Ⅲ264.来襲侍女は眉間に皺が寄る。
「ハハッなんだぁこりゃあ!?すげぇな!一体どのバケモンサマの特殊能力だ?」
ほんっっっっとうにごめんなさいヴァル。
ハリソン副隊長が待機してくれた部屋に瞬間移動してから、心の中でまた私はヴァルに謝る。もう今日一日だけで、今回の遠征期間分の仕事をさせている気がする。いや、むしろこれは彼にとって仕事じゃないからただただサービス残業だ。本当に申し訳ない。
「うるせぇ」と不機嫌そうに舌を打つヴァルの声を続けて聞きながら一人勝手に首が垂れる。元は私からお願いしたことだけれど、ここまで増えるとは思わなかった。本当に、一緒に同行をお願いして良かったと思うと同時に今日に限ってお願いするんじゃなかったと思う。
一体どう労えば返せるだろう。大分私も甘えてしまっている自覚があるから余計に良心が痛む。
中和剤が効いてきたらしいレオナルドは開口一番からもう見事にレオナルドだった。
彼のゲームの設定は思い出した筈なのに、初対面からが弱り切っていた状態だからうっかり私まで虚を突かれた。そうだこういう子だったと今はひたすら頭が痛い。むしろアラン隊長達の方が冷静だったなぁと思う。まぁ、貧困街の元首領だと思えば、想定できたことだった。
レオナルド。ゲーム開始時には既にサーカス団の一員だった彼は、そもそも貧困街の元首領だった。ゲームでは「貧困街」と呼ばず「浮浪者や行き場のねぇ奴らの面倒をみてた」くらいの仄めかし方だった気がするけれど。
ゲームでもこういう性格で、アレスも少し手を焼かされていた。俺様キャラ……とジャンルで分ければそうなるのだろうか。セドリックやレイと違って王道攻略対象者ではないし、俺様キャラではなくカリスマ系ポジションで、どっちかというとゲームではもうちょっと落ち着きのある兄貴肌の豪快な人のイメージだった。
こう言ったら悪いけれど、俺様キャラ二人と比べてもなかなかアクが強い。良い意味でも悪い意味でもなかなか前向きの自信家で、自分の思うとおりに全てを動かしたがる。ただ俺様キャラと違うのが、それなりに話は通じるし聞く耳は持つところだろうか。
ゴリ押しはするけど、対応すればまだ大人しい。男らしい豪胆さもあって、確か第四作目の中では一番人気が高いキャラだった気がする。まぁ一番の理由は当時の宣伝で彼が王道攻略対象者のアレスを押しのけてバンバン告知で盛り上げられてたからもあるだろうけれど。私だって最初に彼を攻略した。あーー懐かしい。
ハァ、とそこでまた重い溜息が出る。駄目だ、ちょっと逃避した。一番頭を抱えたいのは丸投げされたヴァルなのに。
「アンタらフリージアの騎士だったな?みんなこういう特殊能力持ってんのか?いいねぇ、ウチにも欲しい」
「バケモン共をテメェが制御できるかしれねぇがな」
言うねぇ、と。相槌を打ってくれたヴァルにまたレオナルドがニヤリと歯を見せて笑う。本当お二人とも相性が良い。こういうのを同じ穴の狢と言うのだろうか。
レオナルドがヴァルを指名したところで、これはもう希望を叶えないと一生言うと思った。彼はそういう人だ。全く譲らない。私が肩を貸せれば良かったのだけれど、奴隷被害の女性から離れるわけにもいかなかった。自分一人では震えて立てない様子だったし、男性に怯えているのも仕方ないことだった。それに、……多分私じゃあのレオナルドを支えきることはできずに潰れてた気がする。
今は弱っているけれど、身体付きは騎士にもなれそうながっちりした筋肉に高身長だ。彼が騎士の肩を借りたくない理由も明確には語られなかったけれど、彼の過去を思えば大体察しは付く。ついでにもしかしたらエルドに何か吹き込まれた可能性もある。彼も彼でフリージアとは因縁があるから。
騎士でもない上に、同族の目をしたヴァルに肩を借りたいと思えば、彼は多分私達がいくら何を言っても駄々をこねただろう。最後方に立てば他の奴隷被害者達の注目を奪い、前方に立てばヴァルに大注目。多分、今こうして瞬間移動してもずっとヴァルをご指名して聞かなかった。本当に、そういう人だ。俺様というよりも自己中心……ではないか。妥協をしない、という言葉が似合うかもしれない。
「ハリソン、何も問題はなかったか」
「無い」
