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嘘の向こう側  作者: 亀


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第九十四章 終了理由

「旧業務終了理由――詳細」


透は項目を開いた。


画面に、短い文章が表示された。


「業務統合による旧区分終了」


その下に、


「終了後処理――新業務区分へ移管」


「旧記録――保存継続」


「旧名称――参照可能」


と並んでいる。


女が言った。


「普通の移管。」


「そう見える。」


「じゃあ、N―05はなくなったわけじゃない。」


「業務区分としては終了。」


「でも、記録は残る。」


「うん。」


「名前も残る。」


「そう。」


透は画面を見ながら言った。


「だから、古い記録を見た人は、N―05という仕事が今も存在していると思うかもしれない。」


「実際には、N―07に統合されている。」


「そう。」


女は少し考えた。


「じゃあ、名称だけを見ると、時間が止まって見える。」


「その可能性はある。」


透は「旧名称――参照可能」を開いた。


そこには注意書きがあった。


「旧名称は、過去記録との連続性を確保する目的で表示される場合がある。」


女が言った。


「過去と現在をつなぐため。」


「うん。」


「でも、同じ名前が表示されているからといって、同じ業務が今も存在するとは限らない。」


「そう。」


透はノートに書いた。


「名称の継続≠業務の継続」


少し考えてから、


「業務の継続≠担当者の継続」


と続けた。


女がその文字を見た。


「じゃあ、ここまでの話を全部合わせると……」


透は黙って待った。


「N―05がN―07になった。」


「うん。」


「N―07の一部がC―12へ移った。」


「そう。」


「所在関連はS―系統へ分離された。」


「うん。」


「個人識別情報はQ―1へ分離された。」


「そう。」


「でも、旧記録は残った。」


「うん。」


女は少し眉を寄せた。


「一つの仕事が、時間の中で何度も分かれている。」


「そう。」


「そのたびに、古い名前や番号が一部残る。」


「そう。」


「それなら、昔の記録だけを見て現在を判断したら、かなり間違える。」


透は頷いた。


「だから、移管履歴が必要になる。」


女は画面を見た。


「兄が言っていたことと同じ。」


「『旧記録を探すなら、保管場所ではなく、移管表を見る。』」


「うん。」


二人はしばらく黙っていた。


やがて女が言った。


「でも、ここで一つ気になる。」


「何?」


「N―05がN―07に統合された理由。」


透は画面を見た。


「業務統合。」


「それだけ?」


「詳細には、それしか書いてない。」


「何を統合したの?」


透はN―07の旧構成情報を開いた。


そこには、


「N―05――外部照会対応」


「N―06――連絡確認」


「N―08――所在関連処理」


とある。


女が言った。


「三つ。」


「うん。」


「性質が違うように見える。」


「そう。」


「どうして一つにまとめたの?」


透は統合理由を開いた。


「業務窓口の一本化」


「重複処理の削減」


「照会関連業務の一元管理」


女が読んだ。


「窓口を一つにしただけ?」


「そういう説明。」


「じゃあ、内部では別の仕事が残っていた?」


「可能性はある。」


「N―07という一つの番号の中に、複数の仕事が入った。」


「うん。」


女は画面を見た。


「だから、N―07だけを見ても何をしていたのか分からない。」


「そう。」


「N―07は名前ではなく、箱みたいなもの。」


透はその表現を聞いて、少し考えた。


「箱。」


「中に複数の処理がある。」


「たぶん、近い。」


「だから、N―07に関する記録が見つかっても、それだけでは所在確認とは限らない。」


「うん。」


「外部照会かもしれない。」


「うん。」


「連絡確認かもしれない。」


「そう。」


「所在関連かもしれない。」


「うん。」


女は少し笑った。


「じゃあ、今までN―07を見つけるたびに驚いていたのは、意味を一つに決めていたからなんだ。」


透も笑った。


「そうかもしれない。」


そのとき、画面の下に小さな表示があった。


「統合前業務――個別処理区分」


透は開いた。


そこには、N―05、N―06、N―08それぞれの処理区分が残っていた。


N―05。


「外部照会」


N―06。


「連絡確認」


N―08。


「所在関連」


その右側には、


「統合後――N―07」


とだけ書かれている。


しかし、その下に、


「旧処理区分――保持」


という項目があった。


女が言った。


「保持されている。」


「うん。」


「つまり、N―07になったあとも、元の仕事の区別は消えていない。」


「そう。」


「番号だけが一つになった。」


「正確には、管理窓口が一つになった。」


女は少し黙った。


「それなら、同じN―07でも中身が違うことがある。」


「ある。」


「過去のN―07と現在のN―07も。」


「違う可能性がある。」


「だから、番号だけを追うと……」


「同じものを追っているつもりで、別の処理を追うことになる。」


女は頷いた。


透は画面を保存した。


