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第49話「in学食 ――昼――」

 昼、学食。


「俺、この『飛竜の翼の付け根肉~高級ワインを使ったこだわり特製甘口ソース仕立て~』な」

「私は、『浮遊魚オオクエフィッシュのポワレ~稀少小麦粉を使ったふんわりパン添~』でお願いするっす」

「じゃあアタシは、『ランクAモンスターアルマテアの焼き肉~魔力農薬で育てたシャキシャキ野菜盛り~』ね」

「あなた達あなた達! もう少し遠慮ってもんがありませんの!? わざと高いものばっかり頼んでいますわよね!」

「あはは……」


 陽斗はキャンキャン煩い負け犬をチラッと見て、


「さすが崇高な授業を行う、神聖な学び舎だな~。学食のメニューも一流だ。でも食べてみないことには味の判断までは付かないな~」

「字面は立派っすけど、もしかしたらあんまり美味しくないかもしれないっすしね」

「あれだけ学院のことを自慢してたんだもの。それに相応しい料理を、きっと食べさせてくれるわよ」


 どうやら虹の軍団セブンス・レギオンは敵に情けをかけない者の集まりのようだ。


「き~~っ! 鬼畜ですわ! あなた達みんな鬼畜ですわぁああああ!」

「まあまあシャスティナさん。僕たちは自分で払うから」

「ベイルさん……」


 潤んだ瞳でシャスティナがベイルスツァートを見上げる。


「じゃあその分、デザート追加で」

「私も甘いもの食べたいっす」

「いいわね。アタシも」

「あなたたち~~~~~っ!」


 陽斗たちは頼み終えると、さっさと席についた。

 やがてベイル、シャノン、リリィの三人も後追いで同じ卓に座る。


「あれ? 学年一位(笑)は? 目の前で美味そうに食ってやろうと思ったのに」

「ハルト……シャスティナさんは自宅からシェフを呼んでいるから、支払いが終わったら中庭に向かったよ」

「金持ちだったのねアイツ。じゃあちょっと高いもの頼んだくらいで、目くじら立てなくても良いのに」

「シャスティが使えるのは月のお小遣いだけです。今月の服代が~って嘆いてました」

「そうかじゃあちょっとは、後悔させてやることできたんだな」


 陽斗はそう言って、飛竜肉を一切れほおばる。

 じゅわっと溢れる肉汁が口の中に広がり、雪解けのような舌触りの肉が優しい食感を残す。


(美味い……美味いんだけど……)


 ソースがいまいち残念だった。

 おそらくシェフではなく、元のワインが悪いのだろう。


 醸造技術の未発達によりブドウの甘みがアルコールに転化しきれておらず、火にかけた時に飛ばないので甘口ソースが本当に甘いのだ。

 やはり異世界での料理技術は地球レベルとまではいかないようだ。


(ソースまで美味しかったら、肉汁と絡んで完璧だったろうな……)