カラム隊長からの確認に、ハリソン副隊長は憮然とした表情だった。ちょっといつもより機嫌が悪い気がするけれど、やっぱり一緒に来たかったのだろうか。ちらりちらりと視線の先は返り血を浴びたアラン隊長達だ。
どうやらハリソン副隊長の待機中には地下の騒動はどこにも漏れずに済んだらしい。逆にカラム隊長の方がハリソン副隊長に地下での経緯と奴隷被害者が一人から三名に増えたことを報告してくれる。
動かぬ証拠を三名も得た今、あとはこのまま堂々と正面突破でヴェスト叔父様と騎士団長にご報告するだけだ。今この収容所の所長はヴェスト叔父様が引きつけてくれている筈だし、一緒にいるのだからもう言い逃れはできない。
ハリソン副隊長が「奴隷狩りの首は」と聞いたけれど、もう全員気を失っているか縛り上げているか、返り討ちにしたとカラム隊長が断る。まぁ確かに違法の奴隷狩りが挙っていたことも証拠にはなるけれど、もうこの三人の承認で充分だ。それに、場所ももうステイルが把握してくれている。一度踏み入れた以上、必要ならいつでも地下室に行ける。
「なぁ、それで俺達はどうなんだ?アンタらに付いていたら結局どこに飛ばされる?」
「保護という形になります。その間、監禁されるまでの経緯も聞かせて頂きます。もちろん治療も」
「場所は?ここか?それともフリージアか?フリージアならどこまで連れてかれる?」
ヴァルの肩に腕を掛けて体重を預けたまま、レオナルドがエリック副隊長からの返答を最後まで聞かずに言葉を詰める。
まだ手足の力も大して入っていないのだから選択の余地はないのだろうけれど、……こちらの返答によってはこの人は途中で逃げるのだろう。騎士に囲まれた場所でも、身体さえ自由が効くようになれば間違い無く彼は自分の好きにする。
エリック副隊長が基本的にはフリージア王国に連れ帰ることと、道中や城下の保護所で事情を詳しく聞かせてもらうことが多いと説明してくれる。もちろん本人の希望によってはこの街で事情を聞かせてもらって終わる場合もある。保護したのが国外だと、フリージアの民ではあっても別の場所に移住したままの場合もある。けれど、少なくとも他の奴隷被害者のお二人は帰国が希望だろう。レオナルドは、……この状況だとまだ読めない。
エリック副隊長の説明を今度はじっくり聞いたレオナルドは、一度そこで唇を結んだ。眉を寄せていることからも少し考えているのだろう。カラム隊長が「詳しくはここを出てからです」とそこで質疑応答を一度切る。
「証拠として被害者の一人には同行をお願いしたいと考えています。全員我が国の民ではあると判断しましたが、それを証明する為にもできれば特殊能力を持つ……」
「俺だな?あ~~どうしようっかな~?まぁでも、そこの女にゃ荷が重いか」
カラム隊長が言葉を切った途端、すぐにレオナルドが堂々と手首を返し自分を指差した。こういう時に察しは良いのは助かる。わざと焦らすように結論を伸ばすけれど、多分この言い方だと了承だろうかと先に思う。
レオナルドが数少ない自由な首をぐるりと回してこちらに目を向ける。視線を受けただけで「ヒッ……」と短く悲鳴を上げた女性は花の色を変える特殊能力を持ってはいるけれど、どう考えても同行は無理だろう。私に付き添ってくれている騎士三名にすらビクビク怯えている状態だ。
重体なのはレオナルドも変わりないけれど、正直彼が一緒に付いてきてくれる方が遙かに話もまとまりやすい。彼が特殊能力者なのはここの街では有名だし、少なくとも彼なら看守や所長相手に怯える心配もない。
彼もまた女性を加害者集団に放り込むのは本意ではない筈だ。むしろ、彼にとっては同行も臨むところな気がする。
「まぁ~~良い。同郷に免じて付き合ってやるさ。あのクソ所長の青いツラも見てぇしな」
ハハッと偉そうこの上なく笑う彼は、まだヴァルに支えられないと自分で歩くことすらままならない状態なのは変わらない。それでもここまでふんぞり返れるのはある意味恐ろしい。
彼にとっては痛めつけてきた相手なのだからそりゃあご自分でも報復したいだろう。一先ずレオナルドが同意してくれたことに安堵しておこう。
ただ、「感謝します」と一言返すカラム隊長にまで申し訳なくなってくる。事実貧困街の首領とはいえ、騎士にとってはこの場で保護対象者だから礼儀を示してくれるのは騎士達らしいけれど、その分レオナルドの偉そうさが際立つ。むしろ騎士達の活躍のお陰で助かったのに!!!
