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嘘の向こう側  作者: 亀


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第八十九章 旧名称

N―05。


透は、その番号を見つめた。


N―07の前に存在していた業務コード。


そして、そのN―05に関連する「旧名称継続記録」。


画面を開く。


最初に表示されたのは、名称そのものではなかった。


「名称区分――旧業務名称」


「使用状態――継続」


「業務コード変更――あり」


「名称変更――なし」


透は一つずつ読んだ。


女が言った。


「N―05からN―07に変わった」


「うん」


「でも、名前は変わらなかった」


「そう」


「つまり、業務コードが変わっても、外から見える名前はそのままだった」


透は頷いた。


その下に、もう一つ項目がある。


「変更理由――業務統合」


女が読む。


「業務統合」


「うん」


「N―05の仕事が、そのままN―07になったとは限らない」


透は少し考えた。


「複数の業務がまとめられた可能性がある」


「そう」


「だから、N―05の記録全部がN―07に移ったわけじゃないかもしれない」


「うん」


また、番号だけでは追えなくなった。


透は画面を下へ送った。


「統合元業務」


そこには三つのコードが並んでいた。


N―05。


N―06。


N―08。


そして、


「統合後業務――N―07」


女が黙った。


「N―07は、N―05だけからできたわけじゃない」


「そう」


「N―06とN―08も入っている」


「うん」


透は少し椅子にもたれた。


今までN―07を一本の線として見ていた。


しかし、その線は最初から一本ではなかった。


複数の旧業務が統合されて、一つの業務コードになっている。


だから、N―07の記録を見ただけでは、その前身がどれだったのか分からない。


「これなら、同じN―07に違う名前があった理由も説明できる」


女が言った。


「違う業務が統合されたから?」


「それも一つの可能性」


「一つのコードに、複数の仕事が入った」


「そう」


透は統合記録を保存した。


そして、N―06を開いた。


すると、N―06にも旧名称があった。


「名称継続――あり」


N―08にもあった。


「名称継続――あり」


透は画面を見比べた。


「全部、名前を残している」


女が言った。


「うん」


「じゃあ、N―07の名前だけを見ても、その名前がどの旧業務から来たのか分からない」


「そう」


透は少し考えた。


「だから、名前が二つあったんじゃない」


女が振り向く。


「どういうこと?」


「N―05とN―06とN―08、それぞれに旧名称があって、それがN―07に統合された」


「つまり、N―07の中に複数の名称が残った?」


「可能性がある」


「だから、あの紙に二つの名前が並んでいた」


透は頷きかけて、止まった。


「……まだ分からない」


女が笑った。


「今、言い切りそうだった」


「危なかった」


二人は少しだけ笑った。


しかし、すぐに画面へ戻った。


統合履歴には、さらに重要な項目があった。


「旧名称の扱い――参照可能」


透が読む。


「削除じゃない」


「うん」


「名前は残っている」


「そう」


「でも、現行名称ではない」


「うん」


女は画面を見た。


「それなら、古い記録に残っている名前を見て、『今もその名前で仕事をしている』と思ったら間違う」


「そうなる」


透は一行書いた。


「旧名称が残ることと、旧業務が残ることを分ける。」


そのとき、女が別の項目を見つけた。


「統合後の参照履歴」


開く。


一件目。


参照対象――N―05。


参照目的――統合前確認。


二件目。


参照対象――N―06。


参照目的――統合前確認。


三件目。


参照対象――N―08。


参照目的――統合前確認。


四件目。


参照対象――N―07。


参照目的――統合後確認。


透は日付を見る。


「全部、同じ期間」


「うん」


「でも、N―07だけ少し後」


女が頷く。


「統合してから確認した」


「そう」


その記録には、


「旧名称参照――必要」


と書かれていた。


透はそこを指した。


「旧名称を見る必要があった」


「何のため?」


「引継ぎ」


女は答えた。


「たぶん」


透は頷いた。


そのとき、さらに下に小さな項目が表示された。


「旧名称参照理由――利用者照会への継続対応」


二人は黙った。


「利用者」


女が言った。


「担当者じゃない」


「うん」


「名前を変えると、外部の人が分からなくなるから?」


「そういう意味かもしれない」


透は記録を見た。


つまり、名称が残される理由は、担当者が同じだからではない。


仕事を受ける側や問い合わせる側が、以前と同じ名称を使うからかもしれない。


人が変わっても。


業務コードが変わっても。


管理系統が変わっても。


