表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/68

第41話「陽斗の懇願 ――大人の階段――」

「頼む澪! ほんのちょっと! ほんの少しさせてくれればでいいんだ!」


 澪を前に陽斗は拝み倒す。


「でも私たちにはまだ早いっすよ……」


 澪は頬を染めて顔を逸らした。

 陽斗はなおも食い下がる。


「ちょっと一緒に大人の階段を昇るだけだって!」

「でも……やっぱりちょっと怖いっす……」

「俺がタガを外して暴走するかもしれないっていう、澪の心配は分かる。だから一回! この一回だけでいいんだ!」

「一回しちゃったらどうなるか……」


 一度味を覚えた陽斗が、依存してしまうかもしれないことを危惧しているのだろう。

 渋る澪に陽斗は一転、自分にとっては大したことではないとアピールするかのように、穏やかに話しかけた。

 肩に手を回して囁く。


「なあ……澪いいだろ? ちょっと気持ちよくなるだけだって」


 陽斗は自分のものを見せつけるように澪の顔に近づけた。


「ほら……もう我慢できないって言ってる」陽斗は視線を落とす。「澪のも飲んで欲しそうに白いのが泡立ってるそ」

「ああ……凄い匂いっす……芳醇で嗅いでるだけで、頭がボーッと……」


 澪がゴクリと唾を飲み込む。


「澪……」


 陽斗は徐々に澪のつやつやとした唇に、先から液体が溢れるそれを――


「――アンタたちわざとでしょ?! わざと際どい言葉を選んでるのよね?!」


 ソフィーが顔を真っ赤に染めて、テーブルに両手を突いて立ち上がる。


「? 何言ってんだよ、ソフィー。さっきから過保護な澪に、飲酒の許可を求めてるだけじゃないか」

「…………」


 澪が無言で目を逸らす中、陽斗はソフィーに向き直って首を傾げた。


「でも大人の階段とか」

「俺達は飲酒は初めてなんだから当たり前だろ」

「……じゃあタガが外れて暴走するとか」

「慣れてなかったら飲み過ぎて、悪酔いするかもしれない」

「…………気持ちよくなる」

「ほろ酔いが気持ちよくなかったら誰も酒なんて飲まないだろ」

「………………我慢できないとか、白いのとか」

「比喩に決まってるだろ。白く泡立ってるのは見たまんまだし」

「……ううっ! なんか理不尽だわ!」


 陽斗から曇りのない眼を受け、勢いを失ったように席につくソフィー。

 場所は酒場。

 この場所ではソフィーの大声も大した音にならず、喧騒に呑まれて注目を集めることもなかった。

 陽斗は澪にもう一度懇願する。


「な、いいだろ? ランクアップ祝いの今日だけだから。お酒って一回飲んでみたかったんだ」

「しょうがないっすね。飲み過ぎちゃダメっすよ」

「よっしゃ!」


 満足した面持ちの澪から、あっさり許可が出る。

 三人はランクEに昇格したことを祝して、エールの注がれたコップを合わせた。


「……それにしても、聞けば聞くほど変なところよね。アンタたちの国って」

「どこがだよ」

「ウルフ50匹が街の近くに現れても、普通だと思うほど物騒な国かと思えば、大人と見なされる年齢が20歳って」


 子どもが長い間子どもでいられるのは、それだけその国が裕福で、安全であることを意味する。

 ソフィーは肉料理を口に放り込み、エールを煽ると続ける。


「……強力な武器の魔道具を作ってるってことは危険なんでしょうけど、ハルトからは危機感が感じられないというか、抜けてるっていうか。ホントにハルトとミオは同じ国の出身なの?」

「おいその辺にしてもらおうか」


 ソフィーは陽斗を下げた言い方をするが、日本では澪の方こそが異端なのだ。

 普通を自認する陽斗にとって、ソフィーの言葉には納得いかないものを感じる。


「まあ危険かといえば、危険かもしれないっすね。とある界隈ではトラッ……大型の馬車に轢かれて死んじゃう人が一日に何人も……」

「やっぱり!」

「おい」


 その後も調子に乗った澪が、


「とある街ではメイド自らが仕えるご主人様を勧誘して、お店に連れて行ったりするっす」

「いかがわしそうな街ね!」


 や。


「船が壊れる度に、当て付けとばかりに女の子の服をビリビリにするんすよ」

「そのテー○クって奴は最低ね!」


 とか。


「一年に一回金曜日……光の日の夜に国民の内、34万人が滅びの呪文を一斉に唱えたりするこもあるっすね」

「何その邪悪過ぎるサバト?!」


 などとあることないことソフィーに吹き込み続けていた。

 陽斗はいちいち誤解を解いていくのも面倒くさくなり、運ばれてきた料理に目を向ける。

 目の前にあるのは肉料理だ。


(何の肉だ? 豚に近い気もするけど……まあでも美味いな)


 塩気があって、エールによく合う。


(でも塩は高級品って聞いていたような。大衆酒場でこんなたっぷり塩が使えるものなのか?)


 陽斗はそこで、店の中のボードに貼られた『店長のおすすめ』という紙が目に入った。

 そこには――


 『「四足オークの切り落とし燻製肉」締める前にたっぷり汗をかかせて塩気をきかせた一品』


(……………………見なかったことにしよう)


 体表にかいた汗が、肉の味に影響するのかなど疑問は多々あれど、


(これ以上追求すると、この世界で料理が食えなくなりそうだ……)


 そのボードには他にも色々書かれていたが、それも見ない。

 陽斗がそっと皿を押すと、澪との話に集中するソフィーがひょいっと手元を見ずに肉を口に入れた。


(あっ)


 ソフィーは特に気にした様子もなく、咀嚼して飲み込んだ。


「…………」

「何よ?」

「いや何でもない」


 ソフィーはそれきり澪との会話に戻った。

 陽斗はソフィーのいちいちオーバーなリアクションを肴に、ぐいっとエールを煽る。

 澪の能力によってキンキンに冷やされているが、それでも陽斗の子ども舌には、


(うーん、マズい!)


 陽斗は姦しい女子二人を余所に、一人で他の料理に舌鼓をうつ。

 しばらくすると、澪もだんだんと残弾が尽きてきたようだ。

 陽斗はそろそろ誤解を解いてやるかと口を開いた。




 陽斗が全ての誤解を解く頃になると、三人は腹も膨れ、酒も手伝って心地良い睡魔に襲われている。

 そろそろ宿に戻るかという時、ソフィーは最後にポツリとこう零した。


「楽しそうな国ね……いつかアタシも行って……みたい……」

「ソフィー?」

「くう……」

「寝ちゃったっすね」

「……そろそろお開きにしようぜ。俺も眠くなってきた」

「ソフィーはどうするっすか? 起こすっすか?」


 陽斗は眠い目をこすりながら言う。


「寝かしといてやれ。俺が運ぶよ」


 ソフィーの警戒心のない寝顔に、陽斗は内心で苦笑する。


(信頼されてるってことか? まあ今日は……今日も助けられたからな。その礼に運んで――)

「でもソフィーの部屋の魔力認証は、陽斗様も私も登録してないっすよ」

「起きろソフィー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