↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘の向こう側  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/590

第七十九章 分離された記録

「M―2」


女性が、もう一度その文字を読んだ。


「P―4から分離された先が、M―2」


「記録上は、そうなっています」


透は画面を見た。


「でも、これだけでP―4―003がM―2に移ったとは言えません」


女性は黙っている。


「分離されたのは、P―4の一部です」


「その一部に003が含まれていたかは、まだ分からない」


「はい」


透は変更履歴を上から追った。


分離開始日。


対象業務。


分離理由。


新管理区分。


旧番号の扱い。


そこまでは確認できる。


しかし、肝心の対象番号一覧だけがなかった。


「ここが空いてる」


女性が言った。


「対象範囲?」


「そう」


「何も書かれていない」


透は画面を拡大した。


小さな注記があった。


『個別対象については、分離対象一覧を参照。』


「別の資料ですね」


「うん」


検索欄に、


「分離対象一覧」


と入力する。


結果は一件だけだった。


ファイル名には日付が付いている。


かなり古い。


女性が開こうとした。


しかし、画面に警告が出た。


『現行権限では閲覧できません。』


「また」


女性が言った。


透は苦笑した。


「最近、見られないものが増えてきましたね」


「それだけ、古い記録を追ってるってことかもしれない」


「そうですね」


二人は画面を閉じなかった。


「権限申請は?」


「できるかもしれない」


「どこから?」


女性が申請画面を開いた。


そこには申請理由を入力する欄があった。


透はしばらく考えた。


「『兄を探すため』とは書かない方がいい」


女性が顔を上げた。


「どうして?」


「それだと、個人の所在確認が目的だと思われる」


「実際そうでしょう」


「でも、今確認したいのは、人じゃなくて記録の移動です」


女性は黙った。


「分離対象一覧を見れば、P―4―003がどこへ行ったか分かるかもしれない」


「でも、それは兄の記録かもしれない」


「かもしれない」


透は頷いた。


「だから、先に兄だと決めない」


女性はしばらく画面を見た。


やがて、申請理由を書き始めた。


「旧管理区分から分離された記録の管理先確認」


透はそれを見た。


「それならいいと思います」


「あなた、ずいぶん慎重になったね」


「そうしないと、記録の方が自分の考えに合わせてくるから」


女性は少しだけ笑った。


「記録が合わせてくる?」


「違いますね」


透も笑った。


「自分が合わせてしまう」


申請を送信した。


すぐには結果が出なかった。


画面には、


「申請受付済」


とだけ表示された。


「待つしかない」


女性が言った。


「その間に、別のところを見ましょう」


透は頷いた。


M―2の現在の管理区分一覧を開く。


そこには複数の処理が並んでいた。


原記録参照。


旧資料確認。


移管前確認。


照会履歴確認。


そして、もう一つ。


「分離記録確認」


女性が読み上げた。


「これ」


透が指を差した。


「今まで出ていませんでした」


「分離された記録を確認する処理」


「たぶん」


「また、たぶん」


「まだ説明書がないので」


二人は「分離記録確認」の項目を開いた。


処理目的は、


「旧管理区分における参照履歴と、現管理区分における参照対象の対応確認」


と書かれていた。


透はゆっくり読んだ。


「参照履歴と、参照対象の対応」


女性が言った。


「つまり?」


「P―4で誰かが何かを照会した記録と、M―2で何を参照するのかを対応させる処理」


「それなら、P―4―003が見つかる?」


「可能性はあります」


透は記録を探した。


「分離記録確認」の履歴。


日付。


処理番号。


旧管理区分。


新管理区分。


旧番号。


新参照番号。


そして、確認結果。


いくつかの記録が表示された。


P―4―001。


対応先――M―2―041。


P―4―002。


対応先――M―2―042。


P―4―004。


対応先――M―2―044。


透の指が止まった。


「001、002、004……」


女性も気づいた。


「003だけない」


「はい」


「また同じ」


「でも、今回は少し違います」


「何が?」


「M―2側の番号が分かりました」


001は041。


002は042。


004は044。


つまり、P―4の番号とM―2の番号は同じではない。


それでも対応関係は存在している。


透は画面を見た。


「じゃあ、003にも別の番号があるはず」


「でも、ここにはない」


「はい」


「ということは?」


「分離されていない?」


女性が言った。


透は首を横に振った。


「それも分かりません」


「じゃあ、どう考える?」


「分離先がM―2ではない可能性があります」


女性は黙った。


「でも、さっきの変更履歴ではM―2になっていた」


「P―4の一部はM―2へ分離された」


「全部ではない」


「そうです」


透は画面を見つめた。


「003だけ別の場所に分離された可能性があります」


「どこ?」


「それを探す必要があります」


そのとき、申請画面の通知が更新された。


女性が開く。


「閲覧申請」


透が近づいた。


「通った?」


「違う」


女性が画面を読む。


「『分離対象一覧は、個人情報を含むため、通常の旧記録照会権限では閲覧不可』」


透は黙った。


その下に、別の一文があった。


『個人識別情報を含まない対象範囲確認については、管理区分照会を利用すること。』


「管理区分照会」


透が言った。


「また別の入口」


「うん」


女性は少し疲れたように椅子に座った。


「どうして、こんなに分かれているんだろう」


透は答えなかった。


それが制度として合理的なのか。


逆に複雑すぎるのか。


今の二人には判断できない。


ただ、一つだけ分かっていた。


同じ記録を見ても、


業務を確認する入口。


個人を確認する入口。


旧記録を確認する入口。


分離先を確認する入口。


それぞれが違う。


そして、入口が違えば、見えるものも違う。


透は画面の「管理区分照会」を見た。


「これを見れば、003がどこへ行ったかだけ分かるかもしれない」


「人の情報は?」


「見えない」


「なら、今はそれでいい」


女性は頷いた。


申請画面を閉じる。


二人は次の検索を始めた。


「管理区分照会」


検索結果が表示される。


その中に、一件だけ見覚えのない区分があった。


「M―2」


ではない。


「Q―1」


透は画面を見つめた。


説明欄には、短くこう書かれていた。


『分離後個人識別情報の参照管理』


女性が小さく息を吸った。


「個人識別情報……」


透はその言葉を繰り返した。


そして、画面の下を見る。


Q―1。


その管理区分には、


「旧番号を保持しない」


という注記が付いていた。


透はしばらく動かなかった。


P―4―003。


M―2。


Q―1。


三つの記録が、まだ一本の線にはなっていない。


けれど今度は、


「003が消えた」


という見方だけでは説明できない可能性が出てきた。


透は静かに言った。


「番号が消えたんじゃない」


女性が見る。


「管理の場所が変わっただけかもしれない」


「でも、場所とは限らない」


透は頷いた。


「そうでした」


画面には、Q―1という新しい文字が残っていた。


その先に何があるのか。


二人には、まだ分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。