そして念を押す。
「まぁ~ヴァルと組めば問題ねぇだろうなと思うくらいには。今までも火系統の特殊能力者とは騎士同士も含めて何度か戦ったことありますけど、あいつは別格でしたから」
おぉ……、ほぉ、と。エリック、ステイルからも感嘆の声が溢れる。
あくまで特殊能力単体での話ではあるが、騎士団の特殊能力者よりもと聞けばどれだけのすさまじさかは察せられた。アランがそこまで誉め、そしてカラムも否定しない相手ならばいっそ自分達もその戦闘姿を見てみたい気持ちにもなる。
アーサーの目にはアランやカラムが何か隠している影は見えたが、敢えて口を閉じて追及はしない。最初にプライドの前でライアーの話になった時からそうだったが、きっとそれだけ熾烈な戦いがあったのだろうと思う。
戦闘については常に生き生き話すアランが、まったく戦闘での流れを語らないのもそういう理由なのだと思えば納得できた。カラムがずっと難しい顔をしているのも、アランがまたカラムを怒らすようなことをやらかしたのかなくらいにしか思わない。
少なくともライアーの実力自体を誤魔化しているような違和感はない。仮にも今は一般人である人間を、アランやカラムが実力を偽ってでも戦場に引っ張り込むような人間とは思わない。
ライアーもライアーで、自分達には常に取り繕っているようには見えたが、騙そうとしているというよりもただただ平静を見せて自分の立場を維持しようとする程度の緊張だ。むしろプライドがジャンヌだと判明した後の顔色があまりにも取り繕いの影もない蒼白だったことの方が、アーサーには頭に残った。
「まぁ、ライアーの方は大丈夫ですよ。プライド様もちょっと落ち込んではいましたけど、結局は昨日より大分元気になられて良かったと思います」
俺達が知っても知らなくても闇オークションは行われたことですし。と、さらりと全員が言いにくことも話題に組み込むアランに、カラムは「アラン」と注意に潜めた分声を尖らせた。
騎士同士と何度か酒を交わした相手であるステイルとはいえ、昨日のことは決して軽いものではない。
それはアランもわかっている。だが、自分の発言に嘘も冗談もない。今はプライドがいつもの調子を取り戻した安堵が遥かに大きかった。
アランの言葉にステイルも一瞬肩を硬ばらせたが、息を吐くとともに静かに緩んだ。ライアーに引かれて落ち込んではいたプライドだが、今夜は一人で寝ることもなくいつもの調子で母親との同室に戻った。
ヴァルまで着替えの部屋に付いていこうとした時はあのまま外に放り飛ばしてやろうかとも考えたステイルだが、あの時もプライドが声を上げて怒っている姿はやはり普段の彼女そのものだったと思う。早朝にこの地を去るとはいえ、明日もまたミスミ王国で人身売買と関わると思えば気は抜けない。
しかし、彼女が本来の明るさを取り戻してくれていることは何よりも救いだった。
もしプライドが昨日のような調子のままであれば、たとえどういわれても自分は彼女の作戦参加に断固反対しただろうと思う。
そんなステイルの憂いをくみ取るカラムは「油断はするな」と、全員に聞こえる程度の声でアランを叱責した。
「闇オークションにも少なからずラジヤ帝国が関わっている可能性は大きい。私達はプライド様から決して目を離さぬよう気を引き締めておくべきだ」
わかってるって。と、カラムからの注意にアランも手を振って返す。
アーサーとエリックも、カラムの言葉にはわかっていたこととはいえ口の中を飲み込んだ。ステイルも眉に力が入ってしまう中、改めてティペットという存在を思い返す。
今日一日騎士団による温度感知の騎士も含めた捜索が行われたにも関わらず、ティペットの情報は全く手に入らなかった。既にこの地を離れているのか、もしくは既に自分達と同じ目的地に移動をしているのかもしれない。
闇オークションと、その言葉の凶悪性だけではなく、その参加者にどのような人物が含まれているか、最悪の想像をしなかった者はこの場にいない。むしろ、あの皇太子が嬉々として主催をしていてもおかしくない催しだ。
フリージア王国に和平を持ち込んで第一王女を襲撃するような男ならば充分にやりえることだと誰もが考える。
