〈コミカライズTSP第2巻発売!・感謝話〉お披露目
「お待たせステイル、ティアラ」
近衛兵のジャックにより開かれた扉から入ってきた三人に、プライドは緊張するように肩が強張った。
どうかしら……?と背筋を伸ばし起立する姿は、普段の王女姿ではない。アネモネ王国へお忍び訪問する為に、上級商人に扮した恰好だ。
十六歳になったばかりでまだお忍びの経験も少ないプライドは、普段とは異なる恰好というだけでも少し緊張した。王女としては突飛な団服を模した運動着姿ともまた異なる、着慣れない衣装だ。
普段のしっかりとしたドレス姿よりも気安さがある衣服は着心地こそ良いものの、違和感も覚えた。
「素敵ですお姉様っ!!とってもお似合いです!」
きゃあ!と声を上げ、最初に駆け寄ったのはティアラだ。普段と違う恰好の姉の姿に目を輝かせ、もっと近くで見たいと無意識に前のめりになる。
可愛い妹ティアラに褒められ、プライドも「ありがとう」と言いながらほっと息が溢れた。優しいティアラなら本心で言ってくれているのだろうとは思いつつ、しかし直後にはチラッと上目にステイルへも覗いてしまう。
ティアラと違い、ステイルは今も開かれた扉の前に立ち止まったままだった。
普段の王子姿と異なる上級商人の姿のステイルに、プライドは見事に似合っていると思いながら丸い目で見つめてしまう。自分の姿に対して顔色を窺うことも忘れ、どんな衣服でも着こなしてしまうステイルに流石攻略対象者と思う。いっそ、ステイルほど頭が良ければ本当にこういう人生も彼にはあり得たのだろうとまで想像を膨らませた。
「兄様っ兄様も早く!」
「!あ、ああ……」
プライドからの真っ直ぐな視線を受け、息を詰まらせたステイルだが、ティアラからの声に一歩ずつ踏み出す。遅れた「お似合いです」のひと言にさえ時間が掛かった。
普段と違う彼女の姿にうっかり見惚れてしまった。ティアラの褒めちぎりに、相槌を打つのも言葉ではなく思考の中で頷いた。
……
「プッライド、様……」
ぐわりと思わず喉を反らすアーサーが待ち構えていたのは、王居の前だった。
その後方には作業が終了した荷馬車が控えている。第一王女と第一王子が一泊するのに不便がないよう、衛兵により様々な積荷が詰め込まれた後だ。
作業が終了した馬車の前には近衛騎士のアーサー、そして今回護衛に選ばれたカラム、アラン、エリックが並んでいた。彼らもまた上級商人とそして付き人という普段と異なる恰好で待ち構えていたものの、お互いの新鮮味などどうでも良くなるほどにプライドへ注視した。
普段の王女姿とは異なる姿は、あくまで上級商人として貴族の令嬢に近い系統ではあるものの、しかし普段のドレス姿とはまた異なる柔らかな印象だ。
「アーサー、珍しい恰好ね。そういう恰好見るのは初めてだけど、とても似合っているわ!」
「?!あッありがとうございます……けど、その、自分より……プライド様の……が」
自分が褒めるどころか何か言う前に先手を取られ、アーサーの肩が一気に強張った。
自分よりもプライド様の方がお似合いですと、言いかけても喉が枯れた。褒められたことの返事と違い、続きの言葉は発して良いかも迷う。
ただでさえ尊敬する先輩達が見ている中で、第一王女相手に対して商人の衣装を「似合っている」と言って良いかも悩んだ。今がステイルと二人きりなら、プライドについても「似合ってた」といくらでも言えるが、騎士の先輩達がいる前でプライド相手に不敬などできない。
途中からもごもごと声が小さくなったアーサーに、プライドは小首を傾げ、それから改めて自分の恰好を見やり胸元を押さえた。
「……やっぱり私には可愛すぎたわね」
「ッいえ!お似合いです!!」
「お似合いですからッ!!」
ハッと息を飲んだアーサーとステイルがほぼ同時に前のめる。
まさか自分の発言を反対の意味に取られたことにアーサーは目の前にいるプライド相手に思わず声を響かせ、更にステイルは相棒の台詞を奪う勢いで声を上げ、重なった。
緊張状態のアーサーもまた自分と同じような誤解をプライドに与えてしまうだろうと、聡明なステイルは予期した。プライドがまた誤解しないように強い声でアーサーと共に訂正する。
『ちょっと可愛すぎないかしら?』
ティアラと自分にお披露目した時も、そうだった。プライドからのまさかの言葉に、そこでようやく意志を持って「お似合いです」と言い直した。可愛らしい恰好が彼女に似合わないわけがないと、本気で思う。
お披露目でもティアラが全力で「お似合いです!」「可愛くて!」「どんなお衣装も着こなしちゃいますね!」「羨ましいですっ!」と声を跳ねさせたものの、褒めれば褒めるほどプライドはティアラではなくステイルやジャックの視線が気になり始めていた。
愛らしい桃色の上衣は可愛らしいとプライド本人も気に入ったものの、目つきのキツいラスボス顔ある自分が着るには少し可愛らしすぎないかとも心配になった。女性の可愛いと、男性の可愛いの感性がどうしても異なってしまうことも理解している。
