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嘘の向こう側  作者: 亀


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第九十一章 分離対象一覧

「分離後の関連先――確認中」


透は、その文字をしばらく見ていた。


確認中。


完了でもなければ、未処理でもない。


誰かが確認を続けているのか。


それとも、システム上の状態として残されているだけなのか。


それすら、この画面からは分からなかった。


女が言った。


「一覧を開ける?」


「やってみる。」


透は「分離対象一覧――詳細」を選択した。


画面が切り替わった。


最初に表示されたのは、番号の一覧だった。


Q―1―101。


Q―1―102。


Q―1―103。


その後も、いくつもの番号が続いている。


それぞれの横に、


「旧業務区分」


「処理目的」


「分離方式」


「関連業務」


という項目が並んでいた。


透は一つずつ確認していった。


多くは、


「N―08」


「個人識別情報」


「一括処理」


という同じ組み合わせだった。


その中に、Q―1―117があった。


「旧業務区分――N―08」


「処理目的――個人識別情報参照」


「分離方式――一括処理」


「関連業務――N―07」


女が言った。


「他と同じ。」


「うん。」


「特別な記録ではない?」


透は少し考えた。


「今見えている範囲では。」


「じゃあ、兄の記録だと考える理由も弱くなる。」


「そう。」


女は画面を見ながら言った。


「でも、Q―1―117には参照履歴がある。」


「他にもある。」


透は一覧を少し下へ動かした。


Q―1―116。


「参照履歴――あり」


Q―1―118。


「参照履歴――あり」


Q―1―119。


「参照履歴――あり」


女が言った。


「じゃあ、参照されたこと自体も特別じゃない。」


「そうなる。」


透は一覧をさらに広げた。


すると、別の項目が表示された。


「旧参照番号」


Q―1―116――P―4―002。


Q―1―118――P―4―004。


Q―1―119――P―4―005。


そして、


Q―1―117――空欄。


女が指を止めた。


「ここだけ違う。」


「うん。」


「これは意味がある?」


「あるかもしれない。」


「どういう意味?」


「ただ、今の段階では三つくらい考えられる。」


女が黙って待った。


透は指で画面を示した。


「一つ目。旧参照番号が記録されていない。」


「二つ目。」


「分離前の記録に、対応する番号がなかった。」


「三つ目。」


「番号を引き継がない別の処理から登録された。」


女は少し考えた。


「でも、全部推測。」


「そう。」


「確認できる?」


「一覧だけでは無理。」


「じゃあ、どこを見る?」


透は画面の上部にある「登録経路」を開いた。


そこには、


「登録区分――分離後」


「受付区分――業務継続」


「受付経路――既存記録」


「処理先――M―2」


と表示された。


女が言った。


「また既存記録。」


「うん。」


「本人申告ではない。」


「少なくとも、この記録の入口はそうじゃない。」


透はさらに下へ進んだ。


「登録元――分離処理」


「登録担当――該当なし」


「登録方式――一括」


女が画面を見た。


「担当者がいない。」


「システム処理。」


「つまり、誰かが一件ずつ入力したわけじゃない。」


「そう。」


「それなら、Q―1―117だけに誰かの意思が入っているとは考えにくい。」


透は少し考えてから答えた。


「そこまでは言えない。」


「どうして?」


「一括処理でも、元の記録を作った人間がいる可能性はある。」


「なるほど。」


「処理方式と、元記録の作成経緯は別だから。」


女はうなずいた。


透はその言葉をノートに書いた。


「一括処理≠元記録も自動作成。」


それから、Q―1―117の「登録元」をもう一度確認した。


「分離処理」


「元管理区分――第七管理系統」


「旧業務区分――N―08」


その下に、見慣れない項目があった。


「原情報状態――不完全」


透の目が止まった。


「不完全……?」


女も画面を覗き込んだ。


「何が?」


「原情報状態。」


「何が不完全なの?」


透は詳細を開いた。


そこには短い説明があった。


「分離時点において、旧記録との完全な番号対応が確認できない場合に設定。」


二人とも黙った。


透はゆっくり読み直した。


旧記録との完全な番号対応が確認できない。


それだけだった。


女が言った。


「じゃあ、Q―1―117の旧番号が空欄なのは、そのせい?」


「可能性は高い。」


「でも、旧記録そのものがないとは書いてない。」