レオナルドの了承を得たことで、ここから騎士達と合流次第残りの奴隷被害者二人は預けることに決める。
女性の方は男性である騎士に預けられると聞いてまた震え上がっていたけれど、蒼白に反して頷きはしてくれた。怖さはあっても、このまま所長や看守に会う方が嫌なのだろう。私と一緒に行動しても怖い目に遭う回数が増えるだけだ。……アーサー達と同行すると言ったら、女性から信じられないものを見る目で凝視された。
「代わりといっちゃなんだが、俺はフリージアにまだ帰る気はねぇ。ここを出たらパパッと話を済ませて離してくれ」
「貴方がどういう経緯で捕らえられていたかにもよります。調査もしますが、もし犯罪奴隷でした場合はフリージアでも裁判を受けてもらいます」
どこまでもぐいぐい自分の都合を続けるレオナルドに、とうとうステイルも言葉を返す。ちょっと機嫌が悪いのか、ゴーグル越しの目が鋭い。
レオナルドが我が国の民である以上奴隷にされていることは違法だけど、彼が犯罪行為で捕まったのならばそれまで不問にすることはできない。我が国に一度帰ってもらってきちんと我が国の法で罰を受けてもらわないといけない。
ステイルの言葉に「ンだよまた捕まんのかよ」と嫌そうに顔を顰めたレオナルドを見ると、アラン隊長達も互いに目配せし始めた。多分、レオナルドが犯罪奴隷であることを鑑みているのだろう。
騎士を嫌がることもそうだし、貧困街の首領だからその可能性の方が高いと思うのは当然だ。
「何か身に覚えでも?」とステイルからの鋭い質問のたたみかけ返しに、わかりやすく嫌そうな顔で逸らす。ヴァルも少し興味がありそうにその横顔に目を向ける中、そのままレオナルドが……手をグーパーと繰り返しているのが見えた。この人、恐らく早速逃亡を考えている。本当に身体に自由が効いた瞬間に逃げそうだ。本調子の彼を捕まえるのは騎士でも少し苦労するだろう。
小さく咳払いし、今度は私から彼の中での懸念を先に解消させてもらう。誤解で逃亡されて事件にされては困る。オスカーの件も残っている中、こっちは明日に国を出ないといけない。
「……あくまで裁くのは貴方が奴隷になるまでの〝経緯〟が犯罪行為だった場合です。もちろん、解放された後に犯罪行為で捕らえられたらその時は奴隷になる以外の刑罰で罰せられるでしょうが」
「!おぉ、なんだよそういうことか」
パッと、軽い調子で顔を上げたレオナルドがニッカリ笑う。濃緑色の視線がばっちり合った。
またぐらりとヴァルに体重を自分から預けて力を抜いた様子のレオナルドが、こちらに向けて首を伸ばした。「アンタもわかってんな」と言われて、ちょっと不名誉な誤解を受けている気がして私からも身体を彼から距離を取る。片方の肩だけを引っ込めながら睨んで返してもやっぱり彼の笑顔は消えない。私がわかっているのはあくまで前世のゲームで知った彼だけだ。
なら平気と言わんばかりに両手をパーに開いて見せる彼に、ステイルも無言で睨むように目を向けていた。
ヴァルと肩を組んでいる状態だから余計に前科者感は際立っているのかもしれない。いや、実際逮捕されていないだけで犯罪者ではあることは間違いないだろう。
詳しい話は後だ、とカラム隊長がハリソン副隊長を先頭にしてとうとう部屋を出るように号令を出す。被害者三名を連れてだからゆっくりの足取りにはなるけれど、決して全員離れないようにと注意をするカラム隊長の説明を最後まで聞かず、扉を開いたハリソン副隊長がそのまま一瞬で先へと消えた。……悲鳴は聞こえないから、まだこの先には誰もいないらしい。
「アンタも騎士じゃねぇな?助けられた礼はちゃんと返してやるぜ。余所者だろ?いつまでこの街にいる?」
「申し訳ありませんがジャンヌは僕の侍女です。ここから先は見つかるまでお静かに願います」
ごめんなさいステイル。この人それじゃあ絶対引かない。
絡んできたレオナルドから私を庇ってくれたステイルの言葉を聞きながら、早々に私は肩の幅を狭める。もうヴァルやステイルの特殊能力を使わず真正面から出ていくだけだけれど、せめて見つかるまでは無言で身を潜めて動いてほしい。
それなのに、ステイルの言葉も柳に風と言わんばかりにレオナルドはこちらに首を伸ばす。ヴァルもうんざりと息を吐いて背中を少し丸めた。本音は今すぐにでもレオナルドをほっぽり投げたいのだろうとその息の音で察してしまう。
「度胸のある女も胸のでかい女も好きだぜ。今夜身体は空いてるか?イイもん見せてやる」