そのとき、旧業務終了理由の中に、もう一つの項目があることに気づいた。


「終了対象外業務」


開く。


そこには、


「個人情報管理」


「担当者管理」


「外部照会原記録」


とあった。


女が言った。


「全部、別に残っている。」


「そう。」


「統合されたのは業務窓口。」


「うん。」


「情報そのものが全部一つになったわけじゃない。」


「そう。」


透はそこで、少しだけ手を止めた。


「これが重要かもしれない。」


「何が?」


「N―07に統合されたからといって、N―05、N―06、N―08に関係する全情報がN―07の中にあるわけじゃない。」


女が黙った。


「仕事が統合されても、情報管理まで全部統合されるとは限らない。」


「だから、Q―1も残る。」


「S―系統も残る。」


「J―3も。」


「M―2も。」


「C―12も。」


透は頷いた。


「一つの業務を追っているつもりでも、実際には複数の管理系統を横断することになる。」


女は椅子に座った。


「……それなら、誰か一人に聞いても分からないわけだ。」


「そういうこと。」


「担当者が嘘をついているからじゃなくて。」


「その人の管理範囲にない。」


「でも、聞く側からすると、『知っているはずなのに教えない』ように見える。」


透は黙った。


それは、これまで何度も起きていた。


知っている人が何かを隠している。


そう見えた。


しかし実際には、


その人が知っている範囲そのものが狭かった可能性もある。


女が言った。


「それって、かなり怖いね。」


「うん。」


「悪意がなくても、情報がつながらない。」


「そう。」


「その結果、誰かが間違った判断をする。」


「うん。」


透はノートを開いた。


そして書いた。


「情報の欠落は、必ずしも隠蔽ではない。」


その下に、


「しかし、欠落が利用されることはある。」


と書いた。


女はその二行を読んだ。


「そこが難しい。」


「うん。」


「本当に知らなかった人と、知っているのに知らないふりをした人を、記録だけで区別できないこともある。」


「そう。」


「だから、言葉だけでは判断できない。」


「処理履歴を見る。」


「業務の線を見る。」


「参照権限を見る。」


「でも、それでも全部は分からない。」


透は頷いた。


「分からないものは残る。」


そのとき、画面に新しい履歴が表示された。


「N―07統合後――旧処理区分参照」


日付は、兄が南区へ入る数日前だった。


参照対象は、


「N―05」


「N―06」


「N―08」


の三つ。


参照者コードは、


「M―2―A」


だった。


女が画面を見た。


「またM―2―A。」


「うん。」


「三つ全部を確認している。」


「そう。」


「何のため?」


透は詳細を開いた。


「確認目的――統合後業務の継続性確認」


女が言った。


「また継続性。」


「うん。」


「でも、ここには個人情報がない。」


「ない。」


「兄の所在もない。」


「そう。」


女は画面を見た。


「じゃあ、この記録は兄を探していたものではない。」


透は少し考えた。


「少なくとも、この記録だけではそう言えない。」


女は苦笑した。


「また。」


「記録の目的は業務継続性。」


「だから、兄個人とは直接関係しない。」


「そう。」


そのとき、透は一つの違和感に気づいた。


N―07統合後の継続性確認。


それが行われた日付は、


兄が南区へ入る数日前。


そして、その後、


兄の「所在確認――不要」。


さらに、


Q―1―117の分離。


S―21―014。


これまで、それぞれ別々に見ていた記録が、時間軸の上に並んだ。


だが、まだ一本の線にはならない。


透はノートを開いた。


そして、初めて「人」の欄を作らずに、日付だけを並べた。


「統合確認」


「分離処理」


「所在確認」


「引継ぎ確認」


「関連照合」


その横に、すべての業務コードを書いた。


N―05。


N―06。


N―08。


N―07。


S―系統。


Q―1。


C―12。


M―2。


女がそれを見て言った。


「これなら、少し違って見える。」


「うん。」


「人が中心じゃない。」


「そう。」


「業務が動いている。」


透は頷いた。


しかし、その時だった。


一覧の一番下に、今まで見ていなかった項目が表示された。


「統合時未移管情報――あり」


透の手が止まった。


女が顔を上げる。


「未移管?」


透はその項目を開こうとした。


しかし、画面には、


「詳細参照権限――別管理」


とだけ表示された。


その下には、


「参照先――J―3」


とある。


透は画面を見つめた。


J―3。


担当者個人情報管理。


だが、「未移管情報」がなぜ担当者情報の管理系統にあるのかは、まだ分からない。


女が静かに言った。


「今度は、人の情報?」


透は答えなかった。


ただ、画面に残された一行を見ていた。


「統合時未移管情報――あり」


仕事が引き継がれた。


情報も分離された。


旧記録も保存された。


それでも、


何か一部だけが、


最初から新しい系統へ移されていなかった。

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