そして決する。
「送るか?」
「まだ良い」
カラムからの問い掛けに、意味を理解した上で短く返したハリソンは再び高速の足で姿を消した。今ならばアランが高度を下げた分、再び攻撃に飛びかかることも可能だと判断し自力を選ぶ。
ハリソンが結果として囮になっていた間に〝怪力〟の特殊能力でカラムに投げ飛ばしてもらったアランは、このまま右翼の動きも奪えればと過ぎる。
しかし自分が今捕まっているのもレオナルドの翼でも羽根の先に近く、根元にすら届かない。プライドの言う通り剣すら貫けない丈夫さなら、掴むのも羽根先でいけるだろとは思ったが、それでも自分の体重まで支えられていることには驚いた。今も動きこそ鈍らせることはできているが、空中のままだ。
そろそろ来るだろう二撃目のハリソンが素直に右の翼を狙ってくれれば良いのになと思い、そこで諦めた。ハリソンがそんな奴だったら連携で苦労しないと、結果が出る前から口が少し苦く笑う。
それどころかハリソンが戻る前に、レオナルドの判断が速かった。
いつまでも空中で藻掻くだけで済まさない。一度右羽翼だけで体勢を立て直せたところですぐに次の一手を打った。アランのいる左側を下に、急降下を選ぶ。ハリソンが廃墟の屋根を蹴ると同時のことに、奇しくも高速の二撃目までもを回避した。
急激な落下と浮遊感にアランも「おぉ!?」と声が漏れる。単純な落下ではない速度を乗せた感覚に目下を見れば、地面ではなく廃墟の屋根だ。このまま首へ絞め技をと考えたアランだが、その前に叩きつけられる方が先だと肌で察する。せっかくなら地面にしてくれれば都合が良かったが、このままでは自分が翼ごと叩きつけられることを理解した。ちらりと見えたレオナルドの口がニヤリと笑んでいるのを見れば確信だ。ここは仕方なく一度羽根から離脱することを選ぶ。
「ぃよっと!!」
動きを奪う為に掴まっていた体勢から、翼の上部へ掴み直す。
落下による重力に押されながらも構わずくるりと逆上がる。両足を頭上に回し上げ出した。ただの離脱ではなく、体勢まで大きく変えだしたことにレオナルドも目を見開き向ければ、直後にはアランの回し蹴りが額に直撃した。
ぐあっ、とこれにはレオナルドも思わず目を潰す。落下する方向とは逆向きと無理な体勢での攻撃は、アランにしては威力が酷く落ちてしまったがそれでも激痛を与えるには充分だった。レオナルドが思わず額を両手で押さえる中、下降を続けていた左翼が屋根に衝突する。ガリリリッと剣で削ったような音を立て、廃墟の屋根を貫通し鋭い跡が残った。しかし本命のアランは既に離脱した後だ。
レオナルドに蹴りを与えたまま方向を変えて落下したアランは、幸いにも地面の方に着地した。落下場所までは計算していなかった為、運が良かったと思う。屋根を壊すだけで弧を描き、上空へ再び急上昇するレオナルドを目で追う。
「すげぇ!本当に屋根の方が壊れた」
「集中しろアラン」
いっそ拍手を送りたくなるアランに、カラムが叱咤を飛ばす。
しかしアランからすれば屋根を壊せるのを見ただけで目が輝いてしまう。この三人だからのせいもあり、緊張感がまだいまいち沸かない。プライドの事前情報がなければ、ここでもう決着はついたと勘違いした。
あくまで飛翔の為の翼であって、それで攻撃までできる翼の特殊能力者なんて聞いたこともなかった。しかしあの強度であれば、命令がなくとも彼の翼を傷つけるのは難しいだろうと思う。
急上昇しているレオナルドに再び飛びかかろうとするハリソンが目に入ったと思えば、今度は剣を構えていたことに気付く。「うわぁ」と思わずアランの顔がヒクついてしまう間にも、今度は敢えてハリソンが剣を翼に叩きつけていた。
ガキキンッ!と予想通りの音が響く中、大事な攻撃の機会を一回分捨ててでも、彼の翼の丈夫さを確かめたかったのだろうとアランは察する。
翼は折れるどころか、大きくレオナルドが意思を持ち翼をはためかせた瞬間、羽が一度に5本、矢のような鋭さで放たれた。ハリソンだけでなく、アランとカラムの方まで及んだ羽を二人も瞬時に避けたが、羽根の先が地面に刺さっていたことに今度も避けなければならないと理解する。まるで金属ナイフのような硬度だ。
「ハリソン!!翼はやめろと言われただろう!!」
これにはカラムも怒声を上げる。プライドから託された依頼なのに、何故そこを敢えて狙うのか。ハリソンの性格上の問題と理解しつつ怒らずにはいられない。それなら首の絞め技をと思うが、叫べばレオナルドの耳にも届き対抗策を打たれてしまう。
