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第56話「異世界人の告白 ――ソフィーは――」

 ソフィーの姿を認めた澪が唇を震わせる。

 そして昔の少女漫画のような白目の驚愕顔を作った。


「な……な……なんでソフィーが宿屋の部屋で陽斗様と二人きりでいるんすか?!」

「ってそっちかよ! そこは元の世界とか言っちまったことを気にするべきだろ! あと顔凄いな! どうやってるんだ?!」


 陽斗のツッコミに対し、澪は外を降る雨のようなジトッとした目で、


「……陽斗様も言ってるっすよ」

「はっ!」


 口に手を当てた陽斗は「やっちまった」とばかりに、恐る恐るソフィーを窺う。


「元の世界ってどういうこと? 虹宮に忍びこむ? ねえミオは何を言ってるの?」

「えー、あー……」


 何故か陽斗一人に向けられる追求に視線を彷徨わせると、それはこの事態の原因を作ったメイド服の美少女に行き当たった。


(なんとかしろ! 澪のせいだろ!)


 陽斗の救援を求めるアイコンタクトが届いたのか、澪は頷くと両手で「T」の字を作る。


「ピピー! タイム! タイムっす!」


 ソフィーの横をすり抜けて陽斗の下まで来ると、ソフィーの視線を背中で遮った。

 そして口元に手を立てると、こしょこしょと喋り出す。


「ど、どうするっすか?」

「ちょっ、策なしかよ。それにどうするもこうするも……」


 ちらっと肩越しにソフィーを見やる。

 ソフィーはよく分からないが、腕を組んでおっかないオーラを出していた。

 陽斗はソフィーの剣呑な空気にビクッと身体を震わせる。


「こ、虹宮っていうセブリアント関連の単語を出しちまったんだから、絶対半端な理屈じゃ納得しないぞ! てか何だよ忍びこむって」

「前に行った時に手がかりを見つけてたんすよ。今日はその確認に行ってたんす。ここのところ陽斗様が落ち込んでるみたいだったっすから、帰るための手掛かりが見つかれば元気になるかと思って……」

「澪……」


 陽斗は澪に心配をかけていたことにようやく気付いた。


「すまん心配かけて……」

「いいんすよ。陽斗様の役に立つのが私の役目っすから」


 至近距離で澪のウィンクを見せられてしまった陽斗は、ドキリと心臓を強く拍動させる。

 実はどんな気遣いよりも澪の笑顔の方が、陽斗を元気付けるのに何倍も効果的だということを澪は知らない。


「お、おう」


 照れた陽斗は澪から視線を逸らす。

 だが陽斗のその反応は、後ろからソフィーに話しかけられたことで澪に見られることはなかった。


「ちょっと二人で何話してんのよ」

「もうちょっと待って欲しいっす! ……うう、ソフィーが怖いっすよお」


 涙目で再び陽斗に顔を寄せる澪を見て、陽斗は決断する。


「……もうソフィーには話しちまわないか?」

「えっ? でも……」

「澪は元の世界に帰るための手掛かりを見つけてきたんだろ?」

「はいっす」

「もしそれで帰れるってなったら」

「ソフィーとはお別れっすね……分かったっす。ソフィーには全てを伝える時が来たみたいっすね。……といってもソフィーが信じてくれるかは分からないっすけど」

「まあそこはソフィー次第だな」


 初めは複雑な表情を見せた澪も、溜息とともに陽斗の提案を認める。


「ソフィー、聞くっす」


 陽斗と澪。

 両者にいきなり視線を向けられたソフィーが少し怯んだ様子を見せた。

 いつもとは違う二人の雰囲気を、鋭敏に感じ取ったのかもしれない。


「な、何よ」

「実は――」


 澪は話した。

 500年前に空属性を持ったロイド王子が、呪いで異世界に転移させられてしまったこと。

 陽斗がその血を引く子孫であること。

 そして陽斗が空属性の魔力を持っていること。


 始めは大人しく聞いていたソフィーだったが、澪の話が進むに連れ驚愕に表情を染めていく。

 一通り話し終えると、一言。


「う、うそ……」


 目を皿のように丸くするソフィーに、下瞼に指を当てた澪が続ける。


「嘘じゃないっす。陽斗様が空属性を含めた全属性を持っていることはこの私が保証するっす」

「ぜん……ッ!」


 ソフィーは弾かれたように澪へと向けていた視線を陽斗に移した。

 その顔には「信じられない」と書いてある。


(まあそりゃ簡単には信じられないよな)