寝衣ならば見せる相手が少ない分自由にできて良いが、お忍び用の衣装では自分に似合っているかどうかと男性の目線も少なからず気になった。ただでさえ、ついこの前の誕生日パーティーでは大人の女性らしいドレスを着こなした後である。
「ッ先ほども俺とティアラが申しました通り、姉君は見事に着こなされています。変なところなど一つもありませんので、堂々となさってください……!」
ステイルの言葉にその時を知らないアーサーも、うんうんと繰り返し頷いた。
二人からの全力の肯定に、優しさが身に染みながらプライドはほっと息を吐く。「良かった」と微笑めば、そこでようやくアーサーもステイルも胸をなで下ろせた。
「ありがとう。何度も気を遣わせちゃってごめんなさいね」
いえ!と今度は二人の声が重なったことに今度は眉を垂らして笑ってしまう。赤らんだ血色の二人に、第一王女である自分にこんなことを言われたら圧をかけられていると思って緊張させても無理はないと思う。
最初に衣装を用意された時、ティアラならばまだしも自分が着るには愛らし過ぎる服装を前に、いっそステイルのように男装に近い恰好を用意してもらうべきか悩んだのを思い出す。
しかし、専属侍女のロッテとマリー二人からの「きっとお似合いになります」「大丈夫です」の言葉に押され、袖を通して今に至った。
少なくとも男性の目から変に見えないのであれば、この恰好で正解だったと今は思うことにする。ただでさえラスボスの鋭い眼光と顔付きで男装まですれば、今以上に威圧的に目立ってしまうと考える。
今回の任務を思えば、周囲から威圧的に見られる恰好はなるべく避けたい。ただでさえ
「レオン様にもお会いするかもしれない恰好だから。会うのは明日でも、一泊するのはアネモネ王国の城下だし……」
酒場で民を前に飲んでいる姿を確保するのに、威圧的な恰好で遭遇すればそれこそ怯えて逃げられてしまうかもしれないと思う。
その為にもやはり今のこの可愛らしい恰好が少しはラスボス女王としての威圧と人相の悪さを緩和してくれるとプライドは考えることにした。最後は一人、苦笑する、………………まさか、その呟きが別の意図に汲み取られることになるとは思いもしない。
─ レオン王子の目を気にされていたのか……。
─ ……やっぱ婚約者には女らしく見られたいんだな。
自分達の目ではなく、同じ異性でありそして唯一無二の婚約者であるアネモネ王国の第一王子のことを今も考えているのかと。既に彼女の目的を聞いた上でも、やはり棘が一本刺さった。
愛すべき婚約者、そして見目麗しい中性的な美男子でもあるレオンを相手に服装や見られ方を気にするプライドをまた愛らしいとも思う反面、それ以上に胸が締め付けられた。
強張っていた身体から意図せず力が抜け、肩が落ちる。安堵する彼女がまさか、これから婚約解消する為に極秘訪問の馬車と護衛、母親から女王代理として様々な許可を得たなど知りもしない。
「アラン隊長、カラム隊長、エリック副隊長、ご挨拶が遅れました。お忍び中は呼び捨てで呼ばせていただきますが、私のことも商人の「ジャンヌ」そして我が弟、ステイルのことは「フィリップ」とお願いします」
覇気がなくなる二人を横に、プライドは馬車の前に整列する護衛の騎士達へと笑いかける。
今回の護衛の挨拶をするプライドに、三人は声を揃え「よろしくお願い致します!」と騎士らしく背筋を伸ばし、一礼した。
「今回の極秘訪問は隊長、副隊長格の中から私が信頼できると思った貴方方三人を指名させて頂きました。…どうか、宜しくお願いします」
お似合いですよ!その衣装もとても似合われています、自分もとてもお似合いだと思います。……お忍び衣装姿を気にしている様子だったプライドを前に、そうアランもカラムもエリックもそれぞれ言葉が頭に浮かんだが、口にはしない。アーサーと違い、第一王女を相手にそんな言葉を気安く言える立場に自分達はないのだと、ただ姿勢と表情を引き締めた。
彼らの固い表情と赤らみだす顔色に、やはりこの格好に何か思うことがあるのを抑えてくれているのだろうとプライドは思いながら、もう同じ問いはしない。今夜何もなければ、明日はちゃんと王女としての格好でレオンにも会えるのだからと考える。
まさかこの後、薬で潰れ回収されたレオンが、婚約者の服装を気にするどころではなくなるとは思いもしなかった、
本日ラス為コミカライズTSP第2巻が発売中です!
婚約者編です!
5月29日から発売しましたラス為TSPコミカライズ2巻の特典でかわのあきこ先生に描き下ろして頂いたペーパーから、勝手に構想し書かせて頂きました。
こちらは、電子限定特典を元に書かせて頂きました。
※書店ではなく、イラストで作者が勝手に選んで書かせて頂いています。
お楽しみ頂ければ幸いです。
※さらにご報告です!!※
本作者の別連載作品であります
「純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~ 」が書籍化決定致しました…!!
予約まで開始したとのことです。是非こちらもお楽しみいただけますと嬉しいです。
よろしくお願いします。
https://www.amazon.co.jp/dp/4824014891




