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第36話「プロローグ ――復活のまおうへいか――」

第二章スタート!

 六国を擁する大陸から少し離れた海の上に、一つの島がある。

 その島の周りの海は一年中荒れ狂い、暴風雨がやむことはない。

 人間の航海技術では、決して辿りつけないし抜け出せない。そんな外界から完全に閉じられた島になっていた。


 島の中心地にある巨大な城。正式な名前を知っている者は、今となってはごく少ない。

 だが存在だけは世界中の人間が知っていた。

 人々からはこう呼ばれている――魔王城と。


 魔王城のとある一室。絨毯や白亜の壁、掛けられた紋章など、パーツの一つ一つを取ってみれば、どれも華美さを感じさせる大変豪華なものだ。

 しかし現在部屋には灯りがない為、おどろおどろしい何かが生まれてきそうな不気味な雰囲気を漂わせている。


 部屋の奥は高くなっており、最上段には玉座が設置されていた。

 ルビーで出来ているかのように紅く立派な椅子だ。だが下段からは影になっている為、誰が座っているのかは見えない。

 玉座からこの部屋の主に相応しい、威厳ある声音が発せられる。


「わしじゃ……」玉座から慌てる雰囲気。「……我だ」


 玉座の間の緊張感がただちに弛緩してしまった。

 微妙な空気が流れ、玉座の主もそれ以降声を出さない。

 影に覆われた玉座を跪いて見上げる忠臣は、流れだした空気を作り変えようと、努めて場に相応しい硬質な声で話しかける。


「……魔王さま、復活おめでとうございます」


 ヒョロリと手足の長い長身の黒ずくめの男で、真ん中から二つに分けた黒髪は首の中ほどまで垂らしている。

 20歳そこそこに見える外見はほとんど人間と変わらない。けれども決定的に違う部分がある。側頭部から生えている二本の角だ。

 魔族と呼ばれる種族。名はフォス。


「…………思いの外時間がかかってしまったがな」


 返ってきたのは轟雷のような声。

 そこには先程の気の抜ける言い間違えなど無かったかのように、威厳しか感じられない。

 

「あの戦いは激戦でした。それも仕方のないというものです」


 魔王はうむと厳かに頷き、数秒間だけこの玉座の間を沈黙が支配する。それを破ったのは魔王の何処か悲しみに満ちた声だ。


「……残っているのはお前だけか? フォスよ」

「……はい。皆あの戦いで……」

「他の魔族の同胞は?」

「皆隠れるように世界中に散って行きました。……今となってはどれだけの数が残っているか……」

「……そうか」


 魔王は背もたれに体を預けて目を閉じた。

 かつての部下たちを思いやり、自分の至らなさ故に死なせてしまったことを謝罪しているのだろう。変わらない部下思いの魔王に、フォスは心の中で再び忠誠を誓う。

 そしてフォスもまた同格だった三人――自分を入れて四人の精鋭で構成されていた、『四槍』の面々を瞼の裏に映した。


 『四槍』は強さの序列順に第一の槍から第四の槍と呼ばれていた。

 戦闘となるといつも一番槍を務めたがったウーノティス。

 第二の槍を務めたのは紅一点のデュエリーゼ。


 第三の槍はフォスだ。

 そして魔王の配下最強の第四の槍、クワトルーゼ公。『四槍』の中で唯一実際に槍を使って戦っていた男で、フォスの実の父親でもあった。

 また軍の総帥の地位を魔王から預かり、兵士たちからは『天下二槍』の二つ名で恐れられると同時に、畏れられていた人物だ。自分にも他人にも厳しかったが、フォスにとっては尊敬できる父親であった。


 だがその者達は、もはやこの世にはいない。

 そう思うとフォスの中では、隠れていたどす黒い感情が心の面積を占領する。長い年月が経とうとも、同胞たちを殺した者への復讐心は消えることはなかった。

 フォスが歯噛みした音が伝わったのだろう。魔王が再び彼に水を向けた。


「『奴』が憎いか?」

「はい。奴の所業は許せるものではありません。叶うことならこの……」フォスは刹那の時間、足元においた二本の槍に視線を落とす。「……手で奴を八つ裂きにしたく存じます……!」