「そう。」


「番号の対応が確認できないだけ。」


「うん。」


女は画面を見たまま言った。


「だったら、ここから旧記録を探せる?」


透は答えずに、「原情報参照履歴」を開いた。


一件だけ表示された。


「参照目的――旧記録対応確認」


「参照日――分離処理日」


「参照先――M―2」


「参照者コード――M―2―A」


「確認結果――対応情報不足」


透は画面を見た。


「対応情報不足。」


女が繰り返した。


「見つからなかった?」


「そうとは書いてない。」


「じゃあ?」


「対応させるための情報が足りなかった。」


「似ているけど、違う。」


「うん。」


透は少し笑った。


「このシステムは、そこを分けて書いている。」


女は苦笑した。


「人間なら『分からなかった』で済ませるところを。」


「記録はそうしない。」


「何が分からないのかまで残す。」


透は頷いた。


そのとき、女が言った。


「待って。」


「何?」


「M―2―A。」


「うん。」


「Q―1―117を確認したのもM―2―A。」


「そう。」


「旧記録との対応を確認したのもM―2―A。」


透は画面を見た。


「でも、M―2―Aは担当者個人とは限らない。」


「J―3で見つけた。」


「そう。」


「担当者が交代しても、同じ参照者コードを使う。」


透はうなずいた。


「だから、M―2―Aというだけでは、誰が見たかは分からない。」


女はしばらく考えた。


「でも、同じ処理区分が繰り返されていることは分かる。」


「それは分かる。」


「じゃあ、人ではなく処理を追えばいい。」


透はその言葉を聞いて、ノートを閉じた。


「たぶん、それが一番いい。」


女が言った。


「N―07から始まった。」


「うん。」


「N―08が分離された。」


「うん。」


「所在関連はS―系統へ。」


「個人識別情報はQ―1へ。」


「引継ぎ確認はM―2とC―12へ。」


「そう。」


「その途中で、Q―1―117だけ旧番号との対応が確認できなかった。」


透は頷いた。


「そして、その確認をした処理がM―2―A。」


女は画面を見た。


「だったら次は……」


透が続けた。


「M―2―Aが、Q―1―117について何を確認したのかを見る。」


二人はM―2の履歴へ戻った。


検索条件に、


「Q―1―117」


と入力する。


結果は三件だった。


一件目。


「引継ぎ前確認」


二件目。


「旧記録対応確認」


そして三件目。


透はそこで指を止めた。


「分離後関連確認」


女が身を乗り出した。


「何を確認したの?」


透は詳細を開いた。


そこには、


「確認対象――Q―1―117」


「確認目的――関連情報の存在確認」


「関連業務コード――N―07」


「関連管理区分――S―系統」


とあった。


そして最後に、


「結果――関連情報あり」


とだけ記されていた。


女が言った。


「関連情報がある。」


「うん。」


「S―系統に。」


「そう。」


「じゃあ、S―21―014?」


透は答えなかった。


「ここには番号が書いてない。」


「でも、S―系統。」


「そう。」


「関連業務はN―07。」


「そう。」


女は画面を見つめた。


「かなり近い。」


透は静かに言った。


「近いからこそ、慎重に見ないといけない。」


「またそれ?」


「今まで、近いものを同じものにしてきた。」


女は何も言わなかった。


透は検索結果を閉じた。


その代わりに、M―2の管理規則を開いた。


そこには、


「関連情報あり――同一対象を意味しない」


という注意書きがあった。


二人とも、その一文を見た。


透は小さく息を吐いた。


「最初から書いてある。」


女が言った。


「何を?」


「関連していることと、同一であることは別だって。」


しばらく、誰も話さなかった。


そして透は、S―系統の関連情報を開いた。


そこには一つだけ、未表示の記録があった。


「関連記録――S―21―014」


その下に、


「照合状態――条件確認中」


と表示されていた。


透は画面を見つめた。


S―21―014。


Q―1―117。


同じN―07。


同じC―12。


そして、正式な関連記録。


だが、まだ「同一人物」とは書かれていない。


透は検索欄に手を置いた。


次に確認するべきものが、ようやく一つに絞られた。


「照合状態――条件確認中」


その条件が何なのか。


それを見れば、


この二つの記録が何によって結びつけられたのかが分かる。


そして、それが分かれば、


兄の「所在確認――不要」と、どこまで比較できるのかも見えてくるかもしれなかった。

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