「ですが、今回はプライド様もステイル様も比較的安全な立場で参加されるので、我々騎士団も堂々と護衛できますし、そういう意味での不安はありません」
「……………本当に、殲滅戦やプラデストではエリック副隊長達騎士にはご無理をおかけしました」
あっいえ!!と、突然第一王子に謝罪をされたエリックは目を丸くしながら慌てて否定する。別に嫌味や皮肉を言ったつもりではない、そのままの意味だ。
しかし、常にジルベールやアーサーと嫌味や皮肉をまじえることが多いステイルにはエリックの純粋な言葉がサクリと頭に刺さるかのようだった。今回はラジヤやティペットが関わっているからと安全対策をいくつも重ねているつもりのステイルだが、安全を考慮すればするほどに当時の自分達はなかなかの無茶もしてきたものだとも思ってしまう。そして、……この先もそういう無茶が絶対に無いとは言い切れない。
そう思えば、アーサー以外の騎士達に対しても申し訳なさが少なからず覚えてしまう。エリックも、カラムも、アランも、そしてハリソンも今やステイルにとっては身近な存在の一人だ。
直接的な謝罪の代わりに「今後もどうかよろしくお願いします」と近衛騎士全体に向けてステイルが礼をすれば、彼らもまたすぐに応えた。
「今日も、皆さんには本当に助けられたと僕も姉君も思っています。貧困街でも被害は最小限に済みましたし、奴隷被害者も救われました」
「あっ、そういやもう全員出国したらしいぞ。騎士団長が今夜にもすぐって決めて」
「英断だな」
感謝を言葉にするステイルに、アーサーもふとさっき聞いたことを思い出す。
ステイルなら知っていてもおかしくないとは思ったが、決めたのが自分達が休息を命じられる直前だった為試しに言ってみた。そして、ステイルもそれはまだ初耳だ。しかし、奴隷被害者の安全を考えればそれが一番だと自分でも思う。揉め事が起きる前に避難させれば、これ以上奴隷被害に巻き込まれることもない。深夜に出発というのはラジヤ帝国内と思えば少し心配にもなったが、騎士の護衛と騎士団長による指示ならば間違いないと考える。
今日一日あったこと一つ一つで騎士を労うだけでも確実に朝になると予期するステイルは、今はひとくくりに感謝の言葉だけでまとめた。
「騎士団長だけではなく、レオン王子やセドリック王弟にも苦労を掛けると思う。が、……恐らく明日の検挙は決して彼らにも無関係というものではないと俺は思っている」
「どういうことだ?」
ジルベールも同意見だったと、ジルベールを屋敷へ瞬間移動する前のやり取りを思い返しながら告げるステイルに、アーサーは首を傾ける。
フリージア王国のことで移住したセドリックだけでなく同盟国であるアネモネの王子であるレオンも関わってくれることはアーサーも心強く思いつつ、納得もしている。しかし、ステイルの言う「無関係ではない」にはそれ以上の含みがあるように感じてならない。
レオンについては貧困街の弟達のことかとも思ったが、明日の検挙に関してとなるとアーサーにはあまりしっくりこない。しかし、漆黒に鈍く光らせたステイルの眼差しは冗談よりもはるかに確信めいているとアーサーは思う。
「ミスミの王族と関係があるとかか?」
「それはないと俺は思う。まだ断定はできないが、今回フリージアを招待したのはミスミ王国の方だ。我が国の騎士団が優秀なのは国外でも有名な話だ」
今回は貧困街を通して判明したが、特殊能力者も多く所属するフリージアの騎士団を護衛に訪れるだろうフリージアの王族をわざわざ闇オークションの主催者が招くとは思えない。それもまた、ジルベールと意見をすり合わせた中で同じ意見だった。
あるとすればミスミ王国の王族ではなく、招待者本人以外の身近な人物や側近の可能性だ。
首を横に振るステイルに、カラムも静かに頷いた。他国では「化け物」と揶揄をされる騎士団をわざわざ招く理由が見つからない。あり得るとすれば、その騎士団や王族までもオークションの品にしようと考えるくらいの大仰な目論見くらいだ。
