そして脱出する。
「ブッ……ハハハハハハハッ!!なんだツイてんなァおいっ!!すげぇなバケモン騎士団!!」
いきなり笑い出したレオナルドにアランは目を丸くし、抱えようとした手を一度引っ込めた。まだ手足にようやく力が入る程度に関わらず、発声練習からいきなり元気に喋られたのは流石に驚いた。
床に仰向けに倒れたまま挑発的な発言まで発する姿はいっそ滑稽にも見えたが、今はとにかく「元気だなー」とアランには清々しい。
さっきまで誰よりも冷静に見えたというのに、今は暢気に爆笑している。助けにきた相手を「バケモン」扱いした男は、その後もゲラゲラと笑い続けた。
暫くは眺めていたくなったアランだが、今は地上に上がる方が優先だなともう一度手を伸ばす。「失礼します」と再び抱え上げようとすれば途端に「おい待て待て」とレオナルドが笑い声をピタリと止まる。
「んな丁重に抱えねぇでも足ぐらいは動かせる。頼むぜ騎士サマ、野郎に抱っこなんてダセェ真似できるかよ肩だけ貸してくれ」
「良いですけど、別に格好付ける必要ありませんよ」
「良いからい~〜から。別に逃げやぁしねぇよ」
なっ?、と。まるで友人のような気軽さで頼まれ、アランも苦笑しながらも一応希望に答えた。
両腕で抱え上げようとする構えから、自分の肩に腕を回させゆっくりと立ち上がらせる。一瞬は平衡感覚が掴めないようにフラついたが、自分がしっかりと支えていればすぐに両足で床を踏みしめた。試しに一歩進んでみれば、きちんと右足を前に出し歩行を進ませた。同時に息を切らす音が顔の近い自分には聞こえたが、敢えて指摘せずに今は飲み込んだ。少しは自由が効くのを確認したとはいえ、歩行もそれなりに負担はかかるにも関わらず強く希望するのは被害者の中でも極めて珍しい。ひと月近く拷問部屋に監禁されていた人間の発言には思えない。それでも自分の足で歩きたいと言うのだから、歩かせて良いかと思う。空元気ならばその内いつかは自分が勝手に抱えることになる。
肩を貸したところで今度こそ脱出をと思ったアランだが、そこでまた隣から口が動く。起立して視界が一気に広がったことで、また別のものがレオナルドの目を引いた。おぉ!と楽しげな声はやはりさっきまで監禁されていた人間らしくない。
「やっぱ女もいるじゃねぇか。良いねえ女!なぁ、アンタもお仲間だろ?折角なら女に肩借りたいねぇ?こっちは温もりに飢えてる」
「あーその人はただの協力者なので。今、他の女性に肩貸してるから無理ですよ」
「なんだぁ?!じゃあ~そこのデカいのが良い。なあ、アンタだよアンタ!!今目が合っただろ」
アッハハ……と、アランから今度は呆れの混じった笑いが溢れる。
まさか救助活動の相手で指名されることなど、騎士をやってきて初めての経験だった。ゴーグルをつけたままの自分達は本来であれば今も存在は認識されても、プライドがわざわざ注目される可能性は低かった。それでも彼女に気付いたのは、つまりそれだけレオナルドが立っている全員を一人一人意識的に注視した証拠だ。しかもプライドを指名した時は見境ない奴だな程度としか思わずにさらりと流したが、そこでまた指名した相手がまた笑ってしまう。
自由になった指でレオナルドが指し示す先にいるのもまた騎士ではない、ヴァルだ。
自分達が檻を出る準備を始めたところでさっさと檻の外へ誰より先に出ていた彼は、今は檻の出口に佇んでいた。
いきなり煩く騒ぎ出すレオナルドを眺めてはいたが、まさかの自分が絡まれたことにヴァルも片眉を上げて睨み返す。一瞬また物珍しさかと思ったが、今の自分は特殊能力で本来の姿には見えていないと遅れて気付く。
当然、呼ばれたからといって肩を貸してやろうなどとは思わない。無言で睨み返し、わざと背中を向けて檻に寄り掛かった。しかしそれでも「なあおい!」と呼びかけてくるレオナルドに、ヴァルは一人顔を顰めた。
アランもここまではもう無視しようと決め、こちらに振り返っているカラム達に顎の動きで先を促した。良いから、気にしないで行け、と進めるままずるずるとレオナルドを強制的にエリック達の背後へと並ばせる。それぞれ縦に並ばせて檻の出口に向かわせるが、その間も騒がしいレオナルドへ奴隷被害者の女性も男性も恐怖と興味で首がぐるりと真後ろに回ったままだ。
「なあ頼むよ。ここだけの話、わりぃがフリージアの騎士も好きじゃねぇ。アンタらにゃ感謝するがな」
「カラムー!やっぱこっち一番先に通して良いか?」
わかった、と。アランからの提案に、カラムそしてエリックもすぐに汲みとり、応じた。檻の出口から一直線の列から横に三歩分ずれる。これには最後方に立っていたステイルも無言で頷いた。