しかし、地上から聞こえたカラムの叱りにも、ハリソンは聞こえないだろうとわかった上で「どうせ通らない」と呟きで返した。レオナルドの翼に弾き返され背中から落下をするが、むしろ剣でも傷つかないのを確認できたなら次からは遠慮無く剣も使えると判断する。抜いた剣をそのままにレオナルドから追撃も、今度は迎撃も躊躇わない。翼以外は殺さなければ攻撃しても問題ない。
ハリソンの頭を掴み地面に叩きつけてやろうと考えたレオナルドだが、伸びかけたところで急遽引っ込めた。
背中から落下しているにもかかわらず、構わないと言わんばかりに自分へ真っ直ぐと狙いを定めている紫の眼光に、これは反撃があると殺気でわかる。ハリソンが持つ剣が握られているだけではなくしっかりと構えられているのも視界に入れば、自分の腕が切り落とされるのが脳裏に過ぎった。
腕を止め、体勢を傾け翼での追撃に切り替える。回転を加え、まるで巨大な銃弾のように突進した。これならば切り落とされる心配もない。
しかし翼を向けたところで、むしろハリソンの口元に笑みが浮かんだ。
もう、剣では傷つかないことを確かめた。カラムから叱咤された直後にも関わらず、再び剣を翼へ向けて振るう。ガキィンッ!と期待通りの手応えと共に翼の方が今度は剣に弾かれる。本来であれば人間一人二人は一度で肉塊にできる筈の威力に関わらず、回転のはじめとはいえただそれだけで軌道がハリソンの腹から逸らされた。
翼を中心にバランスが崩れ、軸が傾いたところで回転を一時的に中断し緩めれば、その隙を逃されない。
ハリソンが高速の動きで剣を腰にしまい手を伸ばし、レオナルドの翼に掴まった。自分から来てくれた浮遊物を使わない手はない。
落下中のほんの一瞬で気付けば再び翼を掴まれ、レオナルドは奥歯が噛み締めた。
振り落とそうと、回転を加えながら上昇と壁に突進を狙うが今度は左翼だけでの動きのせいで急上昇はできない。一度は体勢を立て直さないと難しい。ただでさえ落下中のハリソンを狙って下降していたところで動きが鈍るレオナルドは、再びカラムに投げ飛ばされたアランに気付いても避けられなかった。
左翼まで再びアランの腕で動きを奪われ、両翼の動きが鈍り自分の意思とは関係なくゆっくりとだが降下していく。
それでも根元から翼を絞られたわけではない、意思を翼に集中し羽ばたくがそれは同時に振り払うことも反撃も不可能になった瞬間だった。飛行中ならばともかく、ただ浮遊しているだけの相手にじっとしている二人でもない。
飛び移った先こそまた翼の羽根先に近いが、アランはそこから腕の力だけで掴み、付け根へとにじり寄る。羽根に違和感を覚えたレオナルドが腕を伸ばし払おうとしたが、その隙にハリソンも掴む手を握り直す。羽根の上部を掴み、アランと同じように腕の力でぶら下がるが身体の軸から両足を大きく振り子にする。せっかく掴んだ羽根を合図もなく手放し、振るった勢いのままレオナルドの負傷した肋骨を手加減もなく靴の先で蹴り上げた。
「ッグアアッッ?!」
ただでさえ、痛めている。巻いた包帯を剥き出しにするレオナルドの弱点は彼の怪我の具合を知っているハリソンには良い的だった。
今までの比ではない激痛に、息もつまり今度は翼も数秒動きを止めた。両手を離したハリソンが先に落下したが、それを追う余裕はない。自由になった右翼を慌てて激しく羽ばたかせ落下だけは防げたが、それでも激痛に堪えかねアランを振り落とすどころではない。呼吸を整え、降下を風圧で感じながらも今は意識を保つだけでも精一杯だった。ゼェハァと息を切らせれば、途中で血を吐いた。折れた骨が内臓を傷つけたと嫌でも分かったが、その程度で降伏をする彼でもない。もう一度上空に上がり急降下で叩き付けもう片方の翼からも騎士を排除をしてからと
─ ぱしり、と。
「警告はしたぞ」
右足を、掴まれた。
また傍で聞こえた一言と共に違和感を覚えたレオナルドは目を剥く。気付けば、屋根の位置まで降下していた自分の足を先回りしたカラムに掴まれていた。
翼に続いて今度は足がと思ったが、しかし動力源を押さえられるよりはまだ良い。そう思おうとすれば、急に身体が軽くなる。一瞬視界に移ったものを目で追えば、アランまで翼から手放し飛び降りていた。両翼が自由になるが、同時にどういうつもりだと思う、瞬間に。
自分の翼とは関係ない、ぐわりとした重力に背中から襲われたと思ったのが最後だった。背中から落ちる感覚が信じられず息を飲み直後には
バッキャァアアッッ!!!バキャアアアッ!!バキャンッッ!