「結構です。女性全員に同じ口説き文句を利用する人とはお付き合いできませんそれよりもお静かに」
ん?と、途端にレオナルドの眉が上がる。鳩が豆鉄砲を受けたような顔にやはり図星と思う。ゲームでもティペット以外の女性にも言っていたお言葉だ。
場所が場所なら私だってじっくり話をしたいけれど、ここで彼の口に火を付けたら本当に面倒が増える。今はまだ脱出中という緊張感がない。
レオナルドも初対面の相手に図星をつかれるとは思わなかったのか、今度はジロジロと目を細めて私を凝視してきた。顔を中心に、上から下まで見られ居心地が悪い。
アラン隊長が開いたまま押さえてくれた扉をさっさと潜りたくて足を速める。レオナルドを後回しにされたのが、やっぱり彼の口の多さを警戒しての順番だろうと思う。さっさと扉を抜けるべく、女性被害者に腕を掴まれたまま足に力を込めようとしたその時、ぐいっと急に全身の軸が傾いた。
「?アーサー??」
突然のことに自分でも目が丸くなったのを感じながら、傾いた原因へと振り向く。アーサーだ。
女性がしがみつく腕とは反対に立ったアーサーが、手を伸ばして肩を自分の方に引き寄せてきた。あまりの不意打ちと勢いに、頬がアーサーの肩におもいっきりくっつく。めり込むほどは痛くないし、手も優しいけれどいきなりのことにびっくりする。
私にしがみついていた女性も転びそうになったのか声を漏らす中、アーサーは私の方も女性の方も見ていなかった。蒼の眼光を真っ直ぐと差し向ける先はレオナルドだ。珍しく牙を見せそうなくらい目を鋭くして睨むアーサーに、もしかしてさっきのレオナルドの失言を怒って警戒してくれているのかなと思う。
レオナルドもアーサーの視線には当然気付いて、眉が上がってから今度はヘラリと笑って返した。何も言わずに両手をまた手首から先だけパーにして上げて見せる仕草が、言葉以上に物語っている。途端に無言のままに、今度は私達から顔ごと視線を離して前を向いた。アーサーの威嚇した顔に、今の状態では喧嘩して勝てないと悟ったのだろう。もともと私一人に対しての軽口だ。
アーサーの怒った反応が面白かったのか、それともすんなり引いたレオナルドが愉快だったのか、今度はヴァルの方がニヤニヤとした笑みをこちらに向けてきた。若干ニヤ笑いの範囲にアーサーだけでなく私も入っている気がする。
扉を潜るべく、アーサーに腕を回されたまま足を進ませる。アーサー?と、もう一度今度は抑えた声で尋ねれば同じくらい抑えた声で「失礼しました」と今度は返事をくれた。……なんだか、だんだん腕からもアーサーの横顔からも熱が上がってきているのを感じながら。
「こォする方が良いって聞いたンで……。……すっっげぇ今更ですけど……。……ああいう目、やっぱ嫌です……」
「そ、そう……。別に、大丈夫よ……??」
「いえ、俺が嫌って意味で……すみません」
じわじわじわと、アーサーの腕がマフラーみたいに温かい。肩もカイロみたいに熱が上がってきて、護衛目的以外で女性の肩を抱き寄せるって大分アーサーは恥ずかしいのにやってくれているのだなと思う。珍しく下唇を少し噛んで、レオナルドが背後になって見えなくなっても顔全体に力が入っている。
こうする……とは、と思い出すと一応該当した記憶はあったけれど、つまりは完全にレオナルドが警戒対象にされたということだろうかと思う。王女とは知らないとはいえ不敬発言もあったから、無理もない。正直、あれくらいならもうヴァルの冗談で聞き慣れていたけれども、失礼なものは失礼だ。
また背後の視線から私を守るように、肩に腕を回したまま隣を歩いてくれるアーサーは途中からわざと私に体重をかけさせてくれるようだった。お陰で私も女性からしがみつかれている分の重みをアーサーに寄せられる。
結果、アーサーが女性二人分の体重を受けながら歩いてくれているのだけれども、本人はまっすくピンと伸びた背筋で歩いてくれているから流石騎士だなとこっそり思う。二人三脚ならぬ三人四脚のような状態で、廊下を進む。
「……で、…………ーってことか?」
「さぁな。摘み食い気分で手ぇ出さねぇ方が身の為なのは違いねぇ」
静かにしなさいと言ったのに。
こそこそと小声でやっぱり口を開くレオナルドと返すヴァルに、ちょっとだけ唇を尖らせた。
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