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嘘の向こう側  作者: 亀


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第九十章 処理目的

第九十章 処理目的


「分離理由――詳細」


透は画面を開いた。


表示されるまで、少し時間がかかった。


やがて、いくつかの項目が並んだ。


「所在関連処理」


「個人識別情報管理」


「業務継続処理」


その下に、それぞれの処理目的が記されていた。


「所在関連処理――所在に関する照会、確認、継続処理」


「個人識別情報管理――対象情報の識別、照合、更新」


「業務継続処理――引継ぎ、処理継続、旧記録確認」


透は画面を見たまま、しばらく動かなかった。


女が言った。


「三つに分かれている。」


「うん。」


「だから、分離した。」


「少なくとも、この記録ではそう読める。」


透は一つ前の画面に戻った。


N―08。


そこには、以前の業務名として「所在関連処理」と書かれていた。


その一部がS―系統へ移されている。


一方、個人識別情報はQ―1へ分離された。


そして、業務の引継ぎや旧記録の確認は、M―2やC―12側に残っている。


「つまり……」


女が言葉を選ぶ。


「一つの仕事の中にあった情報を、そのまま一つの記録として残さなくなった?」


「たぶん。」


「どうして?」


透は画面を見ながら答えた。


「目的が違うから。」


女は黙った。


透は続けた。


「所在を確認するための記録と、誰の情報なのかを識別する記録と、仕事を引き継ぐための記録は、必要な情報が違う。」


「だから、同じ人についての情報でも、別々に管理できる。」


「そう。」


「逆に言えば……」


女が画面を指した。


「同じ人の情報が、別々の記録に分かれていることもある。」


「ある。」


「じゃあ、記録が別れているからといって、その人との関係がなくなったとは限らない。」


透はうなずいた。


「でも、その逆もある。」


「逆?」


「別々の記録に似た情報があるからといって、同じ人だとも限らない。」


女は少し笑った。


「またそこに戻る。」


「何度も戻ったほうがいいと思う。」


透はそう言って、画面を閉じなかった。


これまで何度も、同じ番号や同じ名前を見つけるたびに、それを一本の線にしようとしてきた。


だが、記録を作る側から見れば、最初から一本の線ではなかった可能性がある。


業務の線。


個人情報の線。


引継ぎの線。


旧記録の線。


それぞれが別の目的で作られている。


透はノートを開いた。


そこに書いた。


「同じ対象でも、処理目的が違えば、記録は分かれる。」


少し考えてから、その下にもう一行を書いた。


「記録が分かれていること自体を、隠蔽の証拠にしない。」


女がその文章を読んだ。


「ずいぶん慎重になったね。」


「慎重というより……」


透はペンを止めた。


「前に、勝手につなげていたから。」


女は何も言わなかった。


しばらくして、透はQ―1―117を開いた。


「処理目的――個人識別情報参照」


「登録区分――分離後」


「原記録区分――旧個人照会履歴」


「参照履歴――あり」


「旧参照番号――空欄」


女が言った。


「やっぱり、旧番号がない。」


「うん。」


「P―4―003とは直接つながらない。」


「少なくとも、番号ではつながらない。」


透はQ―1の管理規則をもう一度確認した。


そこには、分離後の個人識別情報について、


「旧業務番号を継続して保持しない場合がある」


と書かれていた。


つまり、旧番号が空欄だからといって、旧記録が存在しなかったとは限らない。


一方で、旧番号がない以上、P―4―003からQ―1―117までを直接たどることもできない。


「切れている。」


女が言った。


「完全に?」


「いや。」


透は答えた。


「番号の線が切れているだけかもしれない。」


「じゃあ、別の線がある?」


「それを探している。」


二人はしばらく画面を見ていた。


やがて、透は「参照履歴」を開いた。


そこには、以前見つけた記録があった。


「参照目的――引継ぎ前確認」


「参照者コード――M―2―A」


「関連業務コード――N―07」


「移管先――C―12」


そして、


「参照対象――Q―1―117」


女が画面を見つめる。


「ここでもN―07。」


「そう。」


「C―12もある。」


「うん。」


「でも、所在確認とは書いていない。」


透は答えなかった。


そこが重要だった。


Q―1―117が参照された理由は、少なくともこの記録上では「所在確認」ではない。


「引継ぎ前確認」。


その言葉が使われている。


透は一度画面を閉じた。


そして、S―系統の記録を開いた。


S―21―014。


「所在確認――不要」


「受付区分――本人申告」


「K―14」


「T―2」


その記録を見たあと、透は再びQ―1―117に戻った。


二つを並べてみる。


片方は所在関連。


もう片方は個人識別情報。


片方には「本人申告」。


もう片方には「既存記録」。


片方にはK―14。


もう片方にはM―2―A。