屋根に、叩きつけられた。
廃墟の屋根の破片が飛び散る中、羽根に傷はなくとも全身を後方から打ち付けられれば意識も吹き飛びかける。
レオナルドの足を掴んだまま怪力の特殊能力で自分の足下である屋根へと叩きつけたカラムは、まだ手を離さない。右に振り下ろせば今度は左にと、掴んだ足を振り下ろせば子どもの玩具のように今度は真正面から屋根に全身を叩きつけた。二撃目は手加減したが、再び三撃目にひっくり返し再び背中から叩きつける。
破片だけでなく粉塵も舞い、翼の映えた大男を三度も叩きつけられ、老朽化した屋根はとうとう限界が尽き果てた。
ガラガラと音を立て底が抜け始めた足場に、カラムはレオナルドの右足を引っ張り込み肩へと担ぐ。もう彼に意識がないことは三撃目の反応で確認できた。
屋根がバラバラと一部だけでなく全体が崩落を始める中、レオナルドを担いだままカラムはアランと同じ方向へ飛び降りた。着地と共に駆け足で安全圏まで離れれば、アランとハリソンもちょうどそこで待っていた。
「結構容赦なくやったな~」
「加減はした。意識を奪わなければ終わらなかった」
そんなことよりも手枷を、と。
ぐったりとしたレオナルド垂れた両手の方を向けるカラムに、アランも応じて手枷を取った。特殊能力者用の枷を掛けた途端、カラムの頭にまでかかっていた大翼がゆっくりと萎んでいった。背中へ収納されていくように縮み最後は跡形もなくなる。
完全な無力化を確認できたレオナルドを肩から両腕で抱きかかえる形に持ち変える。仰向けにされても薄く白目まで剥いてぐったりとしているレオナルドに、アランも少し同情し目をきちんと閉じさせた。最初の勝利を確信した不敵な笑みが嘘のような情けない顔だった。
こうなるとわかっていたからカラムも、最初に恥をかきたくなければと警告したのだろうと思う。
空中戦こそ対処法の作戦判断と発射台に専念したカラムだが、彼にレオナルドが掴まった時点でもう結果は決まっていた。
「翼は良いけど、血ぃ吐いてたからもう一回診た方が良いかもな。ハリソン、お前わざとだろアレ」
「とどめを刺したのはカラム・ボルドーだ」
「私は加減をしたと言っている」
だから叩き付ける先も地面ではなく、衝撃を比較吸ってくれる屋根を選び、奴隷収容所での負傷は最小限で済むように叩きつける箇所も選んだ。しかし、ハリソンが折れている骨を更に粉々にしたことを考えるとどちらにせよ自分の最初の想定よりも重傷にしてしまっただろうとカラムも思う。二回目までは意識を保ちこちらを睨み浸けていたレオナルドの眼差しを思い出すと、三撃は必要だった。
今までの振る舞いから考えても矜恃の高いだろう人間が、自分の領域で部下達の前で降参などできるわけがない。
きっとこの後も話し合いに苦労するだろうと思いつつ、カラムは抱えたレオナルドと共にプライド達の元まで戻った。気付けば飛行する彼を追って距離も離れていた。
丸い目で自分達を迎えてくれるプライドに、少しやり過ぎただろうかと省みる。しかし強張ったその笑みから「お疲れ様です……」とか細くも労いの言葉をかけられれば、ふっと眉が下がり自然と自分まで笑むことができた。
被害も、時間も最小限で済んだ。まずは騎士として、胸を張り彼女達に報告をしようと決める。無言のまま頭だけを下げるハリソンと、満面の笑みで手を振るアランと共に。
「お待たせ致しました」
意識を奪われ負傷し手枷をかけられた首領と、無傷の騎士。
第四作目攻略対象者とフリージア王国騎士三名との戦いは、幕を閉じてみればあまりにもあっけなく、そして圧倒的だった。
本日二話更新分、次の更新は木曜日になります。
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「バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~」 略して「バドいち」連載中です。
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