 フォスは魔王が復活するまでの間、父に託された槍で牙を磨いてきた。今では昔の父と同等の実力だと自負している。

 鬼の形相で怨念を吐き出す部下を見て、魔王がどう思ったかはわからない。玉座は相変わらず影に沈んでいて、魔王の顔は見えないからだ。


「……そうだな。『奴』は勝手な思い込みで我らを食い物にし、己の地位を上げようとした。そのために何人もの力ある魔族が殺された」


 フォスは魔王の言葉を謹聴し、口を挟まない。

 それは何も彼にとっての王の言葉だからという理由ばかりではない。魔王の言葉に間違いがないからこそだった。


 フォスは仲間が殺されていく光景を脳裏に過ぎらせて、忌々しく眉間に皺を寄せる。

 『奴』が仲間を殺す瞬間の醜悪に歪んだ顔は忘れようもない。

 その表情は「愉快」と言っているようで、その口は「また一人」と言っている気がしてならない。

 魔王は玉座の上で続けた。


「……だが今はまだ我も復活したばかりで力が足りない。我は力を貯めつつ、戦力となる者を探そうと思う」

「では私も……」


 いくら自分より強い魔王といえど、家臣が王を一人に働かせる訳にはいかない。フォスは自分も魔王と同じ目的に動くと言おうとした。

 しかし魔王は「待て」とフォスを制止し、問いかける。


「あれの方はどうなっている?」


 一瞬ファスは何のことか分からずに体を硬直させるが、すぐに魔王の言うあれに思い当たる。


「反応がありましてございます」

「やはりか……」

「何か思い当たる節でもございましたか?」

「ああ……いやこちらのことはよい。それよりもフォスはあれの方の居場所を探れ。くれぐれも……分かっているな?」

「畏まりました」


 フォスの忠心に満ちた返事を聞くと、魔王が立ち上がる気配がする。 

 魔王は玉座の間に響き渡る一際大きな声で、決意を口にする。


「今度こそ完全に息の根を止めてやる……あの“空属性”だけは!」


 フォスの頭がさらに深く沈んだ。

 再び魔王が動き出す。



   ■



「――ひゃっほう!」


 時間は前後する。

 空属性を持つ唯一の人間たる少年は、ドラゴンの背に乗り、空を疾駆していた。

 風。

 少年が感じているのは、ただただそれだ。


 人間からしてみれば、充分に疾いと思わせるスピードだが、グラナにとってはゆっくりと言えるペース。

 グラナは背中でテンションを上げすぎて、奇声を発する少年に話しかけた。


『喜んで貰えているようね』


 それに少年――陽斗がバサバサと髪を揺らし、満面の笑みで答える。


「ああ! こんなに最っ高の気分は初めてだ!」


 眼窩には村や町が小さく見え、遠くには雄大な山の景色が広がる。

 その中を肌で風を感じ、移動するというのはとても胸が踊った。


 陽斗、澪、ソフィーの三人は『フィールド』の街からグラナの背に乗って、目的地である虹都『シンシュデトック』まで送ってもらっている。

 ヒナを取り返してくれた礼だということだ。


「ツイてるっすね! まあせっかくの野営の練習が、無駄になっちゃったすけど」

「いいじゃないか。それでグラナにも会えたんだし」

「それもそうっすね……ところでソフィーは」


 澪がグラナの広い背中の上で視線を滑らせる。


「な、なんで二人はそんなに平気そうな顔してられるのよ!」


 カメというよりは、ヒトデのように五体でへばりついているソフィーが泣き言を漏らした。


「なんでって……」


 陽斗と澪は顔を見合わせ、


「「ねえ?」」


 現代人は高いところに慣れている。

 高層ビル、スカ○ツリー、飛行機と高所には事欠かない。

 しかし山にも登ったことさえないソフィーには、これほどの高所は初めてだった。


「不公平よおおおっ!」


 騎乗前の「楽しまないと損よ」という言葉はどこへやら。

 想像より怖かったらしく、目尻に涙を浮かべている。

 ヒナが「ピュイィ……」と心配げに溜まった涙を舐めていた。


『高度を下げよた方がいいかしら?』


 陽斗はうーんと考えこむ。


「……いや必要ない必要ない。あんまり下の人を驚かせたくないし、このままの高度で行ってくれ」


 グラナの言葉はソフィーには聞くことはできない。

 しかし陽斗の言葉からある程度察したようだ。


「ちょ、いま! 低い所を飛んでくれるっていう提案だったんじゃないのぉっ!?」


 ソフィーの叫びはグラナのスピードによって発した端から、遥か後方に溶けていく。


「ハルトのバカぁああああああ~~~っ!」


 ここにも一人、――知らないとはいえ――空属性持ちを根に持った少女が生まれた瞬間だった。

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