一見すると、かなり違っている。


しかし、N―07とC―12という業務上の線は残っている。


女が言った。


「同じ人について、二種類の記録が作られた可能性は?」


「ある。」


「別の人の記録が、同じ業務の中で処理された可能性は?」


「それもある。」


「じゃあ、今のところは決められない。」


「うん。」


透はそう答えた。


その瞬間だった。


画面の下部に、小さな項目があることに気づいた。


「分離後参照条件」


透はそれを開いた。


表示されたのは、次の四項目だった。


「登録番号」


「氏名表記」


「生年月日」


「所属区分」


その下に、


「照合方式――自動照合」


とあった。


透の手が止まった。


Q―1―117について以前見つけた記録と同じだった。


「確認結果――一致」


「確認者――該当なし」


女が言った。


「また『一致』。」


「うん。」


「でも、今回は何と何が一致したのかが書いてある。」


透は四つの項目を見た。


登録番号。


氏名表記。


生年月日。


所属区分。


「一致したのは、この四つ。」


「人そのものじゃない。」


「そう。」


「記録上の項目。」


「そういうことになる。」


女は黙った。


透はさらに下へスクロールした。


そこに、別の注意事項があった。


「自動照合結果は、本人の現存確認を意味しない。」


透は何度か読み返した。


「……これだ。」


「何?」


「『一致』の意味が書いてある。」


女が画面を見る。


二人とも、しばらく黙った。


これまで「一致」という言葉だけを追っていた。


しかし、システム側は最初から、それが「本人の現存確認」ではないと明記していた。


透はノートに書いた。


「一致――指定項目の一致。」


その下に、


「現存確認――別処理。」


と書いた。


女が言った。


「つまり、Q―1―117が誰かを確認した記録ではなく、登録情報同士を照合した記録かもしれない。」


「そう。」


「それなら、『本人確認済』という古いP―4の記録とも、同じ意味とは限らない。」


透は顔を上げた。


「……そこだ。」


「何?」


「P―4ではK―14による『本人確認済』だった。」


「うん。」


「Q―1では自動照合による『一致』。」


「同じ『確認』でも、処理方法が違う。」


「だから、同じ言葉に見えても、同じ意味とは限らない。」


女は静かにうなずいた。


透は画面を閉じようとした。


そのとき、さらに一つの記録が目に入った。


「関連照合履歴」


そこに、日付があった。


兄の「所在確認――不要」が登録された三日前。


透は指を止めた。


女も見た。


「また三日前。」


「うん。」


「でも、前にも同じ日付が出ていた。」


「そう。」


透はその日付をじっと見た。


同じ日付。


同じN―07。


同じC―12。


だが、それだけではまだ足りない。


彼は以前なら、ここで一つの結論を作っていた。


しかし、今回は違った。


「この日付が重要なのか、それとも……」


「一括処理の日付なのか。」


女が続けた。


透はうなずいた。


「そこを確認しないといけない。」


二人は「分離処理日」の記録へ戻った。


そこには小さく、


「処理方式――一括処理」


と書かれていた。


透は画面を見た。


そして、初めて気づいた。


「一括……。」


女も同じ文字を見ていた。


「じゃあ、三日前に処理されたのは、兄の記録だけじゃない。」


「そう。」


「複数の記録が同じ日に分離された可能性がある。」


「うん。」


その下には、


「対象件数――複数」


とだけ書かれていた。


具体的な件数は表示されていない。


透は椅子に座り直した。


三日前という数字が、少しだけ違って見えた。


それは兄のために設定された日付ではないかもしれない。


システム全体の変更日だった可能性がある。


もちろん、兄の記録がその処理に含まれていないとも言えない。


だが、


「兄のために分離された」


とは、もう言えなかった。


透はノートを開き、今まで書いた線を一つずつ見た。


N―08。


S―系統。


Q―1。


P―4。


M―2。


C―12。


N―07。


そして、兄の「所在確認――不要」。


線は増えていた。


だが、確定した線は増えていない。


それでも、透は以前ほど焦らなかった。


分からないものを、分からないまま置いておく。


それも調査の一部なのだと、少しずつ分かってきたからだ。


そのとき、画面の端に一つだけ未確認の項目が残っていることに気づいた。


「分離対象一覧――詳細」


透はそれを開いた。


一覧には、いくつもの記録番号が並んでいた。


その中に、


「Q―1―117」


があった。


しかし、その隣には名前も住所もなかった。


ただ一つ、


「旧業務区分――N―08」


とだけ記されていた。


透は画面を見つめた。


そして、次のページを開いた。


そこには、まだ一つだけ空欄が残っていた。


「分離後の関連先――確認中」


透は、その文字をしばらく見ていた。


まだ、終わっていない。


むしろ、


ここからだった。

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