界で唯一の通訳でもある。仕込めば優秀な補佐になりえる逸材だと。
そう目に浮かぶように語りきられた後には、見張りは二人どちらの奴隷も完全に金しか見えなくなった。
「ハワーズ収容所が取り潰しになった今、近々あの地区で頭角を現すのは間違いなく我らが商会です。今まで影日向と支えていた分、これからは邁進していくつもりですのでどうぞ宜しくお願いいたします」
教養のある礼を見せながら告げる男に、間もなく入口への扉は堂々と開かれた。
紹介状代わりとなる見張り直筆のメモを受け取り、荷車から商品を連れ入れと命じられる。建物の中に道案内係がいるからこのメモを渡せば良いと、そこまで説明をする見張りに丁寧に「ありがとうございます」「感謝します」と礼をするローブの男はそこでくるりと背後の男に振り返った。護衛達が荷車から商品を引っ張り連れ出す中、さも当然の流れのようにそこで今日一番に深々と見張りの前で頭を下げた。
「では、私は商会に戻らせていただきます。どうぞごゆるりとお楽しみくださいませダリオ様」
ああ、と。予定通りのそっけない言葉で返したローブの男は、そこで被っていたフードを初めて取った。本心ではここまでお膳立てしてくれた彼に感謝の言葉をいくつも告げたかったが、今はあくまで闇オークションの参加者だ。
今までまるで商会の代表者かのように振舞っていた男が身を引いていくことに、見張り二人は瞬きを繰り返したがその間にも憮然としたダリオと呼ばれた男は当然といわんばかりに先へと進んでいった。その堂々とした態度と空気に、今まで腰低く部下に語らせていた無言の彼こそが主人だったのだと認識を改める。開けた扉を閉じ直すこともせず、護衛三人が運ぶ重々しげな鞄と、連れる商品二人とともに建物の中へと通した。
そして彼らを通してすぐにまた施錠とともに扉が閉ざされたところで、ずっと頭を下げていた男はゆるやかな動きで姿勢を戻した。
「それでは」「あの御方をよろしくお願いいたします」と、最後まで物腰柔らかく低姿勢のまま空になった馬車に乗り、御者とともにその場を去った。
無事、必要な人材と商品を潜り込ませられたことの笑みを最後まで隠し通しながら。
…………
「予定通りダリオ様と護衛三名。そして商品二名をお届け致しました」
「流石だな」
のんびりとした足取りで進んだ馬車が最後に停止したのは、奴隷商会でもなければラジヤ属州でもない。敢えて人が多い大通り沿いの脇道だ。
行き交う人も立ち止まる人も大声で商品を売ろうとする商人も往復し、複数の馬車も止まっている中で、馬車が一台止まったところで誰も気に留めない。馬車がら降りた、顔に大きな傷がある男はにっこりと笑いながら彼らに礼をした。もう誰もいない、荷車の中へと待ち合わせ場所に待ち人とともに入っていく。
「やはり学のない彼らは、伝説上の大陸も民族も、海の向こうには実在すると信じてくれたようです」
「お前の口の上手さあってのことだろうがな」
「おや、お褒め頂き光栄です」
溜息交じりに返すステイルに、顔に傷のある男ジルベールはにっこりと笑みを返した。
セドリックと護衛の騎士三名、そして商品らしく姿を変えて映したヴァルとそしてライアーは無事潜入を果たし、残すは別口として挑むステイル達だけだ。ステイルの目にはいつものジルベールだが、フィリップの特殊能力で別人の顔に偽装された彼はさぞ奴隷商らしい面持ちだっただろうとステイルは思う。
セドリックやジルベールの本当の姿をまだ知られるわけにはいかないライアーには、フィリップの特殊能力は施せなかったがヴァルを印象強くすればすんなりと纏めて引き取らせられた。
ヴァルに関しても、フィリップのお陰で高額商品に偽装することができた。髪の長さや骨格、体つきは変えられずとも、普通の人間と一部でも異なればそれだけで珍品となる。別人の顔にした上でも高身長であるヴァルならば異様さもある。
実際に目の前にいて、本物か疑う者も当然内部で現れるだろうとジルベールも思うが大事なのは「見過ごせない高級商品」で且つ「フリージアの人間と思えれない」ことだ。
「フィリップ様は三十分後でしたね。他の方々は予定通りまだ宿でしょうか」
「俺が計画を変えると思うか?お前を帰すだけだ」
そうですね。と、微笑むジルベールはステイルの顔色にプライドの調子も問題なさそうだと理解する。朝からアルバートの許可を得て、城から直接馬車の中にステイルによる瞬間移動でセドリック達や護衛の騎士と合流したジルベールはまだプライドとは会っていない。
捕らえた奴隷収容所の所長から聞き出した闇オークションの入り口へセドリック達を先行させ、次のステイル達はまた時間を置いてからの訪問だ。
「私ごときが送り出せたのですから、当然フィリップ様も潜り込めることでしょう」
フン、とジルベールから悪戯な圧にステイルは鼻息と睨みで返した。
わかって言っているなと知りつつも、ここで否定してやるのも認めるのも負けた気がして言いたくない。
腕を組み、顎の角度を上げるステイルにジルベールは手を差し出す。それを受け、ステイルも送り出すべく彼へと触れた。バシン!と手の平同士を叩き付ける激しい音と共に〝奴隷商〟は姿を消した。
ジルベールにより繋げられた次の一手、三十分後続けるのは他でもない自分であることにステイルは彼が消えた後も眉間を狭め続けた。
ラス為アニメSeason2・第9話が<<本日>>放送です!
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