 素材が良いだけに本当に惜しい。それが陽斗の感想だった。

 それでもつつがなく食事は進み、次の話題はベイルスツァートから提供される。


「それにしても、昨日君たちと校門前であった時は、こんな風になるなんて想像もできなかったよ」

「本当にな。学院長まで出てきた時はヒヤヒヤしたな」


 それは陽斗が空属性の継承者で、セブリアントの正統であることを虹族だというアリサにバレないかという意味だ。


「とてもそうは見えなかったけどね。悪い貴族でも気にせず、戦う君たちはカッコ良かったなあ」


 ベイルスツァートの表情は憧れというより、羨みといった方が正しいような気がした。


「……貴族が何なのよ。アタシから言わせれば、虹国時代の貴族の方がよっぽど貴族らしかったわ。だいたい――あてっ」

「お前の話は長いから今度な……おい、そのフォークをどうする気だ。しまえ」


 剣呑な空気を漂わせ始めるソフィーに、シャノンがとりなすような一石を投じた。


「そういえば、昨日はアリサ学院長にお付きのナタリア様にお会いされたとか。羨ましいですわね」

「ナタリア?」

「アリサ学院長の後ろにメイド服を着た黒髪の女性がいたでしょ? その人だよ」

「その人に憧れるってことは、シャノンはメイドになりたいのか?」


 陽斗の疑問に、リスのように両頬をパンで膨らませた澪が反応する。


「陽斗様?!」

「うわっ汚えっ! 口にもの入れて喋るんじゃねえ!」

「まさか私という者がありながら、別のメイドを雇う気っすか?! どこが不満何すか? 言ってくれたら直すっすよ? 何だったら夜の――」

「なに大声で言おうとしてんだああああああっ!」


 陽斗はさらなるパンを澪の口に叩きつける。

 大きな声にリリィがビクッと震えた。


「ふがふごっ! ……もぐもぐ……はふぅ、陽斗様の食べかけ……」


 ソフィーは澪の奇行にも慣れたもので、恍惚とした表情を浮かべる変態メイドには目もくれずに食事を続けている。


「……こいつは無視していいから」

「あはは……シャノンはメイドに憧れてる訳じゃないんだ。……ね?」

「はい。ナタリア様は学院トーナメントで三年連続優勝を果たしてた才媛で、各国騎士団から引く手数多の中、彼女たっての希望でセブリアント家の護衛メイドになったんです。

 シャスティはセブリアント家を悪く言ってましたが、皆がそう思っているわけではありませんわ。私たち六国民はソフィーさんの言う通り、セブリアント家がもたらした多大な恩恵の中で生活しています。ご恩返しをしたいと思う人も多いのですわ。ナタリア様もその一人で、居並ぶ六国の王たちの勧誘を蹴って、我を通した女性ということで、ファンも多いのです」


 シャノンの話にソフィーとリリィがコクコクと頷く。

 ソフィーがセブリアント家について考えているのは明白だが、リリィはおそらくシャノンと同じでナタリアへの憧れが強いのだろう。


「へーじゃあ学院長の後ろにくっついてたメイドさんは、この学院の元会長だったんだ」


 昨日のベイルスツァートの話を思い出しながら言う。


「学生時代に付けられた二つ名は『無敗ヴィクラム』。強さだけじゃなくて、学業でも一位から転落したことがないって話だよ。正直女子ばかりじゃなくて、男子でも憧れてる人は多いと思う」

「美人だったしな。優秀なメイドっぽいな」

「ハルト、ハルト」


 横に座るソフィーがツンツンと陽斗の肩をつつくと、その指を澪に向けた。

 メラッ。


「うおっ!」


 陽斗の横では澪がめらめらと燃えていた。


「ハルトが他のメイドを褒めるから……」


 対抗心を燃やしていたという訳だ。

 陽斗はこのままでは、件のメイドに勝負を挑みに行きかねないと冷や汗を垂らす。


「み、澪には敵うはずないがな。澪ほど優秀なメイドがいて俺は幸せ者だなーうん」

「ホントっすか? 陽斗様は私がいて幸せ?」


 引き気味にではあるが、陽斗が頷くと一転、澪は巧笑を浮かべてパクリと白身魚を食べる。

 そして頬に手を当ててだらしのない笑みを浮かべた。

 それを見てベイルスツァートがにやにやと一言。


「愛されてるねー」


 陽斗はまた澪が機嫌を損ねないように心の中で否定する。そういう訳ではないと。

 澪のこの態度はメイドとしてのロールプレイかさもなくば、陽斗が空属性を受け継ぐ虹族であることに由来したものだろう。

 虹乃に仕えるのはウェストからの厳命だと澪も言っていた。

 陽斗がそうであるように幼馴染としての親愛はあるだろうが、それは男女のものではないのだ。


「私、ハルトさんが何を考えているのか手に取るように分かっちゃいます」


 シャノンが困ったように言うと、


「わ、私も」


 リリィが控え目に呟いた。

 一方分からない陽斗とベイルスツァートは、お互いに目を見合わせて首を傾げる。


「……ん?」


 いつの間にかソフィーは食事を再開していた。

 鈍感な男子たちに突っ込みを入れられるものはいなかった。




 心地良い満腹感に陽気も手伝い、六人の間に弛緩した空気が漂う。

 陽斗たちはマカロンに似たお菓子を摘まみながら雑談に興じていた。


「これ……もぐもぐ……美味しいっすね、はむはむ……いくらでもいけそうっす」

「ミオそんなに甘いもの食べたら太るわよ。ハルトの分まで食べて」

「私、いくら食べても太らない体質っすから」

「「「えっ?!」」」


 体重が気になる三人の乙女を敵に回しながら、なおも食べ続ける澪。

 それをよそに陽斗は首を背もたれに預け、背後にある日の光が差し込む窓を見上げた。


(授業も後二コマかあ……)


 陽斗がのんびりとそんなことを考えていると、ベイルスツァートが食器を持って立ち上がる。

 その顔は先程までの甘いマスクとは違い、どこか気を引き締め直した様子だ。


「さてと、お昼の後は移動だよ」

「移動? どこに?」

「キルクスさ」

「昨日行った闘技場っすね。何するんすか?」


 揃って首を傾げる三人の体験生にシャノンが穏やかに告げた。


「今朝掲示板に授業変更のお知らせが貼りだされてました。今日の午後は模擬戦だそうですよ」

「「「模擬戦っ?!」」」


 陽斗たちにとって学院での最後のプログラム。

 魔法魔術実技の時間がやってくる。

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