外から見える名前を残す。


それなら、名前を追っても人には辿り着けない。


むしろ、名前を追うことで、過去の役割を現在の人物だと誤認する可能性がある。


透は静かに言った。


「名前は、人を隠すために使われているわけじゃない」


女が見る。


「じゃあ?」


「人を示すために使われているとも限らない」


「仕事を続けるために残されている」


「うん」


その言葉は、以前よりも具体的になっていた。


名前。


仕事。


担当者。


それぞれが別の線にある。


そして、必要なときだけ交差する。


女は統合履歴を閉じた。


「じゃあ、N―05の担当者は?」


透は首を横に振った。


「J―3」


「別管理」


「うん」


「N―06とN―08も?」


「たぶん同じ」


「じゃあ、三つの旧業務を誰が担当していたかは、今の記録だけでは分からない」


「そう」


「でも、N―07への統合は確認できる」


「うん」


女は少し考えた。


「なら、次に見るべきなのは担当者じゃない」


「何?」


「統合された業務の中身」


透は画面を見た。


N―05。


N―06。


N―08。


それぞれの業務内容が表示される。


N―05――外部照会対応。


N―06――連絡確認。


N―08――所在関連処理。


透の目が止まった。


「N―08」


「所在関連」


「N―07に統合された」


「うん」


「そして、N―07にも所在・照会関連処理がある」


「そう」


女は画面を見たまま言った。


「だから、N―07が所在確認だけを意味するわけじゃない」


「うん」


「でも、所在関連の仕事を含んでいることは確か」


「そう」


ここで初めて、N―07の意味が少しだけ具体的になった。


それは「一つの処理」ではない。


複数の旧業務を統合した管理上の区分。


その中には、


外部照会。


連絡確認。


所在関連。


そうした複数の仕事が含まれている。


透は兄の「所在確認:不要」を見直した。


そして、N―07を見る。


同じコードがある。


しかし、同じ処理ではない。


「これなら……」


女が言いかけた。


透は先に答えた。


「兄の記録がN―07だったとしても、それだけで所在関連の処理だったとは言えない」


「うん」


「N―07の中に複数の業務があるから」


「そう」


女は少し黙った。


「じゃあ、今までN―07を見つけるたびに、『兄の所在』と結びつけていたのは……」


「記録の構造を一段飛ばしていた」


透はそう言った。


「N―07は入口だった」


「でも、入口の先に複数の仕事がある」


「うん」


二人は画面を見つめた。


そして、透は一つの記録を開いた。


N―08。


所在関連処理。


そこに、別の管理区分が表示されていた。


「現行対応――S―系統」


透の手が止まる。


S―系統。


以前見つけた記録。


S―21―014。


「ここにつながる」


女が言った。


「でも、S―21―014が兄の記録だとは限らない」


「うん」


「ただ、N―08からS―系統へ続く線はある」


「そう」


透はN―08からS―系統への移管履歴を開いた。


すると、移管理由の欄に、


「所在関連処理の分離」


と書かれていた。


そして、その下には、


「個人識別情報――Q―1へ分離」


とあった。


透と女は、同時に画面を見た。


Q―1。


また戻ってきた。


しかし今度は、少し違う。


Q―1はN―07そのものから直接生まれたのではない。


複数の業務が統合され、そこからさらに一部の処理が分離され、その過程で個人識別情報がQ―1へ分かれている。


透は静かに言った。


「記録が一本じゃない理由が、少し見えてきた」


女は頷いた。


「最初から一本じゃなかった」


「うん」


「途中で統合されて、また分離されている」


「そう」


そして、画面の下に新しい項目があった。


「分離前業務――N―08」


「分離後管理――S―系統」


「個人識別情報――Q―1」


そのさらに下。


「分離処理日――兄の『所在確認:不要』の三日前」


透は動かなかった。


女も動かなかった。


三日前。


これまで何度も出てきた日付。


M―2―024。


Q―1―117。


N―07。


そして、今度はN―08からS―系統への分離。


透はその日付を見ながら、静かに言った。


「同じ日に、複数の処理が動いている」


女が頷く。


「でも、まだ一つの出来事とは言えない」


「うん」


「だから、次は分離された理由を見る」


透は画面の項目を開いた。


「分離理由」


そこには、短い言葉だけが残っていた。


「処理目的の相違。」


透はその四文字を見た。


そして、初めて気づいた。


同じ情報が分かれていったのは、記録を隠すためとは限らない。


そもそも、違う目的で使う情報を同じ場所に置かないためだった可能性がある。


透は、その意味を確かめるために、


「処理目的の相違――詳細」


を開いた。

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