 陽斗とて、異世界に転移してきて2ヶ月弱。

 今なおこの異世界に燦然と輝いているセブリアントの威光を実感してきた。


(主にソフィーからだが……)


 謎を残して失踪したセブリアントの継承者の子孫。

 おそらくだがこの異世界にはセブリアントの名前を騙った詐欺師のような者も、少なくない人数いたのではないだろうか。

 例えば陽斗だって、地球で卑弥呼の血を引いていると言う者が現れたらその者の正気を疑う。


「………………」


 ソフィーもまた、瞳を頼りなげに揺らしている。

 仲間を信じたい。でも簡単に信じられる話でもない。そういった葛藤がありありと読み取れた。


「ちょっと待って……頭がこんがらがってきたわ。ハルトが傍系の末裔である虹族どころじゃない、空属性を持ったセブリアントの正統……?」


 ソフィーは言葉通り混乱した頭を抱え、軽い錯乱状態にあるようだった。


「しょ、証拠は?!」ソフィーは弾かれたように頭を上げる。「そう……アンタたちが嘘をついてないのは分かったけど、証拠もなしにそんな話すぐには信じられないわ……!」


 どこで嘘をついていないと判断したのかは陽斗には分からなかったが、陽斗たちが今の話を真実だと思い込んでいるだけではないかと言いたいのだろう。

 事実陽斗は今まで一度も魔法を使っていない。


 それで全属性と言われても信じがたいのは仕方ない話だ。

 その反応がある程度予想出来ていた陽斗は、肩を竦めて用意していた言葉を口にした。


「ソフィーも知っての通り俺は魔法は使えないから、魔力に関しては澪の言葉を信じるしかない」


 ギレと戦った時に火属性の魔力が発現したことなど話せることはあるのだが、その時のことは記憶の奥底に封印した陽斗である。

 澪も空気を読んだのか、そのことについて言及しなかった。


 しかしそれでソフィーに信じろというのも酷な話だろう。

 そこで陽斗はソフィーと縁を持つきっかけにもなった物が、ちょうどいいのではないかと思案した。


「澪、あれ出せるか?」

「あれ?」

「ほら、昔のお金」

「ああ」


 澪がトレードマークである腰のポーチから財布を取り出して、じゃらしゃらと硬貨をベッドの上に落とした。

 ソフィーが一つ一つを検める。


「……2002シンス金貨だけじゃない……虹国貨幣の全六種類の硬貨が全部揃ってる。しかも全部虹国歴499年製造……あはは」


 手から溢れるほどのレア貨幣に、ソフィーが乾いた笑いを上げる。

 それで大分信じる方に傾いてきたようだが、まだ確信には至らないようだ。


(まあ俺が子孫だってことに加えて、異世界……だからなあ)


 500年前に失踪した空属性を持つロイドの末裔で、自身も空属性を持つ。

 さらに1000年前の初代セブリアント王以来の全属性持ちで、異世界の住人。

 陽斗とてそんな単語を並べ立てられたところで、少し前だったらソフィーと同じような反応をしただろう。


「あとひと押しってところっすかね」

「じゃあ、あとは……」


 陽斗は腰に佩いた剣を鞘ごと抜いてソフィーに放った。


「わっわっ」

「その剣くらいだな。証明できるものは。ソフィーだったらなんか知ってるんじゃないのか?」


 「アタシがあんたの剣のことなんて知っている訳ないでしょ」と怒鳴りかけたソフィーが、何かに気付いたように開いた口を閉じた。


「こ、これ……」


 手にした陽斗の剣を穴が空くほど凝視する。


「前に見覚えがあると思ったけど、これもしかして初代様の宝剣?!」


 写真などない異世界だが、前に訪れた虹宮にあった初代の像はこの剣を模したものを腰に携えていたし、書物に剣の絵も残っている。


「そうらしいな」

「……じゃ、じゃあ今までの話は、本当のこと……なの?」

「そう言ってんだろ」


 澪もまた一つ頷き、


「全部本当のことっすよ。それで私たちは元の世界に帰るために手掛かりを探していたんす。それが虹宮にあるかもしれない……見逃してくれるっすよね?」


 ソフィーは――。

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