檻の出口はたった一つ、そこで一列に被害者達を並べ、潜らせる為と思わせて瞬間移動したかった。背後から触れれば、瞬間移動したのがステイルとも思われない。
しかし今はレオナルドが騒ぐ所為で被害者達もぐるりと背後に首が向いている。ここでレオナルドとアランを瞬間移動させたところで、がっつりと自分の仕業だと振り返っている二人に目撃されてしまう。それならば最初に移動させる筈だったレオナルドを列の先頭に立たせれば良いだけの話だ。
そして一番後ろになったエリックと男性被害者を最初に、そして次に女性被害者とプライド達を、最後にレオナルドとアランを移動させれば良い。あくまで気付かれないうちに瞬間移動させる為、騎士の方から「前を向いていてください」とも言えない以上、それが最善だった。
アランが半分引き摺るような形で強制的にレオナルドを最初に檻からくぐらるべく歩かせる。
当然アランに力で敵わず、されるがまま足を動かすレオナルドだが、その間もヴァルへ呼びかけは止まらない。幸いにもヴァルが檻の外にいる為レオナルドも前方を向いているが、……プライドは諦めの溜息を吐いた。
「ヴァル。……本当に、本っっ当に申し訳ありませんが、少しの間だけアラン隊長と代わってくれませんか……」
「アァ!?」
突然のプライドからの言葉に、今度はヴァルも無視できない。背中を向けていた状態から、思わず声を上げながら振り返る。
これにはヴァルだけではなくアーサー達も驚いた。アランが「いや大丈夫ですよ?」とわざわざ希望を叶えるほどのことではないと断ったが、プライドは撤回しない。レオナルドの性格は、ゲームを知っている自分がこの場で一番よく知っている。実際はレオナルドにとってヴァルの方が嫌悪の対象なのにと思いつつ、今は知らない分騎士の方が嫌なのもまた仕方ないと一人理解していた。
眉を狭めたまま女性に腕を貸したまま、振り返ったヴァルと目を合わせる。
命令口調を避けたとはいえ、それ以上何も言わず訴えてくるプライドにヴァルも舌を打つ。既にここまで協力している上で、何故騎士の仕事を自分が手伝わなければならないのかと思う。ただでさえ自分は荷袋を抱えている分、他よりも荷物自体は多い。
「ふざけんな」と一度は不満を発したが、それも「そこをどうにか……」と返される。命令されればどうせ強制されるにもかかわらず、わざわざ頼む口調で押しつけてくることが余計に腹が立つ。チッ!!と一際大きな舌打ちを立て、憂さ晴らしに檻を蹴り飛ばしてから仕方なく、一度出た檻の出口を潜ることになる。
まさか本当にヴァルが代わるのかと、意外さにアランも思わず小さく口が開いてしまう。今日は付き合い良いなー、と心の中で思いながらも口には出さない。レオナルドが転倒しないように慎重な手つきでヴァルへと托した。
アランの肩からヴァルの肩へとレオナルドの腕と体重の七割近くが預けられる中、また舌打ちが二度鳴った。荷袋を背負ったままのヴァルに、アランも荷袋の方をレオナルドと交換するように預かった。あまりに自然な動作と苛立ちのせいで、ヴァルも途中まで預かられたことに気付かなかった。
荷袋を奪われたと、反射的に思ったがどうせ中身は砂である。アラン本人が近くにいれば中身を使用するのにも問題はない。そう思い軽く目で荷袋を追えば、肩を貸したレオナルドから「悪いなぁ?」と上機嫌の声色がかけられた。
「アンタ〝こっち側〟だろ。隠してもわかるぜ?その目ぇ見りゃあな」
「…………。別に隠しちゃあいねぇが」
「良いねぇ、開き直った奴は好きだぜ。そこに不満があるならウチにくるか?」
そういうことか。と、ヴァルはうんざりと息を吐く。「似たようなものだ」と微弱な訂正を入れることも面倒になり、目も据わる。
自分を指名してくるなどどういう嫌がらせか魂胆かと思ったが、同族を嗅ぎ取られただけだった。
アランとの会話は聞こえていなかったが、騎士に腕を貸されたくないという心境だけは共感できてしまえる。しかも肩を貸した途端、わかりやすく視線も自分へ一点集中しだした。
のっそりのっそりと、アランと違い配慮の欠片もない歩き方で連れるがレオナルドから今度は不満の声もない。身体の節々が痛み足がもつれても楽しげに歯を見せて笑うレオナルドを檻から出し、前進する。
二人、四人、一人と最後方から順々に姿を消していくことにも気付かない。気付く余裕と実際はないのだと、さっきまで肩を貸していたアランとそして今レオナルドの息の荒さが耳にかかるヴァルだけは理解する。
レオナルドが口を止めるのは、自身の視界が地上の一室へと切り替わった瞬間だった。
明日、19時に新作を連載開始いたします。よろしくお願いします。