しかし、長年中立を守り続け今もフリージア王国との親交を深めようとするミスミ王国のすることには思えない。むしろ闇オークションの開催など知られたらフリージア王国どころではない、オークション参加国全てへの中立を壊す行為になる。敵に回す国はフリージア一つにとどまらない。
「だからこそ、明日は本当に闇オークションでティペット以上の仇敵が糸を引いている可能性も低くはない」
低めた声で、しかし敢えての深刻さを伝える断然に近い言い方は、ステイルにとって今日一番繰り返してでも言いたかった警告だった。
表情こそほとんど変えずに告げたステイルだが、その声の低さとあふれ出した覇気に騎士達もぴくりと表情を引き締めた。言葉を伏せようと、ティペット以上の、そしてラジヤが関わっている可能性で自分達が誰よりも警戒する人間など一人だけだ。
椅子に掛けたままの騎士達の顔色が変わったことで、ステイルも音に出さず呼吸を整えた。自分でも、ただあの悍ましい顔を思い出すだけで総毛立ち殺意まで沸いてくる。
しかし、願望であろうともここで「まさか」「ないとは思うが」など言えない。ティペットという存在が、いくらプライドやノアに事情を聞かされようとも、自分達の中で確かなのは必ず傍に付けていた皇太子の存在だ。
「どうか、明日はいつも以上に警戒をお願いします。発見次第確保と姉君の安全確保、そして奴に関しては被害を出す前に生死は問いません。どのような理由であろうとも僕が全責任を取ります」
フリージア王国ではとっくに国家を揺るがした指名手配犯として決まっている。たとえ騎士でなくとも、あの二人を殺したとして罪に問われる者はいない。それは騎士達の誰もが知っている。
それでも念を押すように、第一王子からの言葉は重く彼らの肩に乗る。それだけ、相手が恐ろしくそして何よりプライドに触れさせてはいけない相手なのだと改めて思い知らされた。特殊能力がプライドに効くか、彼女が今回の標的か、危害を加えてくるつもりがあるかなど関係ない。
漆黒の瞳を焦がすように冷たい熱を放つステイルに、エリック達はほとんど同時に席を立った。
先輩達の動きに反応し、瞬時に汲み取ったアーサーもまた立ち上がる。そして合わせるように近衛騎士四人は揃いステイルへと片膝をつき、頭を下げた。
明日、皇太子が現れるかもわからない。関わっている確証もない。しかし、そう思って警護しろ守り切れという第一王子の釘差しを、全員は正しく受け取った。
今日彼が自分達の前に現れたのは労いよりも、そちらが大きいのだと。
アーサーも含めた近衛騎士達の答えに、ステイルもそこで小さく笑みを零した。
彼らが決して楽観視していないとはわかってはいた。自分と同じ結論に至った騎士も、警戒を常に張り巡らせている騎士もいるとわかっている。それでもどうしても、誇り高い彼らに自分からもう一度余計でもこの警告を伝えたかった。
ありがとうございます、と。人肌の熱を込めたステイルの声に、騎士達もそこでゆっくりと顔を上げる。明日自分達が守るべきなのが、裏稼業や人身売買からだけではないのだと改めて胸に刻み込み、無礼にならない動作で立ち上がった。
今度は椅子に掛けようとしないアラン達に、ステイルも礼儀をもってベッドから腰を上げる。
「それでは、今夜はこれで。お引止めして申し訳ありませんでした。どうぞ明日に備えてゆっくり休まれてください」
頼むぞ、と。最後に隣に立つアーサーの肩を軽く拳で叩き、ステイルは心からの笑みを彼らに向ける。
握手を求めるように差し伸べられた手に、騎士達も頷き汲み取った。アーサーもステイルの肩に手を置けば、次の瞬間には彼らの視界は切り替わる。
元の訪れていたカラムの部屋に戻ったところで、酒瓶を一口も飲まず置いたままにしていたことにそこでアランは気付いたが、今から飲もうとは言わなかった。
全員が長引かせることなく自室へと戻る。
明日の全てに、備える為に。
「バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~」 略して「バドいち」連載中です。
本日更新致しました!!!
第二章まで完